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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第六章:「傭兵は経済学者!?」
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第21話 再会

第04節 小麦戦争 Round-1〔3/4〕

◆◇◆ ◇◆◇


 その日。ハティスの難民団は、ボルド市近郊に到着した。

 そこには商会【セラの孤児院】が用意した天幕(テント)が張られ、一時的な難民(キャンプ)を構成していた。


◇◆◇ ◆◇◆


「スノー、サリア、ナナ。女奴隷(カリン)獣人奴隷(ラギと)兄妹(ララ)を連れて、炊き出しを兼ねて難民たちの名簿作りをしてくれ」

「わかったわ」

「アナは難民団の幹部たちをこの邸館に招待して。評議会には話を通してあるから」

「かしこまりました」

「残りは招待客の歓待の準備。評議会と商人ギルドからも客があるから、粗相(そそう)のないように」

「はい!」


 大凡(おおよそ)三年ぶりになる、ハティスの人たちとの再会。

 その下地は戦略と政略に(まみ)れた(みにく)いモノではあるが、事実関係だけを見れば手放しで(よろこ)んで良いことだろう。

 せめて彼らが(かいたく)天地(よていち)に到着するまでは、難しいことを考えることは()めてただ歓ぶことにしよう。


◆◇◆ ◇◆◇


 炊き出しと、名簿作り。怪我人や病人などがいれば簡単な診察と治療。

 ただ(ほどこ)せば良い救護院の手伝いとは違い、ここではやることが多い。

 そして多くの難民は、脚気(かっけ)(ビタミンB₁欠乏症)の症状が出ていた。サリアはそれを確認した後、麦粥(オートミール)とビタミン(トローチ)を一つずつ、全員に提供した。


 ビタミン飴を受け取ったある女性は、その場で口に含み、途端(とたん)ボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「ど、どうしたんですか?」

「また、この飴を口に出来る日が来るなんて。

 本当に美味しい。昔と同じ、命の味だわ」


 話を聞いてみると、昔アレク(アディ)迷宮(ダンジョン)内でこの女性を助けたのだそうだ。そしてその時も、ビタミン飴が差し出されたのだという。

 その時は、『疲労回復の魔法薬』と(いつわ)って。

 でも、言葉の(うそ)より気遣いの(ほんとう)の方が嬉しくて、その味は一生忘れられないモノになったのだそうだ。

 長く(つら)い難民生活の果てに、またこの味が迎えてくれた。

 もう大丈夫。自然と、そう思って気力が()いてくる。

 栄養も、カロリーも不足して()せこけた(かんばせ)の女性は、それでも生気を取り戻した表情で、(あふ)れる涙をそのままに笑顔を形作ったのだった。


◆◇◆ ◇◆◇


「はい、次の人。名前と出身地を教えてください」


 こちらはスノーの担当している列。

 彼らは、当初王都フェルマリアを目指していたと聞いている。つまり王家を頼っていたのだ。

 今のスノーは王族を名乗るつもりはない。けど、自分たち(おうけ)を頼った彼らに対し、しかしそれに(こた)えられなかったことを(つぐな)いたいと思うのは、偽善だろうか?


「えっと、兄妹です。ボクは……、って、ルシル姉さま!?」

「ムート? ムートなの? それにロッテも。

 ……無事だったのね?」

「はい、王都を脱出した後、この難民団に保護されました。

 それよりも姉さまもよくぞご無事で」

「うん、()もる話もあるけれど、それは後回し。

 炊き出しを手伝いなさい」

「……ボクたちも難民なんだけど?」

「あんたたちは今日今この瞬間家族の(もと)に帰り着けたんだから、もう難民じゃないわよ」

「……酷い(ひでぇ)


◇◆◇ ◆◇◆


 その日の夕刻。難民団の幹部たちとボルド市の幹部たちがともに邸館を訪れた。


 俺たちが11人、ボルド市の商人ギルドからギルドマスター以下4人、鍛冶師ギルドからギルドマスター以下3人、冒険者ギルドからギルドマスター以下5人、評議会から評議長以下6人。

 そして難民団の幹部が8人。おまけにスノーが保護した兄妹2人。

 合計39人の大所帯である。しかし、俺たちの邸館に40人規模の会議が出来る場所なんかはない為、庭に(テーブル)を並べて青空会議と洒落(しゃれ)込むことにした。


 難民団の幹部。その連中の半分以上は顔見知りだった。

 団長、セラフ・エルルーサ=ハティス男爵夫人とその側近のアリシア。補佐役には孤児院にいた悪ガキのライ(襲撃事件の時、観測手(スポッター)(つと)めた子)が一人前の男の表情で付き添っていた。

 鍛冶師ギルドのギルドマスターはリック義父(おやじ)

 冒険者ギルドの代表者(ギルドマスター)はオードリーさん。

 (なつ)かしい顔が見れて嬉しい反面、彼らを逃がす為に(ハティス)に留まった人たちの冥福を祈り、(しばら)くはしんみりした空気が(ただよ)った。


 だけど、いつまでも感傷に(ひた)っていては話が進まない。

 今後の予定を定める必要があった。


◇◆◇ ◆◇◆


「積もる話はそれこそ山のようにあるけれど、それは後で時間を割こう。

 今は(みんな)の行く末を定める必要がある」


 会議のはじまりは、俺のこんな言葉からだった。それを受けて、難民団の代表であるセラさんが、難民たちの懸念(けねん)を真っ先に口にする。


「これから私たちはビジアまで行かなければいけないんでしょう?」

(いや)、ビジア領主に確約してもらった開拓許可は、河向こう。だから、ボルド市から河を渡ってすぐのところを(ひら)くつもりだ」


「……ちょっと待て。河を渡ってすぐ、というと、そこは『不帰(かえらず)の森』じゃないのか?」

「その通り。『不帰の森』の森妖精(エルフ)たちとは話を付けてきた。エルフたちの生活を侵害しないように町を作る」

「全く、いつの間に……」

「とはいえ、一朝一夕で町を作ることなんか出来ないからな。せめて来年の雪融(ゆきど)けまでは、ボルド郊外に難民村を展開することを認めてほしい」

「それは仕方がないな。ただ、市からの援助は……」

「わかってる。既に充分過ぎるほど援助してもらっている。これ以上要求することはないよ。ここから先は、俺たちがすることだ。


 だが開拓は俺一人じゃ出来ない。ボルド市からも人足(にんそく)を派遣してほしい」

「良いだろう。だが、ボルド評議会としてはお前が作る新しい町について、一つ注文がある」

「何か?」

「港湾施設を持ってもらっては困る。ボルド港の価値が相対的に低下してしまうからな」

「それは考え過ぎだと思うが。どちらにしても交易の中心は河の南岸だ。北岸に新しい港を作ってそこに荷揚げをしたとしても、その荷は改めて南岸(ボルド)の港に運ばなければならないだろうからね。

 だけど了解した。渡し船の桟橋(さんばし)以上の港湾施設は建設しない。約束しよう」


 とはいえ開拓の都合と町が動き始めてからの流通の都合を考えると、その『渡し船』はかなりの大きさと数が必要になるだろう。なら、ボルド市に対する仁義を通す為に外洋船の母港とはしない方向で、整備をするとしよう。


 その他開拓の方針やその町の産業設計などを話し合い、最初の会合は終わりを告げることになった。

(2,817文字:2016/03/20初稿 2017/04/01投稿予約 2017/05/03 03:00掲載予定)

・ 「脚気」はビタミンB₁の欠乏により起こります(ちなみに「壊血病」はビタミンCの欠乏)。一方、柑橘類の果汁を煮詰めて作ったビタミン飴は、ビタミンCの補給は出来てもビタミンB₁の補給は出来ません。

 ビタミンB₁は豚肉に多く含まれておりますので、難民団に脚気の症状が多く出たのは、それだけ食糧事情が悪化していた証でもあります。

 ビタミンCの不足も(症状として表れていなかっただけで)否定出来ません。

・ ムートとロッテの正体は、難民団の中ではバレバレでした。名前も隠していないし。けど皆、温かい眼差しで幼い兄妹を見守っていました。

・ 『不帰の森』攻略の顛末は、小麦戦争のエピソード終了後に語ることになります。

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