第34話 凱旋
第07節 新しい歴史〔2/4〕
「あ、帰って来た」
真竜・クリスとの激戦の後。俺はほぼ24時間寝込むことになった。
そして目醒めてすぐに行ったことは、迷宮主の権能の一つ、〔眷属召喚〕の使用であった。
情報伝達速度の重要さを知る俺やサリアにとって、高速通信が可能ならそれを使わない手はないのだ。
そして召喚した魔鷹に手紙を託し、ネオハティスの町に飛ばした。
召喚した眷属には、主たるDMの知識や記憶の一部を転写することが出来るので、初めて行く町でも迷うことはないだろうし、人を見つけることも難しくない。
そして、冒険者ギルドのギルマス・オードリーさんか、町長代理・セラさん、町長代理補佐のシアの三人のうちの誰かに渡すよう魔鷹に指示を出していた。
その魔鷹が戻ってきたのだ。
「でも良いな。あたしも鷹匠やってみたい」
魔物使い志望のサリアがそういったが、
「止めた方が良い」
「どして?」
「サリアは飛竜を育てるんだろう?」
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猛禽は、番いを生涯一羽しか持たないという。
それもあり、鷹匠は、一対一で真剣に鷹と向き合うことが求められるのだ。
もし鷹匠が他の鳥に気を向けることがあったら、鷹はその嘴で鷹匠を突くか、鷹匠を見限り離れていくという。恰も浮気者の亭主に対する女房のように。
ちなみに、野獣は群れの序列を優先する。
上位の雄は下位の複数の雌を侍らし、また同様に上位者と定めた人間には、ほぼ無条件で従う。だから複数(どころか群れごと)飼い馴らすことも出来るのだ。
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つまり、ワイバーンと一角獣を一緒に飼うことは出来るが、ワイバーンと魔鷹を一緒に飼うことは出来ない、ということだ。
俺はDMの権能で、複数の猛禽を同時に使役することも出来る。その一方で、俺の作る国では、魔鷹のみならず、ワイバーンやユニコーンの戦力化や、牡魔牛や牝魔牛、魔猪などの家畜化も計画している。しかし、将来のことを考えたら、それらを“DMチート”に頼るのではなく、サリアのように真剣且つ誠実な方法で魔獣たちと向き合うべきだろう。
それはともかく、そういった事情をサリアに説明すると、
「成程、よくわかったわ」
と、理解を示してくれた。
「――けど、そう考えるとハーレムって、女側の協力があって成り立つんだって改めて実感するわね」
……余計な一言を付け加えてきたが。
「どういう意味だ?」
「別に。何か深読みする根拠でもあったの?」
ったく、白々しい。
◇◆◇ ◆◇◆
オードリーさん(だけじゃなくセラさんの署名も併記されていた)からの返事を読み、けれど俺の気持ちは180度後ろを向いた。
「……帰るの止そうかな…………」
「何があった?」
ルビーが心配してくれたが、
「町に帰った後の二人の御小言の時間と、溜まった書類の山を想像すると、怖気が走った」
「……知るか! 私にはその領分の手助けは出来ないんだから、諦めろ!」
「……だよなぁ~~」
ともかく。
数枚の重要書類に目を通し、あるモノはそのまま決裁の署名を、またあるモノは再提出のマークを付けたうえで改善案を記し、そして最後の一枚に向き合った。
「……攻略の報告書、か」
これが意外に難物だった。
真竜を降し、俺が迷宮主になった。
……こんなこと、一体誰が信じる?
クリスを連れて行けば、そしてリリスが証言すれば、一定の信憑性が担保されるだろうけれど、書類でそれを余さず表現することなど、出来よう筈がない。
で、ふと思いつき、取り敢えずこの旅の行程をレポートに纏めた上で、スマホを魔鷹に持たせてもう一度町に飛んでもらった。
スマホの操作は、リリスかシンディなら出来る。そして、スマホには証拠になる写真は山とある(勿論真竜関係のは無いが)。
そして対真竜戦の顛末は、帰ってから口頭で、と付記しておいた。
これで(納得出来ないにしろ)当面は充分だろう。
◇◆◇ ◆◇◆
そして、数日後。
ほぼ毎日、魔鷹(いつの間にか『ノトス』という名が付けられていたようだ)を介し書類の遣り取りをしていた為、あまり時間が経ったという気がしないのだが。
ともかく、俺たちは山を下り、森を抜け(先導無しで森を抜けるのは不安があった為、ノトスに先導させた。書類の遣り取りは、その為夕刻と早朝になった)、そして。
◇◆◇ ◆◇◆
俺たちが街に入ったとき、住民たちは大歓声で迎えてくれた。
処女にのみその背を許すと謳われた、ユニコーンに乗った一行。
俺がユニコーンに乗っていることをどう評価したのかは知らないが(DTだから、と評価されたら俺は羞恥心で死ねる)、それは正しく女性陣の純潔を証明しているようで、多くの住民たちが祝福してくれる(残り2頭のユニコーンは、人化したクリスが徒歩で綱を曳いている)。
先導するのは、魔鷹ノトス。知らないうちに町の人気者となっていた彼は、時に空で弧を描き、時に俺が乗るユニコーンの背に停まり、そして時に町の人たちの前で愛嬌を振り撒き、人々の笑顔を招いていた(女性にばかりサービスしているような気がするのは気の所為か? 否、ネオハティスは女性の人数が多いからそう感じるだけだ。現に子供たちの前でも愛嬌を振り撒いている)。
そして。(俺たちにとって)期せずして起こったパレードの終着点は、冒険者ギルドだった。ギルドの建物(仮)の前には、ギルドマスター・オードリーさんと、町長代理のセラさん、そして市主力冒険者旅団【R.A.S】のメンバーなどが、並んで俺たちの帰還を待っていた。
「ギルドマスター。迷宮『竜の食卓』の攻略、完了しましたことをご報告申し上げます」
「ご苦労様でした。詳細な報告を受けたいと思いますので、お疲れのところ恐縮ですが、第一小会議室までお越し願えますか?」
「かしこまりました。馬の世話はお任せします。それから、鷹の世話も」
「ええ。希望者が殺到していますから」
◇◆◇ ◆◇◆
会議室にて。
手紙に書かなかった、真竜との一戦とその顛末を話したところ。
皆開いた口が塞がらない、という表情になった。
確かに今、クリスは人間の、20代後半の男性の姿を採っている。
しかし、彼が「実は龍なんです」といっても、信じられる人は稀だろう。
困惑した表情のオードリーさんは、しかし意を決して、リリスに問いかけた。
「アディ君が嘘を言っているとは思えませんけど、それでも証言が必要です。
リリスさん、あの方は本当に真竜なのですか?」
「何故、妾に聞く?」
「だって、貴女は『ベスタ大迷宮』のダンジョンマスターでしょう?」
(2,992文字:2016/08/03初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/23 03:00掲載予定)
・ ワイバーンは猛禽類ではありませんが、鷹は同じく「空を征くモノ」であるワイバーンを、自分と同じ鷹匠に飼育されることを望まないでしょう。
・ DM権能〔眷属召喚〕。「スライム迷宮」とも呼ばれる『ベスタ大迷宮』のマスターとしての立場も持つアディにとって、もしかしたらスライムも眷属に数えられる? だとしたら、彼は自分の眷属を、ダンパーの衝撃緩衝材に使ったりガラスを練り込んだり、好き勝手していたことになりますね(笑)。




