第05話 騎士団創設
第02節 国家の建設〔1/4〕
(注:第01節と第02節は、会議室を舞台に進行します。退屈かもしれませんが、ご了承願います)
現在ネオハティスの町に、合法的な武装組織は二つ存在している。
一つは冒険者ギルド、もう一つは町役場の衛士達である(両者を兼ねる場合もあるが)。これを踏まえて整理する。
「整理って、どういうこと?」
規模縮小を危惧した、冒険者ギルドのギルドマスターが疑問の声を上げる。
「要するに、住み分けだよ。冒険者と、兵士の。
冒険者は、魔物と戦うのが仕事。
兵士は、人間と戦うのが仕事。
勿論、例外もあるけどね」
例えば、商隊の護衛依頼。これは当然、冒険者たちは道中の魔物の襲撃に備えるが、同時に盗賊どもの襲撃も警戒する。
一方で魔物の大氾濫の際は、その進路上に人間の住む町があるのなら兵士や騎士も戦闘に参加する。
「それにより、武装集団を大きく四つに再編する。
一つ目は、冒険者による森の警邏隊。『森林警備隊』とでも呼ぶかな? 魔物の動向と町の外での冒険者による無道行為に対する監視が主任務だ。
二つ目は、町中の警邏を行う、『警察隊』。町の治安維持が主任務で、こっちは冒険者と兵士両方から派遣される形の方が良いと思う。
三つ目は、軍の予備隊。通常時は一定時間数の訓練のみ義務付けた上で自分たちの仕事をしてもらい、有事には軍の一員として戦争に参加してもらう。
四つ目は、常設軍。こちらも騎士、兵士、特務、といった具合に立場を分ける。
重要なのは、軍は志願制以外取るつもりはないということと、たとえ有事と雖も冒険者を徴兵するつもりはないということだ。軍の予備隊に登録したうえで冒険者稼業をするのは、その人の選択だけどね。
そしてこれらの公設武装集団は、有事の武装も公務用の制服も、全てこちらで支給する。つまり武装や服装を見れば、そうであることがはっきりわかるようにするんだ」
「でも冒険者は自分の武装を自分で整えているから、支給された武具には見向きもしないかもよ?」
「森林警備隊は、竜翼皮膜製のマントと、現在シンディたちが開発している神聖鉄合金製の剣を支給する」
「……ヒヒイロカネ合金製の剣って、何?」
「ヒヒイロカネと、高温還元鉄と、大鬼の角の粉末を主成分とした合金だ。強度はヒヒイロカネには劣るけど、靭性は飛竜の爪に準ずる。副武器には良い素材だよ」
「……それに竜翼皮膜製のマント、ですか」
「そっちは警察隊や軍にも標準で支給するつもりだ」
「素材レベルで非常識なことをするんだろうな、ってはじめから想像してたけど、それ以上だわね」
「但し、支給って言ったけど、正しくは『貸与』だね。ちゃんと返してもらうよ」
「それは、当然ね」
「続いて警察隊。
こちらは樹妖製の『刺叉』と、鉄製の『十手』を支給する」
「『刺叉』? 『十手』?」
「『刺叉』は先端がU字型になっている長柄武器だ。突き刺すのではなく、そのU字の叉の部分で相手を抑え込む為の武器。
『十手』は警棒の脇に相手の武器を抑え込む為の鉄製の鉤を付けたもの。
どちらも相手を抑え込むことを優先した武器だ」
「不思議な武器を知っているのね」
「予備隊。こちらは蟻甲鎧と蟻槍を貸与する。副武器はヒヒイロカネ合金製の小剣で、弩の射撃訓練をしてもらう」
「噂の蟻鬼素材、ね」
あの後、スノーが凍結させた水を使い解凍(潜熱)と再凍結で残存の蟻鬼を掃討した上で、その巣穴から大量の素材をゲットしてきた。槍だけで八万本を超え、外骨格に大きな傷が無い蟻鬼の死体は六万体近く確保出来た。
「そして常設軍。こちらは、騎士隊二団、歩兵隊二団、特務隊一団の計五団組織する。
騎士隊は、名付けて『有翼騎士団』と『有角騎士団』だ」
「有翼と有角? その名称の由来は?」
「有翼獅子と一角獣を、DMの権能で指揮下に置く。但し、『完全支配』じゃなく『要請』に留めるから、これら騎士団に配属されるのは、グリフォンまたはユニコーンに認められた人材のみ、ということになる」
「グリフォンとユニコーンを、戦力に組み込む……」
魔物を従える。それは、カナン帝国時代から、各国歴代の為政者たちが夢見たこと。そして、挫折し諦念した夢。しかし、俺たちの国は、当然のこととしてそれが実現出来る。
「話を戻すけど、『有翼騎士団』は、けれど女性騎士団にするつもり。原則として、男性の入団は認めない」
「何故?」
「武装は魔力銃と投下式爆弾。接近戦はしないどころか弓矢の射程の外から、届かない高度からの一方的な攻撃のみを行う。
返り血を浴びる距離での打ち合いは、だから必要ない」
「……反撃を受けない距離からの、一方的な攻撃。それは既に、戦争とは言わないんじゃないか?」
同席したアリシアの呟き。
「そうだね。だから有翼騎士団の投入は、慎重に行う必要がある。もっとも、俺の想定通りなら、有翼騎士団の主任務は全く別のモノになるだろうけれどね」
「別のモノ? それは?」
「今は内緒。秘密って訳じゃないけど、百聞は一見に如かずっていうからね」
「なら取り敢えず納得しよう」
「次いで『有角騎士団』。こちらは男女の区別はない。というか、騎士団長はルビーで確定だし」
「私で確定、なのか」
「『有角騎士団』はこの国の花形で、正面戦力だ。竜翼皮膜製の馬鎧を着せたユニコーンに跨る騎士たちは、見栄えも考えてもらう。
武具は鉄製の騎乗槍とヒヒイロカネ合金製の騎士剣、竜鱗を貼り付けた楯に、金属鎧。それに竜翼皮膜製のマントを纏う。兜飾りも考えた方が良いだろうな」
「あれ、重くて嫌なのよね」
「ま、儀式用だからね。
歩兵隊第一隊。名付けて、『ゴブリンエリート隊』」
「……何故小鬼?」
ルビーの疑問に対し、
「俺たちハティスの民には、馴染み深いんだよ。
ハティス近郊に集落を持っていたゴブリンは、嵩が百かそこらで、それも防衛戦にお世辞にも向いているとはいえない村を拠点にして、スイザリア軍二万五千を三日に亘って足止めした。ハティスの民が避難する時間を稼ぐ為に。
攻め、勝ち、殺す戦いじゃなく、逃げず、負けず、守り抜く戦い。
国を守る戦士としては、理想の姿だよ。
だから、ゴブリンエリート隊は俺が直接指揮を執る。所謂近衛隊だな。
通常武装は、蟻甲鎧と蟻槍、副武器はヒヒイロカネ合金製の小剣。そして魔力銃」
「予備隊がクロスボウで、ゴブリンエリート隊が魔力銃、か」
「予備隊にも魔力銃の使い方は教えるけどね」
こうして俺たちは、新たな国の軍備について認識を深めていくことになる。
(2,552文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2016/09/02初稿 2017/07/31投稿予約 2017/09/18 07:00掲載 2021/04/18読点の位置修正)
・ ヒヒイロカネ合金は、純ヒヒイロカネ鋼より強度に劣る一方靭性に勝ります。つまり、打ち合うには純ヒヒイロカネ鋼の方が秀でているけど、肉を斬り骨を断つ為にはヒヒイロカネ合金の方が切れ味が良いということです。よって、料理人と冒険者向けの素材ということに。
・ ちなみに、グリフォンにとってユニコーンは餌(好物)です。だから有翼騎士団と有角騎士団の運用は、そのあたりも踏まえて配慮する必要があります。なお、有翼騎士団が女性騎士団、ということに関しては、別の(実利的な)理由もあります。それについては、いずれ。
・ 有翼騎士団が女性騎士団で男性の入団を認めないように、ゴブリンエリート隊は男性のみで構成し、女性の入隊を認めません。これはアディのこだわりですが。




