第27話 真竜
第05節 龍を探して(後篇)〔5/7〕
殺さずにおいた一角獣。全部で8頭いたのだが、他の殆どの個体が魔法一撃で絶命したのを目の当たりにした所為か、角を地に付け俺たちに屈服の態度を示した。確かにユニコーンは、伝承にある通りかなりの知性を持っているようだ。
そこに、サリアが嬉々として馬具を装着していく。まだちゃんと調教した訳ではなく、俺たちに対して服従したことの確認もしていないから気軽に近付くな、と言う間もない。
しかし、それもまた杞憂だったよう。ユニコーンたちは、抵抗することなく馬具を受け入れた。
念の為一人一人、ユニコーンたちに近付いて行くと。彼らにとっても好みはあるようだ。
馬たちは俺のことを「群れの長」と認識しているようで、俺に対してはあからさまな敵意は向けない。背を委ねることを嫌がる馬は何頭かいたが。
対してサリアはどの馬にも拒絶されていない。本当に「魔獣使い」の素質があるのだろうか?
ルビー。彼女には、寧ろ可哀想な結果になった。剣一本でユニコーンの群れと互角に渡り合ったその雄姿がまだ網膜に焼き付いているのか、多くの馬たちはルビーが近付くと寝転び、お腹を見せた。中には蹲って失禁してしまった馬もいる。何とか堪えた馬を、ルビーは選んだ。
そしてスノーとカレンとシェイラ。彼女らに対しては、馬たちは見事なくらい好き嫌いを明確に示した。真直ぐ角を向ける馬。叙事詩のワンシーンのように跪いてその背を許す馬。その頬に角を擦りつけて甘える馬。それぞれだった。
まるでお見合いのように、お互い気に入る相手を見つけ、自分たちのパートナーを選んだのである。
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それぞれが選んだユニコーンに跨り、俺たちは探索を再開した(選ばれなかった二頭も、おとなしく付いてきた)。ユニコーンは、かなり高位の魔獣である。其処らの魔獣ではただでさえ太刀打ち出来ないのに、それに騎乗する存在もいる。有象無象の魔獣たちが、そうそう手出しを出来る筈がない。
途中有翼獅子がちょっかい掛けに来たが、俺の〔魔力砲〕の射程内だと知ると、(飛来した砲弾は回避したが)潔く離脱することを選んだ。勝ち目のない相手と無駄に向き合うことをしない。その判断の明瞭さは、賞賛に値するだろう。
そしてユニコーンとの遭遇以降、女性陣は野営時に女だけで話をすることが増えた。カレンから男女混成冒険者旅団の現実(特に夜のこと)を聞き出しているようなのだ。
勿論、俺は自覚している。冒険者として、彼女らをかなり甘やかしていることを。
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ボルドに入ってから(正しくは西大陸に行ってからだが)、一行は基本寝所も浴室も、ちゃんと男女で分けている。それ以前のように、皆で一緒にお風呂、となると、その頃から一行と行動を共にするようになったスノーたちの迷惑になるという思いもあったからだ(シンディは時々皆の目を盗んでアディの浴室に突入するが)。一番幼いシェイラもその頃には随分情緒的に大人になり、性的な欲も出て、ただ「頭を洗ってもらう」だけでは満足出来ない自分のことを自覚していた。だからこそ、自分の中の想いに答えを見出せるまでは、無闇にアディに近付かないように心掛けていた。
けど。この旅で、カレンから世の冒険者たちの現実を聞かされた時、カレンと男性冒険者の姿を、自分とアディに置き換えて考えてみた。もしアディが性欲発散の為に、自分に襲い掛かってきたらどうするか。考えるまでもない。自分は悦んで受け入れ、彼にも悦んでもらいたいと思うだろう。その為に必要なら、カレンやシンディにそのやり方を教えてもらってでも。
シェイラは漸く自分の心を理解することが出来た。自分は、命の恩人だからでも、ご主人様だからでもなく、一人の男としてアディのことを愛している。そして、一行の中では最も長くアディと共に過ごした時間があるから、アディの想いも理解出来る。
彼は、大切な相手にこそ自分の望みを伝えない。その一方で、大事な相手の願いを守り叶えようと死力を尽くす。
シェイラには家族を。リリスには(ちょっと違うが)人の営みを。シンディには夢を。スノーには平和な日常を。ルビーには剣を振るう意味を。サリアには人生の価値を。
そしてカレンには、その手で未来を切り拓く力を。
だから。自分たちの方がちゃんと望まなければいけないのだ。アディに、女として扱ってもらうことを。愛し、愛されることを。
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偉そうな理屈をこねても、俺がヘタレだという事実を隠し通すことは出来ないだろう。
友達同士、家族ごっこ。仲良し小好しで誤魔化していた部分に、そろそろ答えを出す必要があるようだ。
といっても、今更答えなんか変わらない。ハーレムラノベの主人公の如く、一人も手放すつもりはないんだから。
そんな、冒険とは全く無関係の、しかし人生最大の難敵を前に決戦を決意した頃。
『竜の食卓』まで登ってきた、本来の目的に出会うことになった。
『竜王』、『龍』等といわれる、この『竜の山』の主。
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人間が、真竜と戦って勝てるか?
まず、不可能。
例えば、攻撃力。飛竜の爪と神聖鉄の強度がほぼ同じ。しかし、亜竜の爪と同等の強度の剣が真竜の鱗を傷付け得るとはとても思えない。
例えば、防御力。ワイバーンの鱗が真竜の爪を凌ぎ切れる訳がないのは考えるまでも無く、ワイバーンの吐息を相殺したサリアの〔氷結圏〕であっても、真竜のブレスを凌ぎ切れるとは思えない。
では、全く打つ手がないのか?
そうも思わない。その為の準備もしている。
例えば、対真竜戦を想定して開発を続けている、〔魔力砲〕。これは多分、効果があるだろう。そして、対真竜戦の秘密兵器もシンディに用意してもらっている。
他にも、効果があると予想出来る魔法も二三ある。そして、ルビーたちの剣も。
ヒヒイロカネの剣は、真竜の鱗を切り裂けない。
それが事実であったとしても、それなら鱗が無い場所を狙えば良い。
真竜は空を飛ぶから、地上からは有効な攻撃手段がない。
地上に降りて来たって、人間と真竜の大きさを考えれば、届く範囲は嵩が知れる。
なら、地上に下りて来るのを待って、鱗に包まれていない脚や腹を狙えば。ヒヒイロカネの剣なら一定の効果があると予想出来る。つまり、「何も出来ない」訳ではないのだ。
とはいえカレンにはまだ早い。
カレンにはユニコーンたちを連れて、現場を離れるように指示を出した。
そして俺たちは。
神とも譬えられる真竜と、一生に一度の決戦を繰り広げることになる。
(2,977文字:2016/07/21初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/09 03:00掲載予定)




