第09話 軍師と乙女
第02節 傭兵騎士と賢者姫〔4/8〕
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冒険者は全員冒険者ギルドに所属しなければならないのだろうか?
そんなことはない。ギルドはあくまで互助組合に過ぎない。商人や領主などと直接契約を交わして採取や討伐、護衛や戦闘をする冒険者も少なくない。また迷宮に入る為にも、入場料だの入場資格だのは本来無いので、ギルドに所属していないどころか冒険者でさえない人間がダンジョンに入ることにも問題はない。
ただ、ギルドに所属していなければ身分証明書が発行されない、情報交換出来ない、商人と個別契約しなければ素材等の換金が出来ない、などの不都合が生じるのも事実である。また(ギルド所属の冒険者からはあまり歓迎されないが)DE級の、所謂「お使いクエスト」はギルド所属の冒険者に対してしか発注されない。
世の中には、ギルドに所属することで生じる面倒を避ける為に、敢えて所属しないことを選ぶ冒険者もいる。或いは所属しているギルドから正規の移籍手続きを経ずに他のギルドの管轄する街で活動する冒険者もいる。
そしてそういった連中は、護衛や戦闘といった(つまり報酬の高い)契約を好んで行うことから、戦争専門の連中と区別せずに『傭兵』と呼ばれるのだ。
傭兵。
この世界では、「野良の冒険者」と同じ意味を持つ言葉なのである。
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「私が、別動隊の指揮を……?」
俺が別動隊の(名目上の)指揮を、ビジア領主ユーリ・ハーディにと指名したところ、本人は目に見えて動揺していた。旗頭になるのは受け入れられても、実際の指揮と戦闘の能力を問われる別動隊の指揮官というのは、尻込みするに値する肩書だったようだ。
「他の領に侵攻するのに、大義と名分を明らかにする為にも領主殿がいてくれた方が有り難い」
「しかし! だがそれなら本隊の指揮は一体誰が?」
「ミリア、お前がやれ」
「え? で、でもおにぃちゃん、私戦の指揮なんて出来ないよ?」
「それで良い。否、それが良い。
防衛戦に必要なのは、すべきことを的確にすることだけだ。
変に才気走った指揮官に任せるよりも、自分が無能と知っている指揮官の方が安心出来る」
『才能ある指揮官』とは、「少数で大軍を破ることが出来る指揮官」のことを指す場合が多い。
しかし防衛戦の(それも本隊の)指揮官は、敢えて兵を分け、少数で敵と戦う必要はないのだ。ならわざわざ少数で敵と対峙し、(策が当たれば良いが)失敗したら無駄に兵を損耗する危険を冒す必要はない。
必要な場所に、必要な数の兵を配置する。少な過ぎれば意味がなく、敵と同じくらいの数だと(防衛に成功しても)兵が疲弊して後に続かない。そして数が多過ぎれば他の場所に穴が開く。
愚劣では困るが、平凡な将が必死に考えて兵を配置するのが実は最も理に適った防衛戦の戦術となりうるのである。ましてや功を焦る必要のない領主夫人なれば。
「だが、ミリアを戦場に立たせるのは危険すぎる」
「それも考えている。
サリア。ミリアを守れ。
敵を殺す必要はない。そんな覚悟はいらない。
だが守り抜くこと。覚悟を決めてそれだけは貫き通せ」
「! わかった。それなら出来るわ。
アディ、ジュラルミンの大楯は何枚持ってる?」
「今手許には8枚あるが」
「なら全部出して。あたしと、侍女さんたちと、騎士さんたちで、文字通りの鉄壁となって賢者姫を守るから」
◇◆◇ ◆◇◆
「それにしても。アドルフさん、否、義兄さん。
貴方は商人じゃなかったんですか?」
「商人だよ。
初めから言っていただろう? この領と取引がしたい、と。
その為に恩を押し売りする、と。
心配しなくても、サリアをはじめとする傭兵の派遣料や追加で調達する武具の部品代は正価で請求させてもらうよ。サリアに求められた楯の賃貸料もね。
あ、糧秣に関してはアプアラで調達したものだから、代金は勉強するよ」
「……感謝する」
「それは全部終わってからにするんだな。
ついでに幾つかの知識やマニュアルも押し売りさせてもらう。
将が無能でも最低限領を守れる組織が作れるようにね」
◆◇◆ ◇◆◇
その後アディは、単身ボルドに戻った(一人なら〔空間機動〕で飛べる)。
そして残されたサリアは。
「ここに集まった侍女たち、騎士たち。
貴方たちが守るべきは、一体何?」
「はっ! 姫様です」
「そう。賢者姫こそ貴方たちが守るべきもの。
貴方たちが守るべきものは、決して『騎士道精神』なんてあやふやなものじゃない。
まずそれを理解して」
「は?……」
何を言っているのかわからない。騎士たちはそういった顔をした。そうだろう、彼らは騎士道精神を守ることと、姫君を守ることを同一視しているのだから。
「貴方たちが使う武器は、槍であり、投石であり、弩であり、弓よ。剣を抜かなければならないときは、貴方たちが守るべき者を守れない時。剣の間合いに踏み込まれたということは、罷り間違えば姫様の柔肌に敵の刃が届くということなんだから。
そしてこの戦で、本隊がすべきことは敵を撃滅することじゃなく、敵の足を止めて時間を稼ぐこと。なら近付かせないようにするだけで、充分目的を果たせるわ。
それは貴方たちの武勲にはならないかもしれない。けど、貴方たちが武勲を立てられるのは、貴方たちが失態を犯した後でしかないことをまず肝に銘じなさい」
「はい!」
「四人で一組になって。一人は楯持ち。二人が攻撃。一人が指示兼雑用。
楯持ちは後ろの三人と姫様を守る為に、死んでも敵を押し止めなさい。
指示役は攻撃役の二人に対し、彼我の距離に応じて槍か弩か有効な武器を指示する。同時に弩の矢弾を装填し、敵が密集していたら投石の指示を出し、距離が開いていたら弓を持って自ら攻撃する。重要な役目よ。
あ、侍女さん五人はそれで一組。指示と雑用を分業して」
「教官殿、質問があります!」
「(誰が教官よ?)……何かしら?」
「何故密集しているときは投石なのでしょうか? そのときこそ矢の雨を降らせるべきなのではありませんか?」
「それは別の隊の役目です。
ここでは便宜上『投石』と言っていますが、正確には『火炎瓶』を投げてもらいます」
「火炎瓶とは如何なる物でしょうか?」
「割れると燃える、油の塊を入れた壺よ。数を用意出来ないから、貴方たちだけに任せます」
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敵を迎撃する地点を想定した訓練をし、ボルドから持ち込まれた武具を組み立てる。
領主と賢者姫の演説で民兵を募り、民兵に武具の使い方を教える。
やるべきことは幾らでもある。しかし、時間は少ない。
砂時計の砂が落ちるかの如く雪が融けてゆき、やがて夏の二の月。
アプアラ領軍が領都ウーラを進発したとの第一報が齎された。
(2,958文字:2016/02/14初稿 2017/03/01投稿予約 2017/04/09 03:00掲載予定)
・ 昔、感想欄で「ミリアは魔法職として主人公の仲間になるのか?」と問われ、「幼気な針子を戦場に立たせようとしないで!」と返事しました。けど、もうミリアは子供じゃありません。領主夫人として、夫と共に領と民を守る立場になったのです。
・ 護衛任務が完遂出来たといえるのは、護衛役が何もしなかった時です。護衛役が戦わなければならないのなら、その時点で任務は既に失敗しているのです。護衛役が戦うのは、ただ護衛対象を守れなかったという最悪を回避するだけの為なのですから。
・ サリアは前世、ネトゲのMMO-RPGをやっていました。だから戦術単位の組織戦は、ある程度知っています。ネトゲの大規模戦が実際の戦争にどれだけ役に立つかは不明ですが、部隊単位の行動指針としては、一つの参考程度にはなるでしょう。
・ ちなみにこの戦争に、スノーとルビーは参加しません。身バレのリスクも高いというのが理由の一つ。あとは、後方で政治的な支援も必要ですし。
・ 正直に言って。「己の分を弁え、すべきことを的確に行い、功を焦らず、無駄なことをしない」指揮官は、「良将」とか「堅将」と呼ばれることでしょう。しかし、こういった指揮官は大衆からはなかなか評価されず、一般には「凡将」呼ばわりされることになります。こう言った良将を使いこなせるかどうかで、最高司令官の質が問われます。




