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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第六章:「傭兵は経済学者!?」
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第12話 傭兵騎士と英雄将軍(後篇)

第02節 傭兵騎士と賢者姫〔7/8〕

 俺は自分の放った刺突(つき)の慣性で、(たい)が前方に流れてしまっている。

 所謂(いわゆる)()(たい)”となった俺の身体めがけて、マーシャル卿の剣が迫って来た。


 しかし。

 直後、俺の刀は慣性も筋力も無視して腰まで引き戻される。そしてもう一度、敵に向かって刀を突き出す!


 一撃目の刺突も、二度目のそれも、ともに無属性魔法Lv.1【物体操作】派生02c.〔突撃(チャージング)〕による刺突攻撃。そして、〔突撃〕は突き出した剣を引き戻す動作までが一連の工程となってセットされているのだ。


 常識ではありえない姿勢から繰り出された二撃目の刺突。これは完全にマーシャル卿の(きょ)を突くことが出来た。

 急な回避運動はその姿勢をも崩し、一方の俺は〔突撃〕の反動で体勢を立て直し、そして。


☆★☆ ★☆★


 幕末に、天才と(たた)えられた一人の剣士がいた。

 彼は刺突を得手(えて)とし、その刀は数多(あまた)維新(いしん)志士(しし)たちを(ほうむ)ったという。


 彼の(わざ)の多くは、しかし、後世の講談(創作)に()るものだとされる。

 それは彼が若くして病没したことにも起因するが、何より彼の得意技とされる『三段突き』が、物理的に再現不可能であることからも、虚構(フィクション)である事実に疑いの余地はない。


 刺突は、体重を乗せて刀を突き出す。

 もう一度突く為には前方に流れた重心を引き戻さなければならないし、流されるままに踏み込めば敵との距離が埋まる為二段目の突きを放てない。

 逆に体重を乗せずに(腕の力だけで)突きを放てば、威力が足りず脅威(きょうい)足り得ない。


 三段突き。それは(まさ)に、『魔法の助けを借りでもしない限り』使えない業なのである。


★☆★ ☆★☆


 一段目の突きは、一撃必殺を目論(もくろ)みながら、(かわ)された場合は二段目に繋げ、

 二段目の突きは、敵の虚を突き最低でもその姿勢を崩すことと自身の(たい)を戻す為に、

 そして大本命の三段目。


 体勢の立て直しが終わっているから、身体能力だけで突いても充分威力を発揮出来る。

 しかし、この猛将相手ではそれでも一手足りなくなる恐れがある。だから。

 突くと同時に太刀を〔射出(インジェクション)〕で加速!


 狙い(たが)わず、大太刀『八咫(やた)』は、マーシャル卿の胴鎧(どうがい)(つらぬ)いた。


◇◆◇ ◆◇◆


 身体のあちこちが痛い。

 〔肉体(セルフ・)操作(マリオネット)〕で膂力(りょりょく)を底上げし、〔空間(エコー)音響探査(ロケーション)〕で先読み能力を増幅(ブースト)し、〔回復魔法〕で随時ダメージを(おぎな)い、〔突撃〕や〔射出〕で攻撃力を増強して、ようやく手が届くほどに隔絶(かくぜつ)した相手。

 特に最後の三段突きは無茶過ぎた。その無茶の代償は全身の(きん)繊維(せんい)と関節に来ている。(むし)ろ骨が砕けていないだけでも上出来、というぐらいぎりぎりの戦いだったのだ。


 だが、まだ終わっていない。

 俺は『八咫』をマーシャル卿の(どう)から引き抜くと同時に、腰に()いた小太刀『長鳴(ながなき)』を抜刀し、敵将の首級(くび)を落とした。


「討ち取ったりぃ!」


 その首級を(つか)み、高々と(かか)げ、勝利を(せん)する。

 (かつ)てのフェルマール最強の英雄が、20歳(はたち)にもならない傭兵に、それも文句無しの一騎討ちで(やぶ)れたのだ。敵兵は一様(いちよう)に戦意を喪失(そうしつ)し、アプアラ領へ逃散(ちょうさん)した。


(すげ)ぇな、うちの大将は」

「ちょっ、触らないで。

 見た目以上に全身ガタガタなんだよ。

 今ならウサギにドつかれただけで倒れる自信があるからな」

「……まぁ、マーシャル卿と一騎討ちで勝って無傷、っていう方が有り得ないか。

 なら少し休んでいろ」

(いえ)、話し合うことがあります。領主様を呼んでください」


 話し合うべき内容は、今後の方針。

 当初予定では、アプアラの別動隊を撃破したのち領都ウーラを逆撃する予定であった。

 けれど、ここで思わぬ大物の首級を取れたことで、無理にウーラを目指す必要がなくなった。


「どういうことだ?」

「つまり、アプアラ領にとって、切り札であったマーシャル卿が敗れたことで、事実上詰んでいるんです。だからこそポイントO・(オー)ウッズの戦闘は、既に無意味になっている。

 なら、POWのアプアラ領軍には引き上げていただいて、お土産にマーシャル卿の塩漬けの首級を持って帰ってもらえば、あとは政治の時間です」

「しかし、それではアプアラ領軍の戦力は保持されたままだ。ビジアにとっての脅威(きょうい)払拭(ふっしょく)されるわけじゃないぞ」


 ユーリが控えめに反論するが、


「それで良いんです。今後アプアラ領は、自領の独立を維持する為にリーフ王国と事実上の戦争状態に(おちい)りますから」

「なに?」

「彼らがフェルマールを裏切ったのは、リーフ王国で出世を望んだからでもなければフェルマール王家を憎んでいたからでもありません。徹頭徹尾自領を守り抜く為です。

 フェルマールの翼下(よくか)にあってはリーフ王国の脅威から領を守れないと思ったから、リーフ王国に尻尾を振った。

 けどリーフはおそらくアプアラ伯に、北の辺境地に領の移封(いほう)を求めるでしょう。アプアラ伯はそんなことは望んでいない。だから領地を不動のものにする為に、ビジアを併合することを目論(もくろ)んだんです。

 それが失敗した以上、アプアラ伯はリーフに(やいば)を向けてでも領を守ろうとするでしょう。

 場合によっては、他国の支援を受けてでも。

 なら、ビジアにとって今後のアプアラ領はリーフ王国に対する盾であると同時に良い商売相手です。善良なフリをしながら糧秣(りょうまつ)を吹っかけて売りつけてやれば良いんです」

「つまり、ここで相手を屈服させ過ぎないことこそが、今後のビジアにとっての利益になる訳か」

「そういうことです」

「よくわかった。なら今すべきことは――」

「POWに向かい、最早(もはや)無益となったこの戦争を終わらせることです」


◇◆◇ ◆◇◆


 後で知ったことだが。

 マーシャル卿は、宝剣『ゴルディアス』をフェルマール王から下賜(かし)された際、「これでフェルマールは大陸を征服することさえ出来るだろう」と壮語(そうご)したのだそうだ。

 しかし王に征服欲はなく、その為自身の戦闘欲が満たされなかった彼は、戦場を求めてアプアラ領に来たのだという。

 そしてマーシャル卿の登場が、アプアラ伯が離反を決意する理由のひとつになったのかもしれない。


◆◇◆ ◇◆◇


 英雄を必要とするのは、負けている軍であり、滅びに(ひん)している国家。

 栄えている国に生まれる英雄は、乱の(きざ)しにしかならない。

 何故なら、英雄の居場所が無い時期を称して『平和』というのだから。

(2,853文字:2016/02/17初稿 2017/03/01投稿予約 2017/04/15 03:00掲載予定)

【注:沖田総司の三段突き(無明剣)には諸説あるようです。一瞬で三つの急所を貫いた、とか、「突く」「引く」「突く」で三段だ、とか、「突く」「突いて薙ぐ」「突いて引いてまた突く」と三種類の展開があるから三段だ、とか。ここでは一瞬三閃説を採用しております】

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