第17話 攻撃魔法の威力~魔羆~
第04節 龍を探して(前篇)〔1/6〕
そういう訳で、旅団【緋色の刃】は『竜の山』を目指すことになった。
メンバーは、まず【緋色の刃】のフルメンバー。何が起こるかわからないから、術や技能のバリエーションは多い方が良いということで、スノーも今回は同行している。特に彼女は『雪娘』の二つ名……ではなく、『氷雪』の二つ名を持つ。これから冬を迎えようとする高山は、寧ろ彼女の独擅場かもしれない。
他に、森妖精の若長・ゼロス。彼は、ブルゴの森が切れるところまでの道案内だ。
測量が終わっていない場所を歩く訳だから、エルフの道案内というのは必須といえる。その一方でゼロスの技量では、『竜の山』の探索には力不足と判断され、『竜の山』の麓まで同行することになったのである。
そして助手として、【造反者】のカレン。
彼女が俺たちと同行することに伴い、彼女の(正確には【造反者】の)冒険者ギルドに対する借金の返済期限は、探索完了時まで自動的に引き延ばされることになった。
ちなみに、この件に関しては面白い事情がある。
通常なら、こういった期間未定の依頼に出るときは、その前に(更に別の相手から)借金をしてでもギルドに対する借金を返済する必要がある(でなければ未帰還となったとき、借金分だけギルドが損をすることになるから)。ところが、彼女が同行する相手が俺たちだということで、事情が変わってしまったのである。
冒険者ギルドが貸したカネというのは、事実上【ラザーランド商会】延いては俺が貸したものと同義である(現在町の経済は俺が貸したカネで回っているのだから)。つまり、貸主が同行しているのだから、返済を焦る必要が無い。というのが第一点。
もう一つは、万一俺たちが未帰還となれば、ネオハティスの町の経済も破綻する訳だから、【造反者】の冒険者ギルドに対する借金を回収出来ないことなど小さな話になってしまう。そして帰ってくることを前提にモノを考えるのなら、返済期限が延長されるとしても、(帰って来た時には同行した報酬で借金を返済出来るのだから)まるで問題ではなくなってしまう。だから、焦る必要が無いのだ。
なお、カレンも実力的には『竜の山』に挑むにはまだ力不足の感もある。しかし、宝剣『ゴルディアス』もあり、カレン用に作った(建前上は今回の探索行の為に貸し与えた)竜革製品(鎧と手袋、長靴、外套そして背嚢)があるから、最悪身を守ることくらいは出来るだろう、と判断されたのである。
◇◆◇ ◆◇◆
森の中で。
視界の片隅に、何かが見えた。クマ? ヒグマ? 否、魔羆。
「……よし。」
「『よし』、じゃないわよ。何をする気?」
俺が魔羆に向かって歩き出そうとしたら、カレンが後ろから声をかけてきた。
「え? 今作っているハティス男爵邸の、居間に敷く絨毯が欲しいかな、って思ってね」
「まってよ。アンタ莫迦じゃないの? 襲われて仕方が無く、って言うんなら仕方がないけど、こっちから積極的に魔羆に手を出すなんて、自殺行為だわ」
「って言っても、魔羆は確かに地上で一・二を争う力を持つ魔獣だけど、飛竜よりは弱いだろう?」
「……基準、そこ?」
「あぁ。対ワイバーン戦を想定した、開発中の魔法の試射をしておきたいっていうのが本音だからね」
「あんなとんでもないことが出来るのに、まだ?」
「アレは未完成だよ。予定の半分の威力も出ていないし。だから術式構成とかを少し弄ったんだ。その確認を、ね」
「だから待ちなさいって。アレで半分以下!?」
なんか世界の終わりみたいな顔をしているけど、カレンさん、そんな大変なことがあったんですか?
と、思っていたら、今度はシェイラとサリアも口を挟んできた。
「ご主人様。私も手甲鉤の試し斬りがしたいです」
「あたしも、〔氷結圏〕の対単体戦闘能力の確認をしておきたいな」
シェイラはともかく、サリア。随分戦闘民族的な発言をするようになったな。
「否、接近戦をするとカレンに怒られそうだから、今回はこの位置からの狙撃にするよ。その方がおそらくこの魔法の戦力評価には丁度良いだろうし」
距離、大凡100m。長弓の水平射じゃ届かないし、火縄銃でも届かせるのが精一杯。
しかも相手は魔羆。ただのヒグマだったとしても、火縄銃の威力じゃぁ接近してもその毛皮と筋肉の鎧を貫通出来るかわからない。ただ俺の開発中の攻撃魔法は旧バージョンでもワイバーンの鱗を撃ち抜ける威力があるのだから、魔羆ごときに後れを取ることはないだろうけれど。
そう、使う魔法は無属性魔法Lv.4【気流操作】派生10b.〔魔力砲〕(仮)。
この魔法は対ワイバーン戦の時はLv.1【物体操作】の派生として捉えていたが、砲身も作用させる力も、ともに【気流操作】で生み出しているのなら、やはり分類はこちらだろうと移動させたのである。
砲身術式は、内径に施条を刻み貫通力を高め、弾丸はシンディに専用の物を作ってもらった。直径2cm、長さ6cm程度の鉛の弾頭だ。
狙いを定めて、発射!
……、あ。
魔羆の頭、爆散した。
「威力が強すぎるな。評価し難い」
「否、対ワイバーン戦用の攻撃魔法を魔羆に使えば、あんなもんでしょう?」
呆れた顔で、サリア。
カレンはもう声も出せない、という顔をしている。
確かに、考えてみれば直径2cmの弾丸って、つまり「20mm」だから、戦闘機の機関砲と同程度のサイズってことになる。戦車を吹っ飛ばすというのならともかく、狩猟で使うサイズではないわな。
ともかく、首から上が無くなった魔羆を〔無限収納〕に放り込み、先を行くことにした。
ちなみに。
この一連のコントの最中、スノーとルビーは足元で見つけた薬草類の採取をしていた。魔羆には全く興味が無いようで。
一応聞いてみたら、「虎はウサギを仕留めたからって自慢しないモノでしょう?」とだけ言われた。そう言われると、はしゃいでいた俺たちが莫迦みたいじゃないか。
(2,743文字:2016/06/08初稿 2017/06/01投稿予約 2017/07/20 03:00掲載予定)
【注:本節と次節の節題である『龍を探して』は、スクエア・エニックス社の名作ゲームシリーズ「ドラゴンクエスト」のオマージュです】
・ リリスは、いつもの通りお留守番です。
・ ゼロスとカレンを比べた時、剣の技量という点でも実戦経験という点でも、カレンの方が上です。
・ 正面からの接近戦を考えた時、魔羆との相性が一番良いのはルビーです。他のメンバーでは正面戦闘をしたとき無傷で勝利出来る可能性はかなり低いというのが実情です。
 




