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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第28話 地獄の底の、更に奥

第05節 龍を探して(後篇)〔6/7〕

「シェイラ、飛ぶなよ。空は真竜(ヤツ)の独擅場だ。空中戦で勝とうと思うな。

 サリア、スノー。二人は切り札だ。力を温存して、合図があるまでとにかく逃げ回れ!」


 シンディに用意してもらった、20mm(ミリ)の弾丸は20発。うち、魔羆(マッドグリズリー)とロック鳥それに有翼獅子(グリフォン)に1発ずつ使ったから、残り17発。これを全弾叩き込むつもりで先制する。


 ドラゴン。その図体(サイズ)所為(せい)で遠近感が狂ってしまうが、彼我(ひが)の距離、大凡(おおよそ)500m(メートル)といったところか。

 この距離での戦闘など、如何(いか)(エンシェント)(・ドラゴン)とて想定外のものだろう。

 しかし、俺の〔魔力(リニア)カノン〕なら充分射程圏内。


 相手の射程外からの一方的な攻撃。ドラゴン族がいつも(おこな)っているそれを、逆に受けてみると良い!


 その衝撃力は、1平方m当たり5t(トン)を超える。それが直径(わず)か2cm(センチ)の円内に集中するのだ。幾ら真竜と(いえど)も無視出来るものではないだろう。その上で、どうする?


 だが真竜は、回避機動をする気配も見せずにこっちに真直(まっす)ぐ飛翔している。どうやら真っ向勝負がお望みのようで。被弾をものともせずに、微動だにしないその振る舞いは(まさ)しく王者(チャンピオン)のそれ。そしてその資格を有する挑戦者(チャレンジャー)を迎えるかの如きその姿を見て、俺もそれに(あたい)する振舞いをする義務があると気を引き締める。


 更に3発。真竜の吐息(ブレス)の射程に入るまでに、〔魔力砲〕を命中させたが、それでもなお弱体化の気配を見せていない。

 そして、ブレス。

 その予兆が見えた為口腔(こうくう)内にもう1発お見舞いした上で、〔空間(エアロ・)機動(マニューバ)〕で緊急回避。ブレスの余波だけで((ドラゴン)(レザー)製の)ブーツが焼け千切れたが、そんなことに構っていられない。こちらの攻撃は、一定の効果があることは間違いないだろうが、それがダメージに繋がっている気配はない。水棲竜(ヒュドラ)も持っていた、膨大(ぼうだい)な魔力を活用しての〔自動回復(リジェネーション)〕。おそらくはそういうことだ。


 と、地表近くに下りてきた真竜の足にルビーの、胴にシェイラの刃が突き立った。多分これも、効果はない。しかし、真竜にとって愉快なことではないだろう。

 ルビーは俺の指示に忠実に一撃離脱を繰り返し、シェイラは〔空間機動〕と〔方向(ベクトル)転換(ドライブ)〕で、慣性の法則を無視しまた爪や尾の薙ぎ払いを無いモノのようにあしらった、高速移動攻撃を繰り返す。

 俺もまた負けじと、〔魔力砲〕で狙撃(そげき)しながら二人を援護する。


 真竜の、二度目のブレス。今度の標的はシェイラ。しかし彼女は、地表すれすれの高度を縦横無尽に駆け巡り、ブレスを完全に(かわ)し切る。その隙にルビーの直接攻撃。しかしこれは真竜の肌に届かない。どうやら真竜は体表面に魔力を散布し、その揺らぎで攻撃を感知し、自動的に空気密度を上げて顕現する障壁としたようだ。


 それを見て、作戦第二段階に移行する。


◇◆◇ ◆◇◆


「ルビー、シェイラ。距離を取れ!」


 二人が離れたことを確認して、魔法を発動させる。


 無属性魔法Lv.4【気流操作】派生10a.〔(アンモニア)圧縮(・メーカー)〕。


 〔魔力砲〕を規定威力に到達させた、その超圧縮で、真竜を包む。


「スノー、〔(ウォーター)蛇竜(・ドラゴン)〕。ドラゴンを()み込め!

 サリア、スノーの〔水蛇竜〕に対して〔氷結(フロスト・)(フィールド)〕だ」


 二人の魔法が発動する。そしてすぐに、ある異変が。


「な、なに? 水が、言うことを聞かない!」

「こっちも。どうして? 水が蒸発しない!」


「それで良いんだ。サリアは魔力が尽きる寸前まで、潜熱(せんねつ)を続けろ! スノーも〔氷結圏〕だ!」


 そして俺は、スノーの〔水蛇竜〕が生み出した水に対して無属性魔法Lv.5【分子操作】派生02b.〔(エンドース)(ミック)〕を発動させた。


☆★☆ ★☆★


 〔超圧縮〕で生み出した圧力は、約1,000気圧。そしてこの圧力下に()いて、水はどれだけ高温になったとしても、蒸発することは出来ない。

 つまり、加熱ではなく強制的に相転移(そうてんい)を成しそれに必要な熱量を周囲から収奪(しゅうだつ)する〔氷結圏〕は、無限に熱量を吸収し続けることになる。

 一方〔冷却〕は、分子運動を減速させる魔法。つまり純粋に温度を低下させる魔法なのである(ちなみにこの圧力下では、水はマイナス10度C程度で凍結する)。


 〔氷結圏〕は気化(融解)潜熱の結果、収奪対象の温度が低下する。

 〔冷却〕は分子運動を減速させた結果、それ自体の温度が低下する。


 ともに熱量変化の観点では効果が同じだが、水の物性(ぶっせい)に与える影響は、真逆になる。


 〔氷結圏〕は潜熱で氷を水に変える。

 〔冷却〕は低温により水を氷にする。


 つまり、サリアとスノーが〔氷結圏〕で真竜から収奪した熱量を、更に俺が〔冷却〕で奪っていくというサイクルが完成する。

 その結果。水属性魔法では決して達成し得ない、極超低温を実現させることが出来るのだ。


★☆★ ☆★☆


 1,000気圧。実はここまで空気を圧縮すると、常温であっても水蒸気のみならず二酸化炭素も液化し、窒素と酸素は超臨界状態(液体と気体の性質を併せ持つ状態)になる。

 その上〔氷結圏〕と〔冷却〕で、更に温度が低下する。


 そして一定レベルまで温度低下したことを確認し、〔超圧縮〕を解除する。と。


 超臨界状態から解き放たれた液体窒素と液体酸素は、断熱膨張で周辺の熱量を更に収奪しながら気化する!


 極限冷却魔法、〔摩訶鉢特摩(ニブルヘイム)〕。


 1気圧下に於ける液体酸素の生成温度は、マイナス183度C。そして液体窒素の生成温度は、マイナス195.8度C。ともに常温では液体という相を保ち得ない。だからこそ物性の均衡を保つ為、その空間の中心部にある熱源(即ち真竜)から熱量(エネルギー)を奪うのだ。この暴力的な潜熱反応は、この世界の知性体が想像(イメージ)出来るものではないだろう。

 そして、この世界の魔法が「術者の願いを、その思惟(しい)から検索された方法で、術者が観測し得る形で実現する」ものである以上、「想像出来ない攻撃」の対抗手段もまた「想像(おもい)出来(つか)ない」。つまり魔法による防御が不可能だということだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 冷却された大気のバックファイアで俺たち自身が凍死することを避ける為、〔超圧縮〕を解除した際、冷気を天空直上に排出した。そしてその低温が生み出した超低気圧に向かい、烈風が吹き寄せる。

 それは、まるで神話級魔法の〔竜巻(ツイスター)〕。その中心にいる真竜を見ながら、ある(・・)言葉(・・)が俺の喉元(のどもと)まで出かかっていた。


 それは、間違いなく失敗フラグ。言えば即座にそれが現実になるだろう。

 しかし、この状況では言わないではいられない。


 だから、もう一つの魔法を発動させた後、口を開いた。


「……やった、か?」

(2,967文字:2016/07/21初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/11 03:00掲載予定)

【注:20mm砲弾の威力は、木下筑前守様のHP「福住製作所」内コンテンツ〔弾の威力のはなし〕(http://sweeper.a.la9.jp/gun/heisa/burret.htm)の初活力計算式に基づいています。

 水の物性に関しては、Wikipedia「Phase diagram of water」(https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/Phase_diagram_of_water.svg)を、窒素の物性に関しては、神鋼エアーテック株式会社様のHP内〔工業ガス・液「窒素(液化窒素・窒素ガス)」〕の項(http://shinko-airtech.com/gasliquid_N2.html)を、液体酸素の物性は、北海道エア・ウォーター株式会社様のサイトの「産業ガス」の項(https://www.hokkaido-awi.co.jp/industry/gas_oxygen.html)を、液化二酸化炭素については、昭和電工ガスプロダクツ株式会社様のHP内コンテンツ「ドライアイス資料館」の中の「炭酸ガスの物性」(http://www.sdk.co.jp/gaspro/dryice/g_propertie.html)を、それぞれ参照しております。

 「幾ら高温になっても蒸発することの出来ない圧力」を「臨界圧力」、「幾ら圧力を下げても蒸発することの出来ない温度」を「臨界温度」といい、臨界圧力以上で且つ臨界温度以上にある物体は、気体と液体の相を併せ持つ「超臨界状態」になります】

・ 戦闘中盤の、真竜が使った魔力偏差を用いたオートディフェンスのアイディアは、感想欄で2016年10月23日09時16分に「ロンギヌス(ユーザーID:397503)」さんが提案してくれたものです。本来主人公の防御魔法のアイディアだったのですが、ただでさえ莫迦みたいに強い真竜を更に強化する為に使うという……。

・ 「摩訶鉢特摩(まかはどま)」地獄とは、八寒地獄の最下層にある地獄の事です。通称「大紅蓮地獄」。寒すぎて感覚が「熱さ」と誤認し、また凍傷で裂けて露出する肉が、紅蓮華(「鉢特摩」は蓮華の花)に見えることからそう名付けられたとか。

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