第26話 性行為と情愛の交感~一角獣~
第05節 龍を探して(後篇)〔4/7〕
(注:今話は性方面の話題でちょっと下品です)
「でも、それもまたアンタの想像に過ぎないんでしょう?」
一角獣が処女厨だというのは、騎士たちが負け惜しみで考えた設定。
そう断言した俺に対し、カレンが懐疑的な言葉を返してきた。
「かもしれないな」
「なら正しいという可能性も検証する必要があるんじゃないの?」
「で、それを検証する為に、スノーたちを生贄宜しくユニコーンたちの前に突き出せ、と? ……冗談じゃない」
カレンの言葉に対する俺の感想を聞き、カレンは有り得ないことを聞いたとばかりに驚愕し、スノーに直接問い質した。
「待って? スノー姉さま、まだ未通娘なの?」
「カ、カレン! そんなはしたない言葉、口にするんじゃありません」
「だって、てっきりもうアドルフのオンナになっているのかと――」
「私は結婚前にそんなことするような、ふしだらな女じゃないわよ!」
「ごめん姉さま、ちょっと待って。
アドルフ、どういうことなの?」
「どう、と言われても、何をどう答えたら良いのか」
「姉さまを弄んでいたの?」
「どうやったらそんな結論が出てくるんだ?」
「じゃぁそっちのシェイラが本命?」
「なんでそうなる?」
「それとも、商売女相手でないと勃たないとか?」
「少しはTPOを弁えろ! 淑女が人前で口にする言葉か?」
「良いから答えなさい。アンタは今まで何人の女を抱いたの?」
「なんでカレンにそれを答えなきゃならんのかわからんが、取り敢えず俺はまだDTですが何か?」
「……何で?」
「だから何でそれでカレンが疑問符を浮かべるんだ?」
「だって、男はどこかで吐き出さなきゃならないんでしょ? だから旅団に女がいたら、その女はメンバーの中の特定の誰かの情婦か、メンバー全員の相手をするかどっちかってことじゃない。それともアンタ、不能なの?」
……あぁ、そうだった。
確かに、そう考えるとうちのパーティは特殊だ。
普通の冒険者のパーティは、野営中に着替える時も、人目を気にしたりはしない。こそこそ隠れて、結果孤立する時の方が危険だからだ。前世ラノベでよくある、女が一人で水浴びする為に野営地から離れて泉に向かう、なんていうシチュエーションは、だから起こり得ない。
けど、男だって何もしなければ溜まってくる。それを放置していれば、どこかで暴発する。町の中だったら花街にでも行って発散してくれば良いだろうが、冒険中にはそうもいかない。結果、必要ならそれ専用の女奴隷を連れていくことになるが、もしパーティ内に女性冒険者がいるのなら、わざわざ奴隷を買わずにその女性で処理をすることになる。
おそらく、カレンもそうだったのだろう。お姫様育ちのカレンにとって、荒くれ冒険者の無遠慮な目線は彼女の羞恥を刺激するモノの筈。そして、初めての時は信頼していたメンバーに強姦に近い形で奪われたのだと思う。だから「これは冒険者の当たり前」と納得することで、心の平衡を保っていたに違いない。実際、パーティ【造反者】の人間関係は悪くなかったそうだし。
けど俺たちは、男は俺一人。だから俺一人が上手く立ち回りさえすれば、着替えや用足しの時などでも女性が一人で孤立する心配が無くなる。
そして俺自身性欲が無い訳ではないが、前世で数十年生きた人格は、自身の性衝動を抑え込める程度には成熟している。そりゃぁ色々と妄想するし、一人隠れて処理することもある。特に街中では「自称俺のお妾さん」のシンディもいるから、時には相手してもらいたいという誘惑に駆られることも、無い訳じゃない。
けど、それでもなお前世の倫理観が俺を縛る。性欲発散の為だけに、親しい女性を組み敷くことを正しいとは思えない。
前世の倫理観でモノを考えたら、複数の女性に対してそんな情欲の籠った眼差しを向けること自体、事案発生案件だろうけど、それでも様々なことが落ち着いて、ちゃんと全員と向き合えるようになるまでは、そういったことをするつもりはない。
「どっちかって言えば、不能の方が近いかな? 枯れているのかもしれないけど。勃たない訳じゃないけどね。勢いに任せてとか、不安を紛らわせる為にとか、ただ性欲発散の為にっていう理由で女を抱きたいとは思わないよ。
ま、将来国を造って王様になったら、王妃を複数人迎える必要があるだろうから、皆に声を掛けるけどね」
「で、魔王陛下は夜の魔王にクラスチェンジする訳だ」
「……相変わらずネタに品が無いよ、サリア」
「一応、女の側の意見も言わせてもらうけど、皆、アディが望んでくれるんなら喜んで、って思う程度には心を開いているんだからね?」
「ほう、サリアはもう覚悟決まったのか」
「そんな昔のネタを……。でもそうね。やっぱ『賢人戦争』の頃あたりからだから、そういう話なんだと思うよ。
野営中の着替えとかだって、今はもうアディと一緒でも構わないし。けどアディが自分を抑えているのもわかっているから、敢えて挑発して余計なプレッシャーを与えたいとも思わないから、今のままでいてくれた方が有り難いけどね」
◇◆◇ ◆◇◆
何となく微妙な空気を醸成してしまうことになったが、ここは迷宮内で、眼前には魔獣がいるという状況を、忘れる訳にはいかなかった。
「では処女を代表して、私が行くことにしよう」
「ルビー。貴女ももう少し慎みをね――」
「スノー、否、姫様。これだけ赤裸々な会話をした後です。慎みもへったくれもないと思われますが、如何でしょう?」
「……」
「理解が得られたようなので、行ってまいります」
「気を付けろよ。
シェイラ、苦無を用意。状況が動いたら俺の指示を待たずに〔射出〕。
スノー、〔水蛇竜〕。
サリア、〔氷結圏〕。
合図をしたら、二人の合体魔法で瞬殺する」
そして、ルビーが騎士剣と有角円楯を構え、ユニコーンに近付いたところ、案の定。
ユニコーンたちは立ち上がり、角を向けて威嚇してきた。
「そうか、ルビーはもう既に――」
「そうじゃない、ってアンタが看過したんでしょうに」
俺のボケに、カレンが間髪を容れずにツッコんでくれた。その表情は笑顔。
このパーティの空気に、どうやらようやく馴染んできたようだ。
「じゃぁサクサク片付けますか。
あ、でも魔獣使いに転職したがっているサリアの為に、何頭か殺さずに残しておいてくれ。
ユニコーンが処女厨じゃなくただの好戦的な魔獣なら、調教した後カレンやルビーの愛馬にしても良いだろうし」
が、やはりユニコーンは気性が荒い。戦国時代の武将は、暴れ馬を調教し従えることを誉としていたという話を読んだことがあるが、ユニコーンなら大人しい個体で充分だろう。なら暴れている仲間たちを尻目に、なお寛いでいる何頭かを調教する予定とし、それ以外の連中はスノーとサリアの二人に始末させることにした。
(2,990文字:2016/07/21初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/07 03:00掲載予定)
【注:「夜の魔王さま」の元ネタは、多分〔志瑞祐著『精霊使いの剣舞』メディアファクトリーMF文庫J〕と思われますが、ハーレムラノベの夜の生活描写にありがちな表現ですので、もしかしたらそれ以前からあった言い回しかもしれません】
・ カレンさん。「少しはTPOを弁えろ!」です。カレンさんの過去話はノクたんでないと語れないのですから。
・ 第13話のカレンの独白と、今話の内容。比べてみると、カレンの哀しい強がりが見えるでしょう。カレンのパーティメンバーは、カレンが王女だということを知っていましたが、だからといって一緒に着替えをし、一緒に用便をし、一緒に寝るカレンに対し、欲情しないではいられなかったようです。
・ アディの邸館では、始末し忘れた汚紙がアディの寝室で発見されたり部屋の空気がイカ臭かったりすることもありますが、自他ともに認める一流のメイドであるサーラ(事実上サーラがアディの専属になっている)たちは、そ知らぬ顔をして処分しています。アディは自分を律することが出来ているつもりですが、それもそろそろ限界なようで。
・ 今更ですが、第三章第28話で、『ベスタ大迷宮』探索時にシェイラが同道した男性冒険者に襲われかけた理由の一つはこれです。手近な性処理相手と看做されたのですね。




