表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
200/368

第19話 魔法講座~研究開発~

第04節 漂流〔3/5〕

 俺はルビーに、〔(エアロ)(ボム)〕の原理を説明していた。


「だけどその説明だと、それはどう考えても風属性の魔法だよな。

 どうして無属性で使える?」

「無属性は『動かすこと』に特化した魔法だ。なら、そこに精霊の存在を認識出来ればそれを動かすことなど造作もないよ」

「……その理屈だと、無属性で出来ないことなんか何も無いっていうような気がするけど」

「言わなかったっけ? 無属性魔法の『無』は、『属性が無い』ではなく『限界が無い』『出来ないことが無い』の『無』だよ?」

「……まるで無属性魔法使いの誰もが皆アディと同じみたいに言うな」

「そういえばシェイラは〔気弾〕は使わないな。あいつの使える魔法と使えない魔法は、難易度じゃなく嗜好(しこう)(かたよ)りがあるからね」

「もっと難しい魔法も、彼女は使える、と?」

「先日火属性組にやらせた蒸留を、無属性魔法で一人でやってた」

「……規格外魔法使いの弟子も、やっぱり規格外、ってことか」


「それはそうと、実演だ。見てて」


 そう言って俺は、〔気弾〕の魔法をルビーにぶつけた。


「あっ!」

「と、これが〔気弾〕。威力は弱めたけどね。

 あのブルックリンの戦いのとき、これで敵兵を吹っ飛ばし、また飛び道具を跳ね返していたんだ」

成程(なるほど)。確かに集団戦でこれは、効果的だな」

「殺傷力は小さいけど、敵の隊列を乱すのには使える。廃都(カナン)(たず)ねた時も、不死魔物(アンデッド)の大軍をこれで吹っ飛ばして、こちらの〔神聖魔法〕を使う隙を作ったんだ」

「使い勝手はかなり良い、ということか?」

「そして、海戦では更に効果的に使える。さっきルビーを吹っ飛ばしたのと同じ威力を水中に撃ち込むと――」


 そう言いながら、〔気弾〕を甲板上から海中に向かって撃ち出したところ。

 かなり大きな水柱(みずばしら)が立ち上った。


「何事だ!」

「スマン、俺の魔法実験だ」

(おど)かすな!」


「……と、まぁこんな具合だ」

「確かに、(すご)いな」

「という訳で、これを身に付けてほしい」

「わかった」


◇◆◇ ◆◇◆


 さて、スノーとサリア。

 二人に教える予定の魔法は、〔氷結(フロスト・)(フィールド)〕である。もっとも、この魔法を俺は(単独魔法としては)使えない。


「まずサリア。物理科学のお勉強だ。水が蒸発すると、どんな現象が起こる?」

「えっと、まず気化冷却? それから、気化膨張(ぼうちょう)、だっけ?」

「その二つで間違いない。

 気化冷却、正確には、気化潜熱(せんねつ)という。要するに、水が水蒸気になる為に必要なエネルギー量は莫大(ばくだい)で、それだけの熱量(エネルギー)を周囲から奪う。その為周囲の空気や接触している物体の温度が急激に下がる。冷却される現象を『気化冷却』、水が蒸発する際に熱を奪うことを潜熱という。

 これまで、冷却魔法は周囲の水蒸気を集めて来て、一旦凍結させてからそれを自然蒸発させることで発現させていた。だから大規模な氷雪魔法を使う為には、離れた場所からも水蒸気を()き集めなければならなかったから、甚大(じんだい)な魔力を必要とした。

 では、はじめから水を用意していたら?」

「え?」


「水属性の魔法は、(そう)転移(てんい)負荷(ストレス)無し(フリー)で行えるだろ?」

「相転移?」

「氷を水に。水を水蒸気に」

「うん」

「言い換えれば、一般の物理科学では莫大な熱量を吸収して行う相転移を、魔力で代替(だいたい)して行えるということ。これは、相転移に必要な熱量を魔力で(おぎな)っている。魔力を熱量に完全変換している、とも言える。

 だけど、魔法はあくまで相転移を行う、という指令のみに限定し、その為に必要な熱量を周囲から奪ったら?」

「!」

「1L(リットル)の水を蒸発させる為に必要な熱量は、約540Kcal.(キロカロリー)()われる。これはダイエットのカロリー計算でいうと、ボクシングで40分間打ち合う以上のエネルギー量なんだ。これを周囲から奪う。それも、事前に水分と熱量を有する存在、生命体から」

「つまり、人為(じんい)的に凍傷を引き起こす、ってことね?」

「そう。

 通常、氷結魔法で凍結させた対象は真っ白に染まる。先日サリアが俺にしたように氷の柱に閉じ込められる。だけどこれは、あくまで対象の表面が凍るだけなんだ。

 だから、表面の氷を砕いてすぐに温めれば、その対象者は蘇生出来る可能性がある。

 だがこの〔氷結圏〕は、水を掛けた場所を起点にして、対象の熱量を奪う魔法といえる。表面に作用させる魔法じゃなく、内面の熱量を収奪(しゅうだつ)する魔法。


 これを二人に教える。サリア、スノーに物理科学の知識をもう少し()み砕いて説明してあげて」

「あたし、そんなに詳しくない」

「だから全く知識が無い人にわかるように説明出来るんだよ。

 ちなみに、海水中の水を水蒸気に相転移して、後にまた水に相転移すれば、純水を取り出せるよ。これで課題も達成だね」


◇◆◇ ◆◇◆


 勿論(もちろん)、皆の魔法研究に付き合っているだけではない。俺自身も研究するものがあった。それは、(マジック)道具(・アイテム)の開発である。


 〔無限(インベン)収納(トリー)〕のおかげでこの船の物資管理係に任命された俺は、料理長に厨房(ちゅうぼう)に呼ばれることが多い。しかも燃料を使わず水を()かし、平底鍋(フライパン)を熱する俺の魔法も、厨房では便利に使われる。

 だが、当然ながら魔法だけではなく火も普通に使う。とはいえ木造船で火の扱いはかなり気を使う必要があり、着火は魔法に頼らず魔道具に頼ることが多かった。

 着火の魔道具を使うと、小さくても高熱の火種(ひだね)を作ることが出来るのだそうだ。


 それで魔道具に興味を持ち、作り方を調べたところ(意外にもメラが知っていた)、材料は三つ。魔法を宿す宝石、動力とする魔石、そして魔道具とする道具本体。

 宝石に魔法を宿し、それを魔石とリンクさせ、魔道具にその効果を植え付ける。それで魔道具になるのだとか。「アディさまたちの(カタナ)だって立派な魔道具でしょうに」と(あき)れられた。

 だが、神聖鉄(ヒヒイロカネ)の太刀が魔道具だというのなら。神聖金属は宝石と魔石を兼ねることが出来るのだろうか? それとも道具本体が神聖金属だったから、宝石も魔石も必要なかったのだろうか?


 これを検証してみた結果、ヒヒイロカネの太刀それ自体は魔力が宿っている訳ではなかった。つまりこれを魔道具と見立てるのであれば、魔石の替わりに使い手の魔力に頼っているということになる。その一方で、俺が作ろうとしている魔道具の素材として神聖金属を使うつもりはないから、「道具本体が神聖金属ならそれだけで魔道具になる」かどうかは結局検証しなかった。

 だが、神聖金剛石(アダマンタイト)は、魔力を宿す宝石の替わりになるのではないだろうか。何故なら、アダマンタイトは炭素の魔力同位体であると同時にダイヤモンドの魔力同位体であり、ダイヤモンドは宝石として最上級のものだからである。

 アダマンタイトと牛鬼(ミノタウロス)の魔石を木箱に装着し、ある魔法を込めた。

 込めた魔法は、〔無限(インベン)収納(トリー)〕。


 容量無限の『収納の魔道具』を、ここに完成させた。

(3,000文字:2016/01/14初稿 2016/01/17第二稿 2016/11/30投稿予約 2017/01/19 03:00掲載予定)

【注:水の蒸発潜熱量は兵神装備株式会社のHPの「水の物性値」表(http://ebw.eng-book.com/pdfs/a56d20812231f13a37182ba24e79ebc4.pdf)を、ダイエットのカロリー計算はパナソニック株式会社様のHP内コンテンツ「CLUB Panasonicダイエットカロリー計算」(http://club.panasonic.jp/diet/calc/500kcal/sports_m.html)を、それぞれ参照しています。ちなみに正確には539.36Kcal.です。また1ジュール=0.239006cal.で換算しています】

・ 先日感想欄で疑問を提起されていたので、もう少し具体的に。冷却魔法のプロセスは、二段階。第一段階は、「魔力を用いて水蒸気を氷に相転移させる(この際熱交換は行われない)」。第二段階は、「外部との熱交換により氷を水蒸気に相転移させる(この際魔力は消費されない)」。その第二段階の熱交換の結果、周囲の空気が冷却されるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ