表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
316/368

第38話 盗賊ギルド

第08節 国づくり・民づくり〔2/6〕

◆◇◆ ◇◆◇


 一人の男が、夜闇に包まれたボルド市の裏道を走っていた。


 黒いフードを(かぶ)った、中肉中背の(つまり()したる特長のない)男。

 ただその動きは、その道(・・・)玄人(プロ)から見たら無駄が多く、随所で見得(みえ)を切り、(すなわ)ち虚栄心が見て取れる。まだ年若い証拠だろう。


 彼は、“影に(ひそ)み、夜闇を()ける”「疾風のクロフォード」と名乗っている(名乗る機会はないが)。もっとも、仲間内では単に「D(ディー)-9(ナイン)」とのみ呼ばれているが。ちなみに、本名を知る者はいない。本人さえ貧民街(スラム)育ち(ゆえ)知らない。

 彼は、盗賊(シーフ)ギルドのランクD・序列第9位の盗賊なのである。


 盗賊ギルドは、上納金でランクが決まる。そう考えると、彼の年齢でランクD・序列第9位というのは優秀と言って差し支えない。「新鋭気鋭の」と表現することも出来よう。


 彼は、周囲に気を配りながら、しかしその気は()いていた。彼の懐の中にある物。これをギルドに納めるだけで、ランクCも夢ではない。そしてその情報の対価を考えれば、もしかしたら一足飛びにランクBに昇格出来るかもしれない。そんな皮算用が、彼の足を軽くしていたのである。


 彼が高揚しているその理由。それは、ギルドで「人食い屋敷」と呼ばれる邸館に密接に関係していた。


◆◇◆ ◇◆◇


 2年ほど前。ボルド市に、とある商会が居を移し、その拠点として町外れの屋敷を購入した。

 その商会は、特定の海運商人と契約し、その荷揚げを仲介する仕事をしていた。しかしそれにしては(あきな)う品目は多く、尽きぬほどの在庫を(よう)し、同時に無限とも思える資金を有していた。

 その商会主は、町に居を構えて(わず)か一年で評議員(ランクS)に上り詰め、市行政に意見する立場さえ獲得するに至った。


 これを見た盗賊ギルドに属する盗賊たちは。そして他の商人たちに雇われた、暗殺者(アサシン)ギルドに属する暗殺者たちは。夜闇に乗じて町外れにあるその商人の屋敷に潜入を試みた。


 ところが。

 潜入し、帰還出来た盗賊・暗殺者は、一人もいなかったのである。


 ある時、盗賊ギルドと暗殺者ギルドの共同作戦で、この屋敷への侵入を試みた。Sランクの盗賊が、「G」の暗号名(コードネーム)を持つSランクの暗殺者をこの屋敷に送り込んだのである。しかし結果は同じ。一流(特に超一流と称される者たち)は、引き際を(わきま)えている。その者たちをして、撤退することさえ(かな)わぬこの屋敷。

 盗賊ギルドなど、所謂(いわゆる)「闇ギルド」の者たちは、この屋敷を「人食い屋敷」と呼び、またこの商会の構成員たちを「不可触(アンタッチャブル)」と定め、関わり合いを避けることを選んだのである。


◆◇◆ ◇◆◇


 とはいえ、上の命令に素直に従うような者たちならば、はじめから盗賊ギルドに属してはいない。この不可触(アンタッチャブル)の拠点のうち、盗賊たちが立ち入ることの出来る場所もある。港湾区にある、商会の倉庫だ。

 が、この倉庫。いつ(のぞ)いても、いつも伽藍洞(がらんどう)である。にもかかわらず、取引に於いてはこの倉庫から商品が蔵出(くらだ)しされる。その謎は(つい)ぞ解かれておらず、結果潜り込むことが無駄な場所とギルドでは認識されていた。


 しかし。D-9(クロフォード)はその日その倉庫を覗いたところ、多量の金塊(インゴット)を見つけたのだ。それこそ、一人では持ち出すことさえ出来ない程の。

 だから、D-9は持てるだけの量の金塊を〔亜空間(インベン)収納(トリー)〕に仕舞い、ある(・・)酒場に向かって全力で走っているのである。


◆◇◆ ◇◆◇


「親父さん、親父さん、すんげぇネタを拾って来たぜ」

「親父と呼ぶな、マスターと呼べ。何度言ったらわかるんだ?」

「そんなことより親父さん、これを見てくれ」


 その酒場の亭主に、D-9は金塊を一つ二つ取り出して見せた。


「こりゃあ……。D-9、こんな純度の高い金塊を、お前はどこで手に入れた?」

「それを言いたかったんだ。

 例の、人食い屋敷。あの連中が港湾区に持っている倉庫。あそこに文字通り山と積まれているんだ。俺一人じゃ持ち出せねぇほどの量だ。

 警備も大したこと無い(ねぇ)。今なら取り放題だ。だから手勢を貸してくれ。っていうか、1割俺の取り分を認めてくれるなら、あとはギルドに納めるよ。どうだ?」


 その話を聞いた亭主は、喜び興奮するどころか表情を蒼褪(あおざ)めさせ震える声でD-9を問い(ただ)した。


「あそこを攻めたのか! お前、自分が何をしたのかわかっているのか?」

「親父さん、何を言っているんだ? 別に警備も大したことなかったし、親父さんや先輩たちが心配するほどのところでもなかったぜ。勿論(もちろん)、俺の技術があってこそだけどな」

莫迦(ばか)野郎! お前(ごと)きがあそこから何かを持ち出せたというのなら、それは、それこそが連中の意図だということだ。お前は間抜けにも、(エサ)(くわ)えて釣り糸を()いてここまで来たということだ!」

「親父さんが何を心配しているのかは知らねぇけど、尾行さ(つけら)れたかってのなら、杞憂(きゆう)だぜ? そのあたりはちゃんと――」


「――ではここが、盗賊ギルドの本拠で間違いない、ということですね?」


 そこにあったのは、ただ白い闇。ついさっきまで誰もいなかった筈の、誰の気配も感じなかった筈の場所から、若い女の声が響いた。

 猫獣人の顔相を持つ、白金の女。


「……『殺戮(キリング)白猫(リンクス)』」


 盗賊ギルドのギルドマスターは、闇ギルドに伝わる「彼女」の通り名を口にした。


◆◇◆ ◇◆◇


「ご主人様は、貴方がたとの取引を希望しています」


 その女は、盗賊ギルドの本拠(ホーム)である酒場にあって、なお余裕を崩さない表情でそう語った。


巫山戯(ふざけ)るな。ここをどこだと思ってる? お前如き小娘一人、いつでも(おか)して殺せるんだぜ?」


 D-9は(つね)の如く彼女を威嚇(いかく)した。が。


()めろ、D-9。この女は、()の『賢人戦争』で、百に及ぶアプアラの斥候(せっこう)を、音もなくまた気付かれることもなく殺した『殺戮白猫』だ。不意を突くならともかく、この状況では俺たちに一分(いちぶ)の勝ち目もない。

 話があるというのなら聞こうじゃないか」


「ご主人様は、貴方がたとの取引を希望しています」


 女は、同じ言葉を繰り返した。


「ほう。貴族の坊ちゃんが、盗賊ギルドとどんな取引を希望する?」

成程(なるほど)冒険者を兼ねる商人(アドルフ)ではなく、冒険者出身の騎士(セレストグロウン)でもなく、伯爵家の落胤(らくいん)である冒険者(アレク)としてのご主人様を知る。その情報力は確かなようですね。


 そんな貴方がたを、ご主人様は必要としています」

(2,859文字:2016/08/09初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/31 03:00掲載予定)

・ 盗賊ギルドや暗殺者ギルドの構成員が日中襲撃を試みたこともあります。が、アディたちの不意を突くことは出来ず、またシンディたちを襲撃した者はその後裏通りで虚ろな笑いをその顔に浮かべていました。きっと宇宙的(コズミック・)恐怖(ホラー)の深淵を垣間見たのでしょう。

・ 「G」のコードネームを持つ、およそどこのラノベ(Web小説)の中にも現れる、伝説の暗殺者。きっと彼は、ご家庭の台所にも多数出現しているに違いありません。

・ 24時間〔空間音響探査〕を維持出来るシェイラの不意を突くことは、盗賊如きには不可能です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ