番外篇4 ハティスの戦い その2 カラン村前哨戦
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私、テオドール・フライシャー将軍は、いつもの通り前方に見えた村に斥候を派遣した。リュースデイルからこちら、ほぼ全ての村が無人であり、偶に人がいたかと思うと空き巣や山賊、或いは家出娘など、愚にもつかない連中だけだった。
勿論そういった連中に偽装したフェルマールの密偵である可能性もあったので、取り敢えず捕えて連行することにした。タイミングを見てスイザリア本国に後送するつもりだ。
が、その村――カラン村、というらしい――は、様子がおかしかった。
「はい、村は完全に無人です。
けど、誰も、というか何もいないのか、と問われると、そうとも言えず……」
斥候の言葉は歯切れが悪い。ラーディン・ホルブ参謀も苛立ちを隠さず、斥候に怒鳴りつけた。
「えぇい、将軍閣下に明瞭に報告せぬか!」
「はっ! 村は無人です。が、以前村人が使っていたと思われる家屋に、小鬼がいました!」
「ゴブリンだと? それで、当然蹴散らして来たのだろうな?」
「否、それが、妙にすばしっこくって。
ゴブリン相手に深追いして報告が遅れるくらいなら、まずは戻って報告を、と思った次第に御座います!」
この斥候の判断は正しい。斥候の役目は迅速に情報を持ち帰ることにあり、嵩がゴブリン如きに時間を割かれ、報告が遅れることの方が問題だ。
「ふむ。ホルブ参謀。ゴブリンの相手は冒険者の仕事であって軍兵の仕事ではないと思うが、どうか?」
「仰る通りかと存じます。
歩兵部隊に、冒険者上がりの者がいますので、そ奴らに相手をさせましょう」
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歩兵部隊に籍を置いていた、レナードという男をはじめとして5人ほどの冒険者出身の兵士が呼集された。
「……ゴブリン退治、ですか?」
「そうだ。この先の、カランの村にゴブリン共が巣食っているという。
しかし、我が軍にはゴブリン如きを相手にする暇はない。
よって、お前たちに駆除を命じる」
「わかりました。けど、手当は出るんすか?」
「ほう、お前たちはゴブリンの首級を並べて武勲を誇るのか。
なら戦後、お前たちが獲った首級の数だけ褒美を出そう。
何なら称号も付けてやるぞ。『小鬼を屠りし勇士』なんていうのはどうだ?」
「……それ、ただの晒し者です。
わかりました。取り敢えず掃除してきます」
「手早くしろよ。我が軍はこんなところで足踏みしている時間はないんだからな」
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そうしてレナードたちがカラン村に入ってみると。
「な、何だ!?」
5匹のゴブリンが、槍を構え、隊伍を組んで突撃してくるではないか。
「ゴブリン風情が、舐めるんじゃねぇ!」
5対5の正面戦闘。銅札の冒険者旅団で、同数のゴブリン相手に後れを取るのなら、冒険者などは廃業した方が良い。
しかし、隊伍を組んでの突撃となると、これは冒険者ではなく寧ろ兵士の領分だ。
隊伍を組むと、各員それぞれの技量より同僚と呼吸を合わせることの方が重要になる。
簡単に言えば、人間は腕が2本しかない。だから、完全にタイミングを同期した三つ以上の攻撃を捌くことは出来ないのだ。隊伍は、その考え方をダイナミック且つシステマティックに構成されたものだと言える。
レナードたちは冒険者時代のようにバラバラに足を踏み入れ、ゴブリンたちは隊伍を組んでいた。この時点でレナードたちは守勢に回らざるを得なくなったのである。
とはいえレナードたちも決して素人という訳ではない。ゴブリンたちに先手を譲ることでチャンスを作り、お返しとばかりに2匹のゴブリンを討ち取った。
それを見たゴブリンたちは即座に退却の姿勢に移る。
「逃がすかよ!」
背を見せたゴブリンを更に1匹。
残り2匹を追ってレナードたちは駆け出す。
ゴブリンの短い脚では、人間から逃げ切れる筈もない。
更にもう1匹。
そして、最後の1匹を村の路地裏に追い詰め、
20を超えるゴブリンたちが一斉に放った矢の雨に、レナードたちは被弾。堪らず引き上げざるを得なかった。
「……なんなんだ、アイツら」
「おそらく、ハティスの街の北にあるという『鬼の迷宮』から流れてきたゴブリンだろうけど、妙に組織戦に手慣れていやがる」
レナードたちは知らなかった。
この村に巣食うゴブリンたちは、嘗て近くの森に居を移した豚鬼との種族間抗争で、ハティスの冒険者たちを唸らせるほどの戦術を駆使して戦っていたことを。“格上狩り”を得手とする、「弱者だからこその戦上手」になっていることを。
この日。
レナードたちはこの後も数度ゴブリンたちと交戦し、合計12匹屠った。
しかし、レナードたち自身も多くの傷を負い、〔治療魔法〕や〔回復魔法〕でも追い付かず、野営地に戻って任務失敗を報告せざるを得なかったのである。
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「まさか、ゴブリン退治に失敗する冒険者がいるとはな」
「否、話を聞いてみると、ここのゴブリンはあまりにも戦慣れし過ぎています。
組織戦に慣れている相手に少数で挑むのは愚の骨頂。これは小官の作戦ミスと思われます」
フライシャー将軍の独白に、ホルブ参謀が訂正を挟んだ。
「ゴブリンたちはフェルマール軍ではないでしょうが、こちらはそのつもりで掛かるべきだったのです。
明日、一個中隊百名で、村を掃討しましょう」
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翌日。
しかしこの日は、ゴブリンたちとスイザリア軍の追いかけっこで一日が終わってしまった。
小隊単位で分散し、ゴブリンたちを捜索したのだが、見つけて追いかけると路地裏から矢の雨が降り、村の外まで追撃すると落とし穴に嵌まり、ゴブリンが潜んでいると思われる家屋に踏み入ればその家が崩れて生き埋めにされかかり。
30近いゴブリンを討伐したものの、兵士にも少なからず被害が出た。死者が出なかったのは、不幸中の幸いだが。
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更に夜。
野営地に火矢が撃ち込まれ、物資に引火した。
火はすぐ消し止められたが、その時の騒ぎに乗じて、捕えていた野盗や家出娘に逃げられてしまった。このタイミングで逃がしてしまったことで、結局はフェルマールの密偵かどうか、レナード将軍は確信を持つことが出来なかったのであった。
そして夜が明けた。
「最早これ以上ぐずぐずしてはいられん。
全軍前進。目前にある全てを破壊して進め!」
最後に将軍が選んだのは、ローラー作戦。
人口100人に満たない規模の村だ。そこに二万五千の軍が行進すれば、その隊列の幅だけで村が踏み潰される。そのついでにゴブリンたちをも殲滅することを選んだのである。
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カラン村に到着してから三日目。スイザリア軍はゴブリンたちを全滅させ、これを突破した。
軍兵に被害は生じたものの、犠牲者はなく。完勝といって相違ない。
スイザリア軍の精鋭二万五千対ゴブリン百匹。
それは、スイザリア軍史上最も誇るに値しない勝利だ、と謂われることになる。
(2,951文字:2016/12/27初稿 2017/01/31投稿予約 2017/03/12 03:00掲載予定)
・ 本来ゴブリンには、武具を補修するという習慣はありません。だから、ゴブリンたちが使っていた武具を見れば、ちゃんと整備されている、つまり野良の魔物と同一次元で語ってよい相手ではないと気付いたはずです。もっと注意深ければ、ゴブリンたちの使っている武具の鋼は、スイザリア正規兵のモノより質が良いこともわかったでしょう。
・ 本編では絶対に関わらないから、ここでネタばらし。「家出娘」さんは、ハティスの冒険者ギルドに所属する密偵です。その目的は、スイザリア軍の侵攻速度を正確に報告する為。捕まったのも半ば自演。カラン村を突破したら、ハティス市から観測可能な方法で派手に自爆する予定でした。けど、ゴブリンたちによって解放されたから、口頭で報告しています。
その後、市長とギルマスには避難組に合流せよ、と命じられましたが、隠れたままハティス市の命運を、市長やギルマスたちの最期を、その目で見届けてから避難民たちの許に走りました。つまり、「生存者ゼロ」というのは間違いで、実際は彼女が唯一の生存者なのです。




