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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
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第12話 大海の道標

第03節 興国の志〔1/5〕

「王女たちに生存の可能性があるのなら、救出することも(やぶさ)かではありません」


 俺は、落ち込む王女に光明を授けるつもり(きやすめ)でそう口にした。


「けど、まずは何より情報が無い。加えて力が足りないんだ。

 俺やリリスの力は破壊にしか使えない。

 潜入工作に()けた力を持つのはシェイラだけだが、一人では出来る事に限りがある。

 そして俺たちには今、仲間がいない」

「確かに」

「そう考えると、出来る事はまず東大陸に戻り、拠点を構築し、情報を集めながら仲間を(つの)り、そして実現可能な策を練り、安全に保護出来る場所を確保する。そしてようやく救出作戦を決行出来るんだ」


 そこまで言うと、ラザーランド船長が面白いことに気が付いたとばかりに口を開いた。


「だがアレク。それはつまり、お前が新たな国を(おこ)すということじゃないのか?」

「はぁ?」

「亡国の王女を救出するなどといえば、どう考えても国相手の戦争になる。

 (つの)った仲間は(すなわ)ち兵隊だし、安全に保護出来る場所とは国だろう。

 お前は国を興したいのか? だとしたら何処(どこ)に?」


「確かに、そう考えればそうだな。

 はっきり言って、俺は自分の家族を守れればそれで良い。

 ルシル姫まで含めて『俺の家族』と言い張り、家族の姉妹(きょうだい)を守る為に堅牢な(かべ)と頼りになる仲間を持つことが『国造(くにづく)り』だというのなら、そういうことになるだろうね。


 けどそう考えれば、やっぱり一朝一夕には出来ないということになるよ?」

「どちらにしても、東大陸に帰り着いてすぐに行動出来る事でもあるまい。

 すぐに行動を起こすなら、それに成功したとしても、残りの人生全てを逃避行に(つい)やすことになるだろうからな」


 国を興す。

 それがどんなに荒唐(こうとう)無稽(むけい)なモノであったとしても、皆が幸せに暮らす為にそれが必要だというのなら、それを選択しよう。


 それが一筋(ひとすじ)の光明でしかなく、実現性の有無さえ不明であっても、()()えず進むべき方向は定まったのだから。


◇◆◇ ◆◇◆


 話し合いが終わった後、『光と雪の女王』号は(おもむろ)に針路を南に向けた。

 これは特別なことではなく、夏至の頃は大陸東岸の風が弱まるからである。

 また海流は、秋分から冬至にかけて速くなる。この海流は西大陸東岸を北上し、氷海(北極海)の南岸を巡り、東大陸西岸を南下する。ちなみにその後海流は中緯度海域を横断して西大陸に戻るのであるが、その中緯度海域を流れる海流は春分から夏至にかけて速くなる。だから東大陸から西大陸に向かう時は春過ぎから初夏に船出し、西大陸から東大陸に向かう時は秋になってからの方が早く到着出来るのである。

 海流に乗ることを考えれば、今すぐ北上しても、三日程度南下した先にある港町で補給をし、そこから改めて北上しても、到着予想日時は大差無いのだ。


 船が動き出してから調達してきた物資の量を確認したところ、穀物は110日分、肉類80日分、柑橘(かんきつ)類50日分、水30日分、塩160日分(ビリィ塩湖(えんこ)で調達した岩塩含む)、といったところであった。


「現状では全てぎりぎり、か」

「安全係数を二倍取りたいから、全部180日分欲しいけどね」

「いや、それは流石に贅沢(ぜいたく)だろう」

「肉類は俺の〔無限(インベン)収納(トリー)〕の備蓄がまだある。それを供出(きょうしゅつ)すれば、もう少し余裕が出来るだろう。

 シカ2頭イノシシ3頭クマ1頭ウサギ7羽くらいは手付かずで残っている。後は端数だな」

「……その端数分が、普通の冒険者が持ち歩く食糧の量だと思うが?」

「あと、塩漬け(コーンド)(ポーク)が2樽と干し(ポーク)(ジャーキー)燻製肉(ベーコン)がそれぞれ1樽分ある」

「有り難く、頂戴することにしよう。ついでと言っては何だが、食糧関係も全てお前さんの〔インベントリー〕で確保してくれないか?」

「構わないが、何故?」

「お前さんの〔インベントリー〕は、時間経過も無いようじゃないか。ならお前さんに任せれば、いつでも新鮮な食材が手に入るってことだ」


◇◆◇ ◆◇◆


 ところで、〔無限収納〕について。少し前に思い付いたことがあった。

 以前廃都カナンでふと思ったフレーズ、「死ぬことは眠ること」。

 そして、俺の〔無限収納〕には死体を収納することが出来る。

 では、眠っている生物を収納することは、出来るのだろうか?


 マーゲート郊外の森で、馬たちに試してみたところ、収納することが出来た。

 これが、昔から出来た(はず)なのに今まで気付かなかったのか、「死ぬことは眠ること」に思い至らなかった昔は出来なかったが今は出来るようになったのか(出来なかった当時に試していたら、『出来ない』という結果が観測されてしまったかもしれない)、そのあたりは不明だが、結論として出来る事がわかった。それで充分だろう。


 ともあれこれで、馬を都度(つど)調達する必要がなくなったのだから。


◇◆◇ ◆◇◆


「それから、柑橘類に関しては、ちょっと面白いものを持っている」

「面白いもの?」

「壊血病の予防薬さ」

「え?」


 そして、俺はビタミン(トローチ)を取り出した。


「ご主人様、それは『疲労回復の為の魔法薬』ではなかったんですか?」

「うん、実は壊血病予防薬でもあるんだ。壊血病は別に、海の上でなくても発病するからね。

 食べ物には、“栄養”と呼ばれるものが含まれていてね。けど、人間が生きる為に必要な栄養を全て(まかな)えるものなんて、実は存在しないんだ。

 だから健康の為には、色々なモノを満遍(まんべん)なく食べる方が望ましい。


 けれど、例えば長期の航海に出た時。

 例えば、大深度の迷宮(ダンジョン)に入った時。


 必要な栄養素の全てを摂取(せっしゅ)出来るとは限らない。

 だから、欠落しがちな栄養素は、(あらかじ)め抽出して、それだけを単独で口に出来るようにしたんだ。それが『(あめ)』なんだ」


☆★☆ ★☆★


 地球でも、栄養学の歴史は意外に浅い。

 「柑橘類を食べれば壊血病を予防出来る」ということが知られて大航海時代が幕を開けたが、何故柑橘類で壊血病を予防出来るのかが解明されたのは、実は第二次世界大戦の直前だったのである。ちなみにビタミンが発見されたのは、日露戦争中(白米病――脚気(かっけ)――の研究の成果)である。ビタミンの発見者としてノーベル賞を受賞したのはオランダ人だったが。

 栄養学という学問が本格的にスタートしたのは19世紀末。戦争の為の兵糧(ひょうろう)如何(いか)に効率的に調達するかの研究が、栄養学のはじまりだったのだ。


 当然、特定の栄養素のみを抽出した錠剤などは、20世紀後半を待たなければならない。


★☆★ ☆★☆


 それでも色々な物資が不足し、またある物もぎりぎりである。

 しかも、東大陸に着いた後どうなるかがわからないのだ。多めに用意しておく必要がある。


 だからこそ、南方の港湾都市ラーンを目指す必要があるのだ。

(2,884文字:2016/01/10初稿 2016/11/30投稿予約 2017/01/05 03:00掲載 2017/01/05誤字修正)

【注:「死ぬことは眠ること」に関しては、第三章第17話あとがきを参照してください。

 栄養学の歴史に関しては、〔勝野美江・佐々木敏 共著「日米欧における健康栄養研究の位置付けの歴史的変遷に関する調査研究~大学に着目して」科学技術政策研究所 第3調査研究グループ〕(http://data.nistep.go.jp/dspace/handle/11035/501)を参照しています】

・ 壊血病はビタミンCの欠乏により、脚気はビタミンB₁の欠乏により発症します。またビタミントローチはクエン酸効果で疲労回復にも役立ちますので、『疲労回復効果を持つ魔法薬』という看板は完全な偽りという訳ではありません。

・ ビタミンB₁(チアミン)の発見者として1929年にノーベル生理学賞を受賞したのはオランダのクリスティアーン・エイマン博士(1896年にビタミンの存在を予言した)であり、1911年にその抽出に成功したのはポーランドのカジミール・フンク博士とされておりますが、1910年に、日本の農芸化学者・鈴木梅太郎博士が米糠(こめぬか)の有効成分としてビタミンB₁(「オリザニン」と命名)を発見し抽出に成功(但し不純物有り)しています。

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