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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
229/368

番外篇4 ハティスの戦い その5 ハティス攻城戦 《火計》

〔5/6〕

◇◆◇ ◇◆◇


 開戦七日目。

 最小の被害でハティス市を通過しようと思えば、(むし)ろじり貧になる。

 なら、多少の被害は許容して飽和(ほうわ)攻撃を仕掛ければ、こんな小さな地方都市の防衛戦力では対処出来なくなる。


 そう考え、騎士団の波状攻撃により市壁に作られた(ゆみ)狭間(はざま)の位置を特定し、その死角から歩兵部隊による弓射攻撃を行った。

 しかし、長距離での弓射戦では市壁上から攻撃出来るハティス軍の方が有利であり、こちらの矢が届く距離まで近づくと、今度は市壁中段からの(クロスボウ)の連射攻撃に(さら)された。

 騎士団が特定した弓狭間の位置とは別に、大きく口を開いたクロスボウ用の射撃台。当然我が軍の弓兵の射程内となるのだが、信じられないことに長弓(ロングボウ)に匹敵する連射速度で攻撃してきた。短弓(ショートボウ)ならその連射速度を(しの)ぐことが出来ようが、その為には更に内懐に入らなければならず、すると今度は市壁上からの投石や溶鉄(ようてつ)餌食(えじき)になってしまう。

 しかし、昼夜を問わずに攻撃することで、少数に過ぎないハティス軍の疲弊(ひへい)を誘い、消耗させることを選択する。直接攻撃を担当する我が軍兵の数は一度に千程度にしておけば、交代(ローテーション)で休息も取れる。現に、五日目ごろから我が軍の弓兵の矢は市壁上のハティス兵を捉えだし、また市壁に梯子(はしご)()けることが出来たのも一度や二度ではなくなっている(残念ながらその都度(つど)撃退されているが)。


 そして。

 樹を()り出し、破城(はじょう)(つい)を完成させた。

 市門の(かんぬき)を打ち抜くことを目的とした破城槌なら歩兵たちに抱えさせても良いだろう。しかし、今回は市壁そのものを打ち抜くことを目的にしている。それは、一打(ひとう)ちや二打(ふたう)ちでは足りず、数日かけて打ち続けてようやく打ち抜ける、というモノだろう。だからこそ、市壁上からの攻撃に備えて屋根を配し、移動の為の車輪を取り付けた。


 ところが。

 破城槌の輸送には、思ってもみないほど手間がかかった。

 というのは、地面には縦横に(みぞ)が掘られていたのだ。だが、その上を黒く(・・)柔らかい(・・・・)()で埋められていた。徒歩や騎乗では気付かなかったのだが、破城槌の重量ではこの溝に(はま)ってしまい、上手く動かせなかったのである。

 それでも何とか隊列の最後尾にまで運び進めると。


 ハティス市内から、投石機(カタパルト)による攻撃があった。


◇◆◇ ◇◆◇


 おそらくは、平衡錘(トレビュ)投石機(シェット)

 市内から、市壁を越えて陣屋に撃ち出されてきた。

 当然市壁が目隠しになる為、命中精度など危険視するものでもない。が、それだけに、何処に飛んで来るかわからない不安がある。

 しかも、我が軍は数が多く、当然その布陣は広い。つまり、「どこかに当たれば良い」と思って撃ち出されてくるのであれば、これは見過ごせない脅威になる。


 撃ち込まれた、弾丸になる石は、よく見れば黒い石(・・・)瓦礫(がれき)・木材片などを麻袋に詰めたものだった。これなら直撃しても、破城槌は破壊されない。そう思い、寧ろ破城槌隊は安全な楯になると味方を鼓舞(こぶ)し、前進を命じた。


 だが、その夜。


 夜になっても、市内からの投石攻撃は止まなかった。

 が、あるタイミングで飛んで来た石は。


「え? ……燃えてる?」


 赤々と燃える炎を(まと)って、その石は飛来した。

 そして、着弾すると同時に。


 地面の黒い土(・・・)が次々と引火・炎上しはじめたのだ!

 そしてそれは、その黒い土に(まみ)れた兵士たちも例外ではなかった。


「燃える土、だと? これは一体、何なんだ!」

「ハティスでは、石炭(コール)と呼ばれる燃える石が発見された、という話を聞いたことがありましたが、まさかこれは……」

「何故それを先に言わなかった!」

「真偽不明の上、戦争に活用出来るものかどうかもわからなかったので、報告する価値が無いと思っておりました。

 これは確かに小官のミスでありましょうが、今はそのことよりも退却するべきです。

 閣下も小官も、その軍服は“黒い土”に塗れておりますゆえ」


◇◆◇ ◇◆◇


 ハティス軍による火計の被害は、思ったほど大きくはなかった。

 陣地全域が炎に包まれたにもかかわらず、戦死者・重傷者は一割程度で収まったのだから。

 だが、ハティス軍は(あたか)焚火(たきび)(まき)をくべるかの如く、投石機により“黒い石”や木材片などを詰めた袋を撃ち込んで来た為、鎮火まで丸一昼夜掛かったのである。

 直接の被害そのものは大きくなかったが、その光景を見た動員された軍兵たちの脳裏に、陣地全域を(おお)った炎の映像が色濃く刻まれたであろうことに、疑いの余地はない。


 此度(こたび)の戦闘が開始され、九日目の朝を迎えたばかりだ。しかしその犠牲は既に三千人近い。

 (たか)が千人かそこらの守備兵相手に、二万五千の戦力を(もっ)てこの被害。

 最早(もはや)この戦争の結果がどうなろうとも、本国に申し開き出来ないであろうことは疑いの余地もない。


 それだけに、このハティス市攻略は必ず成し遂げなければならなくなった、ということだ。


◇◆◇ ◇◆◇


「将軍閣下、あれをご覧ください」


 翌朝、ホルブ参謀が指さした。


「昨日の大火で我が軍は多くの犠牲者を出しました。

 しかし、昨夜まで陣地を構築していた場所に敷かれていた“黒い土”は、その(ほとん)どが燃え尽きており、地面に刻まれた溝もよく見えるようになっております。

 更にその先にある市壁も、炎に(あぶ)られて一部燃え落ちております。あの場所には、機能する弓狭間も最早ありますまい。


 あの場所は、犠牲になった兵士たちが、命を()して我が軍の為に開いてくれた道です。

 もう一度、破城槌を作り、あそこからハティス市を攻めましょう」


◇◆◇ ◇◆◇


 そして、開戦十五日目。

 火計により炙られた兵士たちを再編し、また破城槌を組み立てるのに、これだけの時間が掛かった。

 その間我が軍も破城槌に優先して投石機を作り、市内に撃ち込んだ。投石機で撃ち出す弾丸となる手頃なサイズの石などは、ハティス近郊の鉄鉱石採掘所まで取りに行く必要があった。この採掘所は、此度(こたび)の戦争に於ける戦略目標の一つだったが、既に閉鎖されていたのは想定外だった。

 ともあれその投石機による攻撃で、どれだけの被害を与えられたか不明だが、少なくとも逃げ場のない市民たちの怒りは、守備兵たちに向かうだろう。それで良い。

 籠城(ろうじょう)戦に於いて、最大の敵は市民の不安と不満だという。我が軍に刻まれた炎の恐怖の何分の一かでも、ハティス市民に与えてやる。


 明日、開戦十六日目。

 明日で、この戦争を終わらせる!

(2,522文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2017/01/05初稿 2017/01/31投稿予約 2017/03/18 03:00掲載 2021/02/06誤字修正 2022/06/03脱字修正)

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