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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
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第28話 自重を知らない異世界チート

第05節 新しい生活〔7/7〕

◆◇◆ ◇◆◇


 邸館の周囲に作るモノは、畜舎と炭焼き小屋、鍛冶工房とアルカリ工場(石灰(いしばい)(がま)と反応用(かまど))、更に大型解体場である。その他邸館の北東部に人工池を作ることにした。人工池には亀や魚を泳がせたい、とはサリアの弁。

 一方邸館の内部は、一階のダンスホールを大浴場に改装し、二階のギャラリーや貴重品陳列室などは(つぶ)して寝室を三つずつ作った。もともと生活スペースだった三階は基本そのままだが、二階と三階の寝室として使われていた部屋をそれぞれ小浴場と(トイレ)に改装した。

 そして屋上に水槽を設置し、水を一旦屋上の水槽に()み上げてから各階の浴場とトイレに水を送り、更に下水を地下水脈下流に繋いだ(この辺りは俺の〔地面(ムーヴ)操作(アース)〕の魔法が活躍した)。水回りはスライムワックスで防水加工。スライムワックスは防錆(ぼうせい)防汚(ぼうお)の効果も(あわ)せ持っていた為、上水よりも実は下水の方にこそ価値があったのである。

 水洗トイレに使う水は、浴槽の排水の再利用。ただ、トイレットペーパーのように水溶性の紙はまだ開発されていないので、大量の水で一気に押し流す。具体的には、平成日本の水洗トイレで流す水の量は大凡(おおよそ)13L(リットル)所謂(いわゆる)「節水型」で9L、「超節水型」で4L)だが、20L近い水を使うことにしている。

 ところで、水の汲み上げは本来、魔法を使えば簡単に出来る。にもかかわらず深井戸用手押しポンプを使うのは、魔法を使わなくても機能するように、というコンセプトなのである。同じコンセプトで各浴槽には石炭ボイラーも準備されており、場合によっては石炭で()()き出来るようにしている。


 人工池はアディの〔地面(ムーヴ)操作(アース)〕で整地し、スライムワックスで防水加工する。最後に増水に備えて排水溝を作って完成だ。まだ深井戸用手押しポンプが完成していないので、水属性魔法で井戸から水を()み上げた。

 また、大型解体場は単に広い空間と水道を引いただけの単純な建造物である為、これもすぐに完成した。

 なお邸館の地下には通常サイズの解体作業場と貯蔵庫があった為、貯蔵庫は室内空気を〔(エンドース)(ミック)〕で冷却した上で壁面を氷で塗装し、且つ要所にドライアイスを配置して冷蔵室に作り替えた。


 シェイラ用の畜舎とシンディ用の鍛冶工房も、それ程手間を要せずに完成した。これは特段の技術を要する設備ではなかったからである。


 対して邸館の内装(リフォーム)工事と炭焼き小屋、アルカリ工場は手間がかかった。これは作業員たちの知らない技術がふんだんに使われているのと、その技術を盗用されないように核心部分はアディたちが自分たちの手でやるなどの手間をかけた所為(せい)もある。それでも月が改まり秋の三の月も半ばを過ぎた頃には、全ての作業が完了したのであった。


◇◆◇ ◆◇◆


「で、改めてアディの考えている今後の方針を教えてほしいんだけど」


 邸館内装工事完了を祝って軽く宴会をしよう、という話になり、少し豪華な食卓を囲んでいるとき、ふとサリアが口を開いた。ここ(しばら)くビタミン(トローチ)作りに専念させられていたことが、ちょっとしたストレスになっていたようだ。


「基本的な目論見(もくろみ)は二つ。旅団(パーティ)緋色(スカーレット)の刃(・ブレード)】の実戦メンバーは早いうちに銅札(Cランク)までランクアップする。

 サポートメンバーは、【ラザーランド商会】で荒稼ぎする」

「稼ぐだけなら冒険者稼業でも充分じゃない?」

「確かにね。だけど今考えるべきなのは、都市の流通と経済だ」

「流通と経済?」

「冒険者としてランクを上げ、様々な依頼(クエスト)を請けられるようになると、商人たちにとって安全な旅が出来るようになる。また食肉や皮革、(ツノ)などの素材が市場(しじょう)に出回るから、経済が活性化する。

 けど、それは商人全般に対する貢献(こうけん)、ということになる。

 一方、商業活動で利益を得るということは、同時に商品を購入した商人たちが利益を得るということにも繋がる」

「買った商品を消費者に販売するから?」

「それだけじゃない。たとえばシンディの店で武具を買った冒険者が、その剣で危機を乗り越えられたら、それはその冒険者の利益だ。

 海運商人がビタミン飴で壊血病に(かか)らなければ、それはその商人の利益だ。

 俺たちが販売した商品で利益を得たら、次もまた俺たちの商品を買いたいと思うだろう。

 つまり、Win-(おたがいに)Winの(そんしない)関係が形作れるんだ」

「あぁ、成程(なるほど)。Win-Winの関係なんて、所謂(いわゆる)“意識高い系”の言葉としか思ってなかったけど、そういうこともあり得るんだ」


「そ。そしてそういう形で俺たちはボルド市それ自体とボルド港に(つど)う海運商人たちに多大な貸しを押し付け、最終的には海軍を組織させる」


「海軍を、って、アディ。貴方何を考えているの?」

「文字通り都市防衛だよ、ルビー。今ボルド市は平穏に包まれているけど、どう考えてもあと二年が限界だろう。ビジア伯爵領が抜かれるか、王都方面の動乱が飛び火するか。だけどその時海軍があるか無いかでは継戦能力が一段階変わってくる」

「だが、海軍に何が出来る?」

「物資と兵員の輸送が出来る。敵の海運を妨害することが出来る。遠隔地の友軍と連絡を取り合うことが出来る。

 そして補給線が確保出来、兵力を敵の後方に派遣することが出来るようになれば、ボルドは都市国家として独立出来る」


「それは、姉様たちの救出を念頭に置いて?」

勿論(もちろん)。スノーの家族の救出の為には戦力が必要だ。だけど、それ以上に俺が(おこ)す国のことを考えた時、ボルドを乗っ取るか、或いは別の場所で国造りをするにしても、ボルド市当局とは友好関係にある方が都合が良い。そして友好関係なら俺たちが優位に立っていなければ意味がないけどね」


「その為に異世界チートを使いまくる訳ね」

「そういうこと。石鹸は灰石鹸が主流として出回っているけど、苛性(かせい)ソーダの石鹸はまだ存在していない。だからこれを作る」

「だけど、どう考えても人手が足りないよね」

「そうだな。

 この邸館の維持に最低3人、商会の窓口で2人、石鹸と飴作りに最低4人、シンディの店番に2人。現状でも合計11人は必要だな」

「募集する?」

「そうだな、商会の窓口とシンディの店番、それから工場の最終工程は雇用しても良いけど、邸館の維持にかける人手(ひとで)と工場でアルカリ生成にかける人手は奴隷の方が良いかな」

「どうして?」

「契約魔法で(しば)れるからだ。人に見せられないモノが多すぎるからね、この邸館は」

「少し自重(じちょう)すべきだったのかもね」

「自重して、やりたいことが出来ないなんて御免だね」


◇◆◇ ◆◇◆


「そういえば、異世界チートの定番商品の一つに、マヨネーズがあるけど、作らないの?」

「手作りマヨネーズは足が早い。ただでさえ衛生観念が未発達の世界でマヨネーズなんか出したら、下手したら死人が出るぞ」

(2,966文字:2016/01/23初稿 2017/01/01投稿予約 2017/02/06 03:00掲載 2017/02/06衍字修正)

【注:邸館の間取りは、〔中島智章 訳・監修『VILLAS 西洋の邸宅 19世紀フランスの住居デザインと間取り』マール社2014 P.104〕を参考にしています。なおこの時代の建築物が屋上の水槽の重さに耐えられる強度を持っているか不明(天井が抜けるどころか壁からして耐えられない可能性もある)ですが、そこはフィクションということでひとつ。もしかしたら意外に過保護なリリスが何かしたのかもしれませんし】

・ マヨネーズは卵と酢、油で作ります。市販されているマヨネーズは製造時には多少の細菌が検出されますが、酢の殺菌力で死滅します。が、手作りマヨネーズの場合は、原料の卵の殺菌が不十分(卵の中にいるサルモネラ菌の繁殖力が酢の殺菌力を上回る場合がある)、細菌が死滅する前に食卓に供される、酢と油が上手く混じっていないと空気に触れて油が変質(酸化)する、などと意外に危険な状況が揃ってしまうのです。安全な日本の卵を使い、製造工程で充分に攪拌し、且つ完成後二三日置いてから、そして開封後は速やかに消費するように心掛ければそれほど心配する必要はありませんが、ファンタジー世界で手作りマヨネーズを、それも流通に乗せるのは、無差別細菌テロに匹敵する暴挙です。

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