番外篇4 ハティスの戦い その4 ハティス攻城戦 《神鉄炉》
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それがたとえ簡素なものであったとしても。
市壁で囲われた都市を攻めるのは、簡単なことではない。
抑々我々は、こんな地方都市で本格的な攻城戦を行うことを想定していなかった。また、ここで本格的な攻城戦を行えるほどの時間的な余裕もない。
だからこそ。短時間で市中に攻め込み、組織的抵抗力を圧殺する。それが、基本方針だ。
まず騎士たちに威力偵察を任せる。
幾ら騎兵突撃に威力があるとはいっても、市門を粉砕出来るほどの威力はない。が、敵の弓射に対してはその機動力で回避しつつ、騎乗弓射で市壁の上にいる敵兵の位置を特定し、可能ならその脅威を排除する。不可能なら位置を特定したうえで、距離を隔てた弓射戦に移行する。
その為の、騎士団による突撃。
本来、戦闘の序盤に行う威力偵察は、使い捨ての歩兵とするのが通例である。が、敢えて騎士団を投入することで、あわよくば守備兵の戦力の幾分かを削ることを期待しているのだ。
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しかし。
市壁に近付いた騎士の一人が、不意に市壁から放たれた矢弾により撃ち抜かれた。
市壁の凹凸に紛れて目立たないように作られた弓狭間(銃眼)から、狙い撃ちされたようだ。
慌てて騎士団は距離を開けたが、そうすると今度は市壁の上から矢の雨が降ってくる。同時に市壁の弓狭間からの、弩による水平射撃。
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ハティス市の銃眼は、目立たないように作られた為、実は射角が狭い。
しかし、それゆえ逆に照準がつけ易いというメリットもあった。銃眼そのものが照準線となり、ある程度の距離を置いても高い命中精度を誇ることが出来るのだ。
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開戦初日の戦闘に於いて、ハティス軍の弓狭間からの射撃に無駄弾は殆どなかった。一発必殺、とは言い難いが、確実に我が軍の騎士或いは軍馬を捉え、消耗させていった。
しかしその一方で、射点はそれほど多くはないことと、被弾するエリアが一部に限定されることも見て取れた。
当然ながら、それが全てではないだろう。しかし、確認された射点からの射撃で狙われる個所もまたある程度特定出来た。これから数度突撃を繰り返せば、おそらくはハティス市の防衛火力を丸裸にすることも出来る……。
「しかし、その為にどれだけの騎士たちを犠牲にするのかを考えると、その戦術が正しいのか疑問を挟まざるを得ません」
薬が抜けて意識が鮮明になったラーディン・ホルブ参謀が、懸念を表明する。確かにその通りだ。
今日の、半日の戦いで、騎士団のうち百人ほどが被弾し、その三分の一が死亡している。
一方でハティス側にはまだ一矢たりとも届いていない。
こんな戦いをあと数日も続けねばならないなど、赦されるものではない。
では、どうすれば良い?
「将軍閣下は、敵の射線の死角を割り出す為に時間を掛けるおつもりだったようですが、既に判明している死角があります。
市門正面、です。
なら楯を掲げ矢を躱し、歩兵を突入させ、その圧力を以て市門を破れば、それで終わります」
「確かに、その通りだ。
やっぱりお前は頼りになるな、ラーディン」
「ホルブ参謀、とお呼びください。今は作戦中です」
「そうだな、済まなかった」
長い軍歴を共にしながらも、その堅い態度は相変わらずのようだ。
土埃で黒く染まった互いの顔を見ながら、俺たちは笑い合った。
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翌日(開戦二日目)。
歩兵一個中隊(一千名)を、市門に突入させた。
確かに市門正面は、弓狭間からの射撃の死角になっているようで、前方からの矢弾は飛んでこない。そして市壁上からの矢の雨は、楯で凌ぐことが出来る。
そして下に取り付き、歩兵たちでその閂を圧し折らんと、力を合わせてその門扉を押した。
その時だった。
市門の上から、赤く輝く粘性を持つ何かが降ってきたのは。
それを浴びた兵士は即死し、それの飛沫を僅かでも浴びた兵士は悲鳴を上げて転げまわった。
皮膚に触れずとも鎧の一部が触れただけで、その鎧に接している衣服や外套は燃え上がり、それを着込んだ兵士は生きたまま炎に包まれた。槍の穂先が触れただけでも、木で出来た柄も燃え上がり、鋼が触れた剣は、その拵が高熱を帯び、兵士が手に持つことは出来なくなった。
「……な、なにが起こった?」
「あれは――」
「知っているのか、ラーディン?」
動揺し、プライベートでの呼び方でホルブ参謀を呼び掛けてしまった。
「あれは、多分、鉄です。それもドロドロに熔けた」
「ドロドロに熔けた、鉄? それは一体……?」
「鉄を熔かすほどの高温。これは精霊神殿が教える火属性魔法にもありません。
が、鍛冶師ギルドの秘儀である〔神鉄炉〕という魔法なら、これだけの温度に達することが出来る、と聞いたことがあります」
「鍛冶師ギルドの秘儀、だと?」
「はい。これがあるからこそ、鍛冶師ギルドは国家が望む鉄の武器を鍛えることが出来、それゆえ各国の王家とも対等な立場でモノを語ることが出来るのだとか」
「そんな業の使い手が、ハティスにいるということか」
「ハティスはもともと、鉄器の産出と加工も主たる産業に含まれていました。
鍛冶師ギルドの秘奥とされるこの魔法の使い手も、複数いたとしても不思議ではありません」
「しかし、鉄を、熔かしてそのまま落とすとは……」
「鉄の街だからこその、手かもしれませんね。
しかし、これで正面から市門を破ることは難しくなりました」
「どういうことだ?」
「ご覧ください。熔けた鉄が、冷えて固まります。城門の前で。
我が軍にも武器を補修する為の鍛冶師が従軍しておりますが、鍛冶師ギルドの秘奥の伝承を認められるほどの高位の鍛冶師はおりません。つまり、同じやり方で鉄を熔かすことは、我が軍には不可能です。
あの鉄を撤去し、市門を破ることを考えるのなら、市壁を破る方が簡単かもしれません」
「……そこまで考えての戦術、か」
「しかし、市壁は他の城塞都市の城壁に比べ、低く、またおそらくは薄くあると思われます。攻城兵器を用いれば、それも無謀な選択ではありません」
「だが、我々はこの街で攻城戦を行うことは想定していなかった。ここで攻城兵器の準備をしたら、ベルナンド市の攻略に差し支えることになるかもしれないぞ」
「ハティスを陥落出来なければ、その先のベルナンド市をも陥落出来ません。ご決断を」
「……相わかった。
歩兵部隊は後方に下がり、攻城兵器の組み立てに掛かれ。
騎士団は弓狭間の死角を探るべく、波状攻撃を行え」
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開戦三日目から、後世に語り継がれる「ハティスの戦い」は、第二フェーズに入るのである。
(2,841文字:2017/01/04初稿 2017/01/31投稿予約 2017/03/16 03:00掲載予定)
【注:「知っているのか、ラーディン?」という台詞の元ネタは、〔宮下あきら著『魁!!男塾』集英社少年ジャンプコミックス〕です。なお、このネタの為にホルブ参謀のファーストネームが定まった、ということは、多分ありません?】




