第25話 弱肉強食~ロック鳥~
第05節 龍を探して(後篇)〔3/7〕
『竜の食卓』は、草原地帯である。
が、ただ背の低い草しかない訳ではない。地面には起伏もあり、繁みもあればちょっとした森もある。流石にブルゴの森の樹々に比べれば樹高も低く、その面積も大きくはないが。
また小さな川や池もある。水源がどこで、何処に流れているのか興味があるが。
その結果、想像以上に豊富な生態系が構成されている。
小型の虫から大型の獣に至るまで、全てが魔獣という点を除けば、そしていつ『竜王』陛下がお見えになるかわからないという点も無視すれば、ここは恰も楽園のよう。魔力を宿した貴重な薬草も、ここでは当たり前のように自生しているし。
◇◆◇ ◆◇◆
気分は上々。しかし、状況はお世辞にも「上々」とは言い難い。
俺とシェイラとサリアとスノー、魔法職に該当する四人は(蟻鬼との戦いで盛大に魔法を使った所為で)魔力の残量がかなり少ない。
俺とシェイラは剣でも戦えるが、サリアとスノーは残りの魔力を温存すべき。
そしてルビーはまだ余裕があるようだが、カレンは既に疲労困憊。戦力としてカウント出来る状況にない。
なら行軍は、俺とルビーが前衛に、殿陣にシェイラを配し、三人の真ん中にスノーたち三人を置いて護送する。このフォーメーションで、今日は取り敢えず進むことにした。
そうして暫く歩いた先。山の方から振動と共に大きな音がした。それも、振動も音も、だんだん大きくなりつつある。……大型魔獣の、暴走か?
しかし、犬鬼のスタンピードならともかく、大型魔獣の、となると、より凶悪な魔獣から逃げている情景しか思い浮かばない。だとしたら、逃走している大型魔獣が蹂躙された後、次に標的にされるのは俺たちである可能性は高い。
なら、俺たちが逃げている大型魔獣をやり過ごし、その後方で追撃している凶悪魔獣をこそ相手にすべきだろう。
逃げている魔獣は、牡魔牛と牝魔牛の群れ。そして追撃してくるのは。
「……ロック鳥、か」
流石にちょっと、面倒臭い。
ロック鳥は大きな猛禽の魔獣であり、その爪は大きなバイソンを一掴みにするサイズである。それも、二羽(このサイズの猛禽系魔獣の数え方が“羽”で良いのか、検討の余地があると思うが)。草食系の動物(魔獣)を好んで食べると聞いたことがあるが、魔牛の群れを狙い打つか。
しかし、俺の〔魔力砲〕の敵ではなく、シェイラの〔空間機動〕ならほぼ互角の巴戦が出来る。
シェイラはまだ魔力に余裕があるから、〔空間機動〕で飛翔し、ロック鳥のうち一羽を任せることにした。そしてもう一羽は、〔魔力砲〕で狙撃。あいにく小さな弾丸を用意していなかったから、相変わらず20mm砲弾でしかないが、直撃させず掠めるように撃てば、最小限度の外傷で屠ることが出来るだろう(鳥系の魔物は、羽毛が使えるうえに、肉類は皮も食用に足る。骨は当然、出汁を取る為に使う。だから、なるべく傷付けないように)。
ロック鳥の飛翔能力は、シェイラの〔空間機動〕に比べて小回りは効くがスピードに劣る。つまり、飛行は鳥本来の能力である為、その分複雑な動きが出来るけど、揚力・推進力の限界を超える機動は出来ないということだ。
恰も鳥同士のような巴戦の結果、シェイラはロック鳥の初列風切羽(翼の外縁部で推進力を生み出す場所)を落とし、墜落させることに成功した。そして少し考えたのち、その首筋を斬り、出血によるショック死を強いたのである(つまり生きているうちから血抜きを始めた、ということ)。
突然の乱入者が、その群れの脅威を一方的に蹂躙したことにより、魔牛の群れは、選択を迫られたようだ。つまり、俺たちを新たな敵と認定し、戦うか逃げるか。
それとも、敵ではないと判断し、警戒を解くか。
結果的に、彼らは後者を選び、思い思いの場所で膝を折って寛いだ。
◇◆◇ ◆◇◆
「どうやらこの魔牛たちには、敵意はないようだね。
なら丁度良い。ここで野営の準備をしよう」
そして荷馬車を出し、野営の準備に入った。
サリアがうずうずしているのが見えたので、何種類かの薬草を手渡したところ、サリアはそれを持って魔牛の元に駆け寄り、餌付けに挑戦していた。
魔牛たちは、最初は警戒していたものの、敵意が無いことはすぐにわかったようだ。
何頭かは興味が無いとばかりに背を向け、しかし何頭かはサリアの手から薬草を食べた。これで餌付けが出来たかどうか。こればっかりはわからないが。
しかし、魔牛の群れと共に過ごした夜は、全く不安の無い、穏やかな時間だったことを附記しておく。
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翌朝。魔牛の群れとは平和的に別れて(サリアは馴致出来なかったと悄気ていたが)、一行はまた歩き出す。
それから数日間は長閑な旅。思わず馬車を出したくなるくらい(ダンジョン内で馬車を出すのは自殺行為)。
そんなある日、ちょっとした小川に差し掛かり、その川の上流に森と泉があった。
そして、その泉の畔に、一角獣の群れが屯していたのである。
「アドルフ。この中にユニコーンの前に出して大丈夫な女性って、いる?」
「……カレン、何が言いたい?」
「知らない訳じゃないでしょう? ユニコーンがその身に触れることを許すのは、処女だけ。
で、アンタの周りに処女って残っているの?」
「俺にとっては名誉毀損で訴えたくなる言い分だが、抑々が間違いだな」
「間違いって、何が?」
「ユニコーンは、清らかな処女のみにその背を許す。その言い伝えが、だよ」
「だけど実際、経験がある女が処女のフリをしてユニコーンに近付いたら、その角で突き殺されたって話は幾らでもある筈よ?」
「だから、それがミスリードなんだよ。
ユニコーンは本来、気性の荒い魔獣だ。馬の魔獣だから、何とかして屈服させて乗りこなしたいと思う騎士たちが多かったけど、誰一人それに成功しなかった。
やがて、その美しさから『清らかな処女ならその背を許すに違いない』という噂が流れ始めた。
あとは簡単だ。
若い女をユニコーンの前に押し出して、殺されたら非処女だ。
実際の経験の有無などどうでも良い。誰が見ても処女の筈なのにユニコーンに殺されたというのなら、その少女はきっと裏で男漁りに勤しんでいた淫売に違いない。とね。
一人でも、ユニコーンに背を許してもらえた女性がいたら、もう少し違っていたんだろうけれどね」
伝承と現実。それはおそらく、決して交わることのないモノなのだろう。
(2,915文字:2016/07/20初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/05 03:00掲載予定)
【注:鳥の羽の構造(風切羽)に関しては、Wikipedia「風切羽」の項(https://ja.wikipedia.org/wiki/風切羽)を参照しております。
ロック鳥は、原典を辿れば「ルフ鳥」(「ruf」=「犀」鳥)が「ロック鳥」に空耳(ruf⇒ruc⇒rokh⇒roc⇒rock)して、「大岩鳥」となった、というのが実状のようです。つまり、本来は「サイを掴んで飛ぶ程の大きさの鳥」という意味で、「ロックゴーレムの怪鳥」は和製ファンタジーです】
・ 鳥の魔獣(魔鳥/魔禽)と猫の獣人で犬の戦いとは、これ如何に?
・ この世界に「名誉毀損」という罪状は存在しません。平民の名誉など誰も顧みませんし、貴族の名誉を毀損したら、貴族同士なら決闘で決着を付けられますし、平民が毀損したのならその場で切り捨てられて終わりですから。




