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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
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第13話 契約解除

第03節 興国の志〔2/5〕

☆★☆ ★☆★


 貿易港ラーン。西大陸最大の港湾都市である。

 一応キャメロン騎士王国に属し、騎士王国に税を納めてはいるが、その実態は独立した都市国家に等しい。その為騎士団であっても無闇に市内に入れないし、市内での抜剣は許されない。

 市外での如何(いか)なる犯罪も市内では問われず、市内での無法は市内で処罰される。

 その為犯罪者たちにはある種の天国のように思われている。


 だが同時に、貿易港としては世界最大規模を誇っており、ありとあらゆる交易品目が入手出来るとも()われている。


★☆★ ☆★☆


 ラーンで、不足している物資を補給することになった。

 と同時に、商人ギルドの為替(かわせ)が使えることがわかった為、絹や綿花や香辛料、馬・牛・羊・山羊(やぎ)家豚(ぶた)などの家畜類や、(にわとり)(かも)などの家禽(かきん)類を購入した。

 家畜等は「眠らせれば〔無限(インベン)収納(トリー)〕に収納出来る」ことが判明した為、思い切って買えるだけ買ってしまったというモノである。

 また、船の上に持ち込む家禽類や家畜類を最少にすることで、(まぐさ)(家畜の(えさ))の備蓄も節約出来る。

 その他食糧等や船の修繕資材(金属類や木材等、それに(セイル)の補修用の布材)も船の積載限界量を無視して購入し、全て俺の〔無限収納〕で管理することになった。


 そんな形で改めて出港準備を整えている間、俺はある儀式を行うことにした。


◇◆◇ ◆◇◆


「ルシル王女。受け取って戴きたいものが御座います」

「どうしたのアレク、改まって」


 靴の(かかと)から黄金拍車を折り、王女に差し出した。


「今この時を(もっ)て、騎士の(くらい)を返上したく存じます」

「どういうことなの? わた、私はアレクの姫としては不足だと?」

「フェルマール王国はもう、存在しないモノと思った方が良いでしょう。

 ですので王命や王国に対する忠義は、既に形骸(けいがい)化しております。

 加えて私は、陛下の遺訓(いくん)を果たすつもりはございません」

「そう。確かに私は(いた)らない王女だったわね。貴方に見捨てられても仕方がないということね」


「これからは騎士と王女としてではなく、一人の冒険者と庇護(ひご)する女性として、共にありたいと思います」

「え?」

「王国を再興する為に王女を守るつもりはありません。が、一人の女性である『ルシル』を守る為ならば、この剣を振るいましょう」


 俺が黄金拍車を返上した意味が、ルシル王女の心に伝わったようだ。

 染み入るようにそれを受け止め、(あふ)れるように涙が(こぼ)れた。


「そうね。うん、有り難う。

 シルヴィア、貴女も黄金拍車を返上しなさいな」

「しかし……」

「これからは騎士と王女ではなく、姉と妹よ。駄目?」

「そんなことはありません」


 シルヴィアさんも涙していた。こんな状況になったから、初めて(ゆる)された新しい関係。それを二人は好意的に受け止めたのであった。


「ラザーランド船長、アンタはこれからどうする? これからは海の貴族(かいぞく)を名乗るか?」

「それも良いな。アレクがいてくれれば大(もう)け出来そうだ。

 だけどお前は(おか)の男だろう?」

「あぁ。どうやら俺は、遠からず国を(おこ)さなければいけないらしい。

 他の国を乗っ取るか、(かす)め取るか、或いは人跡(じんせき)未踏(みとう)の地で国を造るか。

 どっちにしろ陸で生きることになるだろうな」

「ならお前が国を造ったら、その国で海運を(まか)せてくれないか?」

(いや)、その場合は海軍総督を任せるよ。当然海運は船長の部下が仕切ることになるだろうな」

「そりゃぁ良い。じゃぁその時に(そな)えて、船団を組織するとしよう」


 更にシェイラとサリアを見ながら。


「リリス。二人の奴隷契約を解除してほしい」

「! ご主人様。もう私は必要ないのですか?」

「違うよ。これからは主従じゃなく、家族になるんだ」

「では今のままで良いじゃないですか」

「そうもいかない。考えていることもあるしね」

「どのようなことを考えていらっしゃるのか存じませんが、今のままではいけないのですか?」

「シェイラは奴隷のままでいたいのか?」

「ご主人様との奴隷契約は、ご主人様との(きずな)です」

「そうか。なら余計、契約を解除する必要があるな」

「どうして?」

「形ある絆に頼る必要が無い、そんな絆を築きたいからだよ。

 象徴としての形が欲しいのなら、あとで指輪でも作ろう」

「指輪?」


 と、ここでサリアが口を挟んだ。


「あたしたちの前世ではね、夫婦はお(そろ)いの指輪を左手の薬指に()めるの。

 二人の絆を周知させる為にね」

「ひゅ、夫婦(ひゅうひゅ)?」


 ()んでる噛んでる。


「シェイラちゃん。あたしは旦那様の(めかけ)第一号だけど、正妻に相応(ふさわ)しいのはシェイラちゃんだと思うよ。“正妃”と()われたらルシル姫になると思うけど」

「!正妻(しぇいしゃい)?」

「正妃だと? アレク、お前は姫様、(いや)ルシルをそういう目で見ていたのか?」

「待て待て待て!

 まずシンディ、場を引っ()き回すな。

 シェイラ、夫婦だけが家族の関係じゃないだろう? そういうことはこれからゆっくり考えれば良いんだ。

 シルヴィアさん、シンディの冗談を()に受けないで。

 ルシルおうj……さん。いきなり顔を赤らめないで」


 なんか場が混沌(こんとん)としてきたな。


「ともかくリリス、頼む」

「わかった」


 二人の奴隷契約はあっけないほどあっさり解除され、二人の首からその(あかし)たる首輪が落ちた。


「じゃが御屋形(おやかた)様よ。指輪は(わらわ)にも寄越(よこ)すのだろうな?」

「……左手薬指に嵌めることを前提に、話を進めるな。それに俺は一体(いく)つの指輪を用意しなければならないんだ?」

「この様子だと、五つは確定じゃろ? (いや)、仲間(はず)れにされると()ねるからくっころ(シルヴィア)の分も必要か?」

「! 私の分は必要ない」

「……と言っているけど、うちの姉様(ねえさま)は素直じゃないから。一応でも用意しておいてくれると助かるな」

「姫様!」

「姫じゃなくてルシル。これからはそう呼んで」


「いや、そのことでも話し合う必要がある。

 少なくとも俺とルシルさん、シルヴィアさんの三人は、名前を変えた方が良い」

「え?」

「間違いなく東大陸では指名手配に近い形になっているからね」

「あぁ、そうね」


「じゃぁどんな名前が良いかな?」

(2,685文字:2016/01/10初稿 2016/11/30投稿予約 2017/01/07 03:00掲載予定)

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