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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
最終章:「国王陛下は人類学者!?」
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第03話 技術と社会

第01節 余波ときざし〔3/4〕

(注:第01節と第02節は、会議室を舞台に進行します。退屈かもしれませんが、ご了承願います)

 疑うまでもなく、今このネオハティスで最も忙しいのは鍛冶師ギルドの連中である。


 俺やサリアの前世知識(チート)を活用する為には技術者の協力が不可欠でありながら、俺もサリアも技術者ではない。

 結果、俺たちの不完全・不十分(どころか(かたよ)った・浅薄な)知識を基に、研究と考察・試行(しこう)錯誤(さくご)を重ねて実用的なものにしなければならないのだ。その為時間も人手(ひとで)も、幾らあっても足りないというのが現状である。

 にもかかわらず、そこにまた(俺から)新たな注文が入ってくるのだから、前世日本のブラック企業並みの待遇で彼らは働かされていることになる(最下位の労働奴隷の方がまだ恵まれている、とシンディがベッドでぼやいていた。実際、労働力不足を奴隷で(おぎな)おうとしたところ、下級奴隷は「報酬と労働量が合致しない」と言い、上級奴隷は「単純労働はしたくない」と言い、どちらにも断られている)。


 けれど、「技術者は国や社会をも設計する」と言われるように、これから作る国の基盤は彼らの技術力に()かっている。もう(しばら)く頑張ってほしと思う。


◇◆◇ ◆◇◆


 現在、鍛冶師ギルドで核心的に開発しているものが二つある。

 一つ目は、「ガラス製品」。


 これは完全に俺の失態なのだが、当初から前世知識(チート)を活用してガラス製品を開発することは予定していた。その為の原料も事前に(そろ)えていた。

 しかし俺は、それを「芸術品」と認識し、優先順位を低く見積もっていたのだ。


 ところが測量を始めたことで、「望遠鏡」や「双眼鏡」などの光学観測機器が必要になった。そしてその為には、「レンズ」を開発する必要があるのである。


 この時代の技術では、真球を量産することは不可能に近い。だからこそ、真球に近く磨いた石は、宝石でなくただの石であったとしてもかなりの価格で取引される。

 が、これはつまり、一定曲率の凹レンズや凸レンズを作ることが非常に難しい、ということになる。

 凹レンズや凸レンズ自体は、職人技術で作ることは出来るだろう。が、例えば双眼鏡は、左右両方のレンズの曲率は同じでなければ使い物にならない。

 その為、曲率を合わせる為に、光の屈折を利用することにした。

 「輝光石」(俺たちがこれまで「照明石」と呼んでいた石。正体が判明したことで、名称を変更した)、(あな)を開けた板、製造中(研磨中)のレンズ、そして紙を、一定間隔で設置する。穴から()れた光は、レンズを通して屈折し、紙の上で焦点を結ぶ。

 このとき、「焦点」となる光の集約点の大きさを規定し、光がそこに集まる曲率の凸レンズを作らせた。凹レンズはその逆。ピンホールから漏れた光が、レンズを挟んだ向こうにある紙の上で、一定のサイズに拡散するように調整したのである。

 このときの、レンズと紙の距離(凹レンズの方は拡散する光の直径)をレンズの規格として、異なる曲率のレンズを量産させることにしたのである。


 なお、このガラス及びレンズの製造は、ここから先の応用範囲が無辺に広がる為、遠からず「ガラス職人ギルド」を立ち上げ独立させる予定である。


◇◆◇ ◆◇◆


 鍛冶師ギルドが核心的に開発しているものの二つ目。それは「ラチェット機構」である。


 普通、歯車は右に回しても左に回しても、同じように隣接する歯車を回すことが出来る。が、歯車の山の片方を削り、例えば右回転するときは隣の歯車を回すことが出来るけど、左回転させたときには山が滑って隣の歯車は回らない。そういう機構を作ると、どんなことが出来る?


 実は、こちらも応用範囲が驚くほど広くなる。

 たとえば、自転車の「空転装置」。これもラチェット機構である。

 つまり、動力伝達部にこの機構を組み込むことで、「前転時には動力が伝達されるけど後転時にはギアは空転する」ということが可能になる。また例えば登坂(とはん)時。逆回転しなければ、坂から転がり落ちることは無くなる。そして、必要に応じてこのラチェットギアを通常の歯車(ギア)に切り替えたり、逆方向のラチェットギアに切り替えたりすることで、動力伝達の無駄(ロス)を随分減少させることが出来るだろう。


 更に、単純な路面抵抗を減少させる為には、軌条(レール)()くという考え方がある。

 行動の自由さは制限されるものの、反面輸送効率は比較にならない程向上する。


 鉄道馬車も良いが、平地で且つ一定距離なら人力((オール)のようなハンドルで、ラチェットギアを回して動力を伝達する)でも充分事足りる。つまり、人力トロッコである。


 取り敢えず試験的に、『竜の谷』(鍛冶師ギルドの工場兼試験場がある)とネオハティス市を結ぶ河畔に人力トロッコ列車の軌条を敷設(ふせつ)したところ、その輸送力の大きさに町中が驚愕(きょうがく)した。

 今では、ボルド河を渡る浮舟(うきふね)橋にもトロッコの軌条を敷設し、ボルド市との流通(インフラ)にも使用する計画が持ち上がっている。つまり、浮舟橋に重量物輸送用のコロ(・・)とトロッコ用の軌条を前後に設置し、中央部は人間用の通行帯とするのだ。市中を走る路面トロッコ計画も持ち上がっている。


 こちらの、インフラ整備部門のギルドも独立させ、「鉄道ギルド」とする必要があるのでは、という意見も出始めている。


 なお、この「トロッコ」。俺やサリアはその名称で呼ぶが、一般の市民は「陸漕船(レールシップ)」と呼ぶ。動力ハンドルを動かす仕草(しぐさ)が、舟の(オール)を漕ぐ仕草に似ているからだ。


 そして水上船。異世界チートとして導入すべきか否か、サリアと激論している案件でもある。(すなわ)ち、「スクリュー」という知識を(もたら)すかどうか、である。


 浮舟橋の動力として考えた場合も、ボルド河やハティス川の水上輸送を考えた場合も。ラチェットギア(プラス)スクリューにすれば、かなりの推進力を得られるだろう。だからサリアは導入賛成派。

 対して俺は、導入反対派。何故なら、ネオハティスは既に水螺子アルキメデス・スクリューによる揚水技術を持っている。なら、ここからスクリュープロペラという推進技術に昇華させるのは、時間の問題。あとは自然の技術進化に任せて良いだろう、と考えている(但し、地球史ではアルキメデスが水螺子(みずねじ)を開発してからスクリュープロペラ動力船の原型が開発されるまで、二千年近くかかっている)。

 ここから先は、考え方。結論が出るまでもう少しかかるだろう。


 逆に、導入しないことでサリアとあっさり合意した異世界技術は、蒸気機関と発電技術だ。

 蒸気機関は、俺たちの不完全な知識では再現すること自体が難しく、再現に失敗した挙句自然な発明を遅らせる結果になったら目も当てられない。

 そして電気は。


 俺達に発電に係る知識はあっても、「整流(コンデンサ)」に係る知識は無い。

 ボルタ電池など原始的な電池に関する知識はあっても、蓄電池に関する知識は少ない。

 その状態でただ発電技術だけ与えても、宝の持ち腐れになってしまう。


 結局、俺たちが私用(プライベート)で使う入間氏の遺産であるスマホやタブレット用の電力だけを魔法で供給し、それ以上の電気技術は自然な発見を待つことにしたのである。

(2,758文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2016/08/23初稿 2017/07/31投稿予約 2017/09/14 07:00掲載 2021/03/12誤字修正)

【注:「技術者は国や社会をも設計する」という言葉は、〔清水文化著『くじびき勇者さま 5番札 誰が守り神よ!?』ホビージャパンHJ文庫〕からの引用です。

 また、鉄道の輸送効率は一般の陸運の10倍超(経済産業省資源エネルギー庁エネルギー白書2005「第2部第2節部門別エネルギー消費傾向」輸送機関別エネルギー消費原単位の推移(http://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2005html/2-1-2.html)より)と謂れます。

 なお、明治24年9月、東北本線が全線開通した際、時の内閣総理大臣・松方正義は、「これで東北が凶作に見舞われても、我が国民に餓死者は出ないだろう」と言ったと謂われています】

・ 厳密には、(かい)()は違います。「オール」は「櫂」ですが、西洋文化圏に艪は無く、その為英訳されるときはどちらも「oal(オール)」と呼びます(最近では、日本語由来で「ro()」と呼ぶ場合が増えているようですが)。そして艪の羽根の動きは、スクリューのそれと原理的には同じです。

・ 水螺子アルキメデス・スクリューは、この世界のこの時代、普通に知られていました。が、手動でハンドルを回していた為必要労働力に比して揚水効率が悪く、鉱山排水技術として利用されていただけでした。ネオハティスはハティス川から用水路への給水施設として、水車動力の水螺子による揚水機を使用しています。なお、湛水(たんすい)が生じてしまった時に川へ排水する為の設備としては、可搬式手押し(しんくう)ポンプが使われます。

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