第17話 武器を作ろう・2
第04節 孤児院改造計画〔1/6〕
カラン村の一件で、明らかになったことがある。
それは俺の、決戦力の不足である。
アリシアさんが言った通り、苦無の一撃で勝てる相手には滅法強いが、それが通用しない相手や、多数を相手にしたときには、あっさり弱者の地位に甘んじる。言い換えると、自分より弱い相手には強いが、自分より強い相手や多数の相手にはなす術がない。そこらのチンピラと同程度ということだ。
ある意味ではまだ12歳(満年齢で11歳になったばかり)のガキ相応、と言われればその通りである。しかし、ガキならガキらしく、家の手伝いでもしていれば良い。
が、街の外に出て魔物狩りに繰り出すというのなら、「ガキ相応」というのは何の慰めにもならない。
とはいえ、対策は既に見えている。現在の体格でも魔物相手に十分な攻撃力を発揮する為には、刺突を主体とした攻撃をすれば良い。
◇◆◇ ◆◇◆
「親父、いるか!」
「……暫く静かにしていたと思ったら、また騒がしくなりやがったな。貴様に親父呼ばわりされる謂れはねぇ、と何度言えばわかる?」
「ならおっさんが良いか?」
「帰れ。」
例によっていつものやり取りをした挙句、【リックの武具店】に足を踏み入れた。
「今日は、親父さんに武器を鍛えてほしいんだ」
「ほう、珍しい。お前さんが武器を扱えたとは知らなんだ」
「笑えない冗談は置いておいて、一つは苦無。20本ばかり追加注文したい」
「わかった。既に型はあるからな。それはすぐに出来る」
「焦らないで良い。暫くは遠出しないからな。
二つ目。おやっさん、鉄串を作れるか?」
「誰がおやっさんだ。だが、鉄串? 屋台で使うような?」
「そうだ。だが長さは苦無と同じくらいで良い」
「お前は本気で俺を武具屋と思っていないだろう」
「数は多ければ多いほど良い。100でも1,000でも、作ってくれたら作ってくれただけ買い取ろう」
「……そんなに何に使う?」
「当然、投げて使うさ」
苦無は、質量がある分だけ威力がある。しかし、刃物としての性能も要求している関係上、投擲した際無回転で投げざるを得ない。
けれど投擲武器ならば、回転させた方が当然威力(貫通力)は増す。
そこで考えたのが、鉄串の投擲である。当然それは、無属性魔法でブーストする。そう、無属性魔法Lv.1【物体操作】派生02b.〔穿孔投擲〕である。
開発当初は出番がないと思っていた魔法だが、苦無より小質量で高効果を求める為、ここで登板させることになったのである。
鉄串なら安価で大量生産出来る。そして使い捨て前提で大量に所持しておけば、先の小鬼戦のような為体を披露せずに済む。
勿論、それだけではない。
「三つ目。小剣を打ってほしい」
「小剣ならそこにいくらでもあるが?」
「長さは通常の小剣と同じ程度で良い。形状は涙滴型に。重量は通常の小剣と同程度か少し重め。重心は刃身の手元五分の一程度の位置。小さくて構わないから鍔を付けて」
ここで俺がイメージしたのは、前世地球の古代ローマ帝国で使われていた「グラディウス」である。刺突に適すると同時に、斬断に威力を発揮する為の両刃の反りを持つ、凶悪兵装である。
そしてこれを活用する為に、新たな魔法を開発した。より正確には、カラン村での戦闘で使った魔法を、それ専用に再編したものだが。
無属性魔法Lv.1【物体操作】派生02 c.〔突撃〕。瞬間の加速で刺突の威力を増加させる一方で、命中直後相手を起点に逆方向に加速することですぐに剣を抜く。
グラディウスはその形状上、刺さったまま食い込んで抜けなくなるということは起こりにくい。しかし、それでも抜く為のひと手間を魔法に組み込むことで省略出来れば、連撃に向かない刺突を集団戦で使用することが出来るようになる。これも先のゴブリン戦の反省からである。
「……苦無はすぐに出来る。鉄串も、一本や二本なら時間はかからない。
だが、小剣は少し時間がかかるな。お前の注文通りの物かどうか、何度か確認する必要があるし」
「あぁ。さっきも言ったけど暫く遠出する気はない。腰を据えて満足のいく剣を鍛えてほしい」
「わかった。クソ生意気なお前が文句のつけようもない剣を鍛えてやろう」
「期待している。
そして四つ目」
「……まだあるのか」
「あぁ。もう一本、小剣を鍛えてほしい」。
「あ? もう一本だ?」
そして、アリシアさんから借りっぱなしだった小剣を渡して言った。
「長さはこれと同じ程度。重心はもう少し手元に。だが重量はもう少し軽く。
柄の握りはもう少し細く。柄の先に紐を通す輪を付けて」
「……お前の剣にしては、少し軽くなるな。世間一般のガキが持つには丁度良いかもしれないが」
「女性の補助武器だ。俺にこの小剣を貸してくれた人に贈りたい。柄の輪には守り石でもぶら下げられたら良いと思っている」
「そういうことか。なら良い魔石がある。特別な効果はないが、それこそお守り代わりにはなるだろう。柄に埋め込んでおいてやる」
「……感謝する」
「やめろ。調子が狂う。ただ、女への贈り物なら、装飾を少し考えるか?」
「そうだな。なら鞘に邪魔にならない程度の装飾を施してくれると助かる」
「良いだろう。ただこの剣は値引きしないぞ」
「女への贈り物を値引くなんて恥ずかしい。頼まれても御免だな。
あ、ついでと言っちゃなんだが、もう一本、料理包丁を打ってほしい」
「お前、その年で女二人も囲っているのか?」
「冗談言うな。二人とも姉貴分だよ」
「わかってるさ。孤児院の女傑二人だろ?」
「知ってるんならわざわざ言うな」
「あら、私にはないの?」
「おう、シンディ。どうした?」
「ううん、私のボーイフレンドが、ここで別の女への贈り物を選んでいる気がして、飛んできたの」
「……おいガキ、俺の娘に手を出したのか?」
「勘弁してくれよ。剥けてもいないガキが仮に手を出したって言ったって、せいぜいお手々繋いで散歩に行ったってのが関の山だろうが。それ以前にそんな時間はなかったってことは、おっさんの方が良くわかってるだろうが」
「自分で『剥けてない』なんて言う12歳児をガキ扱い出来るか」
「ふ~ん、本当に剥けてないのか見てみたいな」
「いや御免なさい。勘弁してください」
「勘弁してほしかったら、私にも何か買って」
「え~っと、親父さん、木工用のナイフか何か……」
「お父さんに打ってもらうんじゃ意味がない! 今度アクセサリーか何か、市場で選んでくれなきゃ赦さない」
「わかりました。近いうちに日程を調整します」
「それで良し」
「で、俺の目の前でこのガキと逢引の約束をする為に出て来たのか?」
「あ、忘れるところだった。
アレク君、手押しポンプ、完成したよ」
(2,844文字:2015/09/02初稿 2016/01/03投稿予約 2016/02/02 03:00掲載 2016/11/01誤字修正)




