第29話 200秒の神話
第05節 龍を探して(後篇)〔7/7〕
まるで、俺がフラグを立てるのを待っていたかのように。
真竜はその首を擡げた。
ゴ……
想像の埒外の攻撃。想定以上の被害。
真竜自身、これまで考えたことさえなかったであろう、これらを受けて、しかし真竜を絶命させるには、まだ力が足りなかった。
そして真竜は、肉体的にはかなりのダメージだろうけれど、魔力的にはおそらくかなり余裕がある筈。つまり、〔自動回復〕では追い付かなくとも〔回復魔法〕や〔治癒魔法〕による回復は可能。
ゴゴゴ…………
なら間髪を容れることなく追い打ちをかける。
〔魔力砲〕で撃ち出す砲弾の中で、対真竜用に作った特別製。直径88mm・弾頭重量約10kg、着弾時の運動エネルギー保全の為に弾頭を鉄鋼で覆った、特大砲弾。
〔摩訶鉢特摩〕を使った際の圧縮空気の一部をこちらに取り込み、充填。そのエネルギーで、88mmの巨大砲弾を超音速に加速する。
「88mmを喰らうが良い!」
伝説によると、竜は喉元にある、逆さに生えた一枚の鱗が弱点なのだという。この真竜に逆鱗などはないが、1平方m当たり400t近い衝撃力を喉元に食らい、無事で済むとは思わない。
ゴゴゴゴゴゴ………………
しかし。
真竜は、これを避けた。
防ぐのではなく、回避したことから、ダメージの深さが窺える。しかし。
完全に回避出来た訳ではなく、翼の付け根に着弾し貫通したものの、致命傷には程遠い。
一方こちらには、もう勝負札が残っていない。
サリアもスノーも、そして俺も。魔力枯渇で倒れる寸前だった。
最早万事休す。文字通り、「刀折れ矢尽きる」状況。
俺は、そしてシェイラも他の皆も。
自然と、一角獣とカレンが隠れている繁みに集まった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………………………………
◆◇◆ ◇◆◇
「届かなかった、ね」
ぽつり、とサリアが呟いた。
「でも、楽しかったわ」
静かに、スノーが続けた。
「陛下や王妃殿下、王子様がたに自慢出来ますね」
ルビーが笑った。
「ところで、さっきから聞こえるこの音は、どこかで聞き覚えがあるのですが……」
シェイラが首を傾げる。
そして。
真竜がその顎を開き、吐息発射の兆候を見せ、
「全員、伏せろ! 対衝撃」
アディが叫んだ、
その数瞬後。巨大な隕石が真竜に直撃し、爆発した。
◇◆◇ ◇◆◇
あたしが嘗て、彼らと飛竜の戦闘を目の当たりにしたとき。それは夢幻のモノとしか思えなかった。それは、現実のモノだとは信じられなかった。
けど、今日のこの戦いは。神話の戦いそのものだ。
遥か彼方の真竜を撃ち据える砲撃魔法。
人の身でありながら真竜に斬りかかる女騎士と、龍の腹を切り刻む獣人の女戦士。
そして、以前スノー姉さまが使ったという〔酷寒地獄〕でもこれ程ではないと確信出来る、超越級の冷却魔法。
続けざまに放たれる、神話級魔法〔竜巻〕。
更に止めとばかりに撃ち込まれた、巨大砲撃魔法。
けれど、それでもまだ真竜は倒れない。
「神をも屠る」と伝説に謳われた、その威容は傷だらけになってもなお聊かも衰えず。
にもかかわらず。『魔王』を自称する勇者の指し手は、もう一つあった。
神話級魔法、〔星落し〕。
天から星を呼び、それを以て龍を撃ち抜いたのだ。
◇◆◇ ◆◇◆
宇宙塵を、高度約100km地点から地上まで落とすのに要する時間は、大凡200秒。だからこの時間、何としても真竜の足を止めておく必要があった。
そして位置関係。隕石の着弾予定地点は、俺たちの側から見て真竜の向こう側でなければならない。でないと隕石の爆発の衝撃波に巻き込まれてしまうから。その為の88mm。その為の、この地点での再集結だった。
真竜への直撃は、望外の幸運。その所為か、周辺への衝撃波の拡散が事前に予想したよりも小さい。ということは、そのエネルギーのほぼ全量が、真竜の体内で解放されたということだ。
けれど、これでも倒し切れるという自信はない。
けど、流石に今なら刃が届く。
如何な真竜とて、額の鱗の後ろ側、頭蓋に守られた脳に直接刃を突き立てられて、無事で済む筈がない。幾ら魔物と雖も生き物である以上、頭が急所であることには変わりなく、だからこそ頭の守りはどこよりも堅いのだから。
〔無限収納〕より大太刀『八咫』を取り出して、抜刀する。
静かに刺突の構えを取り、突撃する、その直前。
「そこまでじゃよ、御屋形様」
いつの間にか現れた、リリスの声が、俺の足を止めた。
◇◆◇ ◆◇◆
「リリス、どうして……?」
「御屋形様の勝ちじゃ。もうこれ以上は必要なかろう」
そう言いながら、リリスは真竜に向かって手を翳した。
すると、次の瞬間。
満身創痍であった真竜の、全身の傷が消えてなくなった。
それどころか〔摩訶鉢特摩〕や〔星落し〕で乱れに乱れた『竜の食卓』の大気も一瞬で静まり、気温もまた以前同様中緯度地方の陽気を取り戻した。
これがこの世界の創造神でもある邪神、リリスの実力。
気が付くと、俺自身の怪我も魔力も全回復していることがわかる。おそらく、他の皆もそうだろう。
だが、改めて真竜と戦えと言われたら。もう絶望すること以外に出来ることなどない。
ましてやリリスが向こう側に付くというのなら。一瞬さえも抵抗出来ないだろう。
「何、心配することはないぞよ。
言った筈じゃ。御屋形様の勝ちじゃ、とのぉ?
勝者には称賛の言葉だけではなく、相応の報奨があって然るべきじゃからの。
そうは思わぬかの、龍の」
「確かに、我の負けです。しかし我は、今ここで死ぬ訳にはいきません。
もしそれを許してくださるのでしたら、如何なる代償であれ支払いましょう」
人間の、それも若い男の声で、真竜はそう答えた。
「と、言うことじゃ。
さしずめこの迷宮を、貰い受けたらどうじゃの?」
「ダンジョンを、貰い受けるっていうのは、どういう意味だ?」
「御屋形様が、迷宮主になれば良い、ということじゃ」
……俺が、ダンジョンマスターに?
「だけど、ここのマスターは真竜だろう?」
「それは違うぞよ。龍は、御屋形様らが迷宮核と呼ぶ、それそのものじゃ」
(2,941文字:2016/07/21初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/13 03:00掲載予定)
【注:衝撃力の計算公式の出典は前話と同じです。
「アハト・アハト」の名称は、第二次世界大戦中にドイツが作った8.8cm対空機関砲の愛称「アハト・アハト」に由来します】
・ カレンさんは、〔摩訶鉢特摩〕、〔竜巻〕、そして〔星落し〕の順で魔法を使ったと認識していますが、〔竜巻〕は使っていません。〔摩訶鉢特摩〕の魔法が完成した時に、竜巻が生じたのです。
・ 〔星落し〕の直撃でボロボロになった真竜を、刀一本で屠れたか。冷静に考えれば、「不可能」と断じられます。どんな生き物でも脳の一部が破壊された程度では(思考や運動に障害が出るかもしれませんが)死にませんし、心臓を吹き飛ばしても魔力で維持・再生出来ますから。




