第18話 魔法講座~成果発表~
第04節 漂流〔2/5〕
属性魔法を使って海水を真水に変える。この課題を一番にクリア出来たのは、当然ながら火属性の二人だった。
「それ専用の道具がありましたから」
と、メラ。
「火属性というと、炎をイメージしがちだけど、炎っていうのはあくまでも物の中にある火精霊が飛び出した足跡に過ぎない。火に拘ることなく熱を使い熟せるようになってほしい」
「『火の最たるは、炎無し』だったよね?」
「何ですか、それ?」
「以前、アディがハティスの鍛冶師ギルドに教えた詩なの。
『火の最たるは炎無し。
熱の最たるは御色無し。
炎は火の吐息に過ぎず、
その色、熱足らぬ証なり。
真なる火は地の底にあり、
光も発さず全てを熱に変える』
確か、こうだった筈」
「よく憶えているね。
うん。メラ、さっきの言葉、訂正。
炎は火精霊の足跡じゃなく、その吐息」
「……そんな簡単に訂正出来ることを教えているんですか?」
「正直な話、今教えている内容の6割方は嘘、俺が適当にでっち上げたモノなんだ。だけど、精霊神殿で教えている内容よりは真実に近い。
重要なのは炎じゃなく、熱。そのことを理解してほしい」
そして魔法の利用を考えた時、火属性を炎ではなく熱、と認識することで、火と水の相克を超えられる。熱は水を熱することは出来ても水に消されることはないのだから。
◇◆◇ ◆◇◆
次に課題を達成したのは、水属性の二人。
「ちょっと難しかったけど、水の中にある不純物を取り除くイメージをしたら出来たわ」
「うん、そのイメージで良いよ。そのイメージなら、汚れた水を綺麗にすることも出来るね。〔浄水〕と名付けよう」
「名付けた方が良いんですか?」
「名付けておけば、今後はその名称をイメージするだけで同じことが出来るようになる。更にそれを第三者にも真似出来るようにする為に必要なのが呪文なんだ。今の二人のイメージを正確に真似出来なくても、『呪文を唱えれば同じことが出来る』と第三者が認識すれば、同じことを行えるようになるんだ。
つまり、呪文詠唱――呪文省略――呪文破棄、って精霊神殿は教えているけど、これはあくまで呪文第一に考えているからでしかないってことだよ」
「あたしは何故、出来ないのかな?」
「それは前世の知識が邪魔しているから。サリアは知っているだろう? 塩は水の中では物質として存在しているんじゃなく、イオン化して存在していることを。同じように水も一部イオン化している。だから、海水中では水と塩は等価なんだ。だから、海水から塩だけを取り出すことが出来ない」
「じゃあどうすれば良い?」
「方法はあるけど、それは後のお楽しみ、ということで」
「どうして今じゃ駄目なの?」
「それも後で説明するよ」
◇◆◇ ◆◇◆
最後になったが、風属性の三人が課題を達成した。
「掃除で埃を掻き集めるイメージで実現出来ました」
「上出来上出来。ならその魔法の名称は〔空気清浄〕だね。だけどそれで集めた水は、埃や塵も交じっていると思うから、水属性の〔浄水〕を改めてかけてもらった方が良いね」
「はい」
「これで火・水・風の三属性で海水から真水を取り出す方法を学べたと思う。
けど、これは全ての魔法の基本になるんだ。
火は熱が重要だ。風はただの空気の動きで、空気は『何もない空間』じゃない、目に見えず手で触れることも出来ない、けど確かにそこに存在している『もの』なんだ。そして水は、そこに多くの不純物が含まれているし、また形を変える時に熱――火の精霊――を放ったり吸収したりする。
それらを認識することが出来れば、魔法の応用範囲はかなり広がるんだ」
◇◆◇ ◆◇◆
それぞれが、新しく覚えた(正しくは「開発した」)魔法の練習を兼ねて、毎日一樽ずつ真水を作る練習をした。
そんな中、ルビーとスノー、そしてサリアに対し、攻撃魔法についての講習を行うことにした。
「これから覚えてもらうのは、攻撃魔法だ。ルビーに憶えてもらう魔法は、俺が『無属性魔法Lv.4【気流操作】派生03.〔気弾〕』と呼んでいる魔法を、風属性で再現してもらう」
「え?」
「先日のマーゲート沖海戦で俺が騎士王国の軍艦を沈めた魔法だよ」
「あれを……」
「サリアとスノーに憶えてもらう魔法は、〔氷結圏〕」
「〔氷結圏〕?」
「それは普通の氷結魔法とどう違うの?」
「基本的には何も変わらない。ただ、魔力変換効率が段違いに高い」
「……どういうこと?」
「うん、まぁちょっと待って。ルビーの方から説明するから。
ではルビー。〔気弾〕の説明だ。
空気は『見えないけれど無い訳じゃない』ってことは、もう理解出来たよね?」
「ああ。まだ実感が湧かないけれど」
「じゃぁこう考えて。騎士団の練兵場。そこに、騎士が一人だけ立っている。
もしルビーがそのことに気付かず、練兵場で目を瞑って歩いた時、ルビーはその騎士にぶつかると思う?」
「その騎士の立つ位置にも拠るだろうけれど、ぶつからないことの方が多いんじゃないか?」
「じゃぁその騎士もまた目を瞑って走っていたら?」
「ぶつかる、かもしれないな」
「ぶつかったとき、はじめてそこに『騎士がいる』ってことに気付くだろう?」
「ああ」
「その騎士が、風の精霊なんだ」
「え?」
「普段はぶつからないから、存在に気付かない。けど、動いた時――つまり風が吹いた時――、ぶつかるから、その存在に気が付く。
だけど、ぶつからなかったとしても、存在しない訳じゃないんだ」
「……何となく、わかった」
「風操りの魔法っていうのは、練兵場の中で目を瞑って走っている騎士を捕まえて、その方向を変えたり走るスピードを変えたりすることを指すんだ」
「成程」
「だけど、これからルビーが憶える魔法は、練兵場の中にたくさんの騎士を呼び込むことが第一になる」
「……どういうことだ?」
「別に騎士は練兵場の中にしかいない訳じゃない。何処にでもいる。
練兵場の中の騎士に干渉することが出来るのなら、その外にいる騎士を練兵場に呼び込むことだって出来る筈だ。そうすると、どうなるか」
「……どうなる?」
「練兵場に10万人の騎士が集結したら、どうなる?」
「暑苦しい、むさ苦しい」
「それで正解。騎士達も当然、そう思う。だから、外に戻りたくなる。
騎士達を呼び集めた魔力を開放してやれば、当然騎士達は散っていく。集める魔力が強ければ強いほど、練兵場が小さければ小さいほど、騎士達が散っていく力も強くなる。
その、騎士達が散りゆく力を使ったのが、〔気弾〕なんだ」
(2,994文字:2016/01/14初稿 2016/11/30投稿予約 2017/01/17 03:00掲載予定)
・ アディ的新四大精霊論――
風属性:気流操作と気圧変化
火属性:熱量操作(加熱・冷却)
土属性:固体操作と群体操作
水属性:流体操作と相転移(潜熱・顕熱)




