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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第五章:「逃亡者は社会学者!?」
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第08話 フェルマール戦争~南部戦線~

第02節 王国炎上〔1/4〕

◆◇◆ ◇◆◇


 スイザリア王国軍による、マキア領への侵攻が、全てのはじまりだった。


 カナン暦702年秋の二の月。

 スイザリア王国は、399年の停戦条約が既に無効になった(むね)宣し、ベスタ山脈を越えてマキア領へ軍を進めた。

 マキア王国側は、二年前の『(カンタレラ)戦争』による損耗の回復が出来ていなかった(全軍兵の約4割、国家労働者人口の約二十分の一が一時(いちどき)に肉塊に代わったのだ。そうそう簡単に復旧出来る(はず)がない。ましてや敗戦国の立場での再軍備はなお難しいことだった)為、ほぼ無抵抗にスイザリアの跳梁(ちょうりょう)を受け入れざるを得なかった。


 同年冬の一の月。事実上の藩属(はんぞく)国であるマキアを守る為に、フェルマールが海路を通じて軍を派遣した。だがフェルマール軍の上陸を待って、スイザリア水軍(・・)火船(やきうちせん)が港を(ふさ)ぐように突入し、フェルマールの軍艦を炎上させた。


 そして冬の二の月。スイザリア軍の別動隊が、リュースデイルの(せき)を突破し、南ベルナンド地方に侵攻を開始した。


◆◇◆ ◇◆◇


「諸君、今朝、早馬が到着した。リュースデイルの関が落ちたそうだ」


 ハティス男爵領領主ケイン・エルルーサ卿が、ハティス()歴々(れきれき)を前にしてそう口火を切った。


(いく)ら何でも簡単すぎやしませんか? あの関は難攻不落だったのではないですか?」

「どれほど堅牢な関であれ、内応とサボタージュの前には紙同然だろう。リュースデイルの守備隊は(ろく)に戦うこともせず、スイザリアの軍勢の通過を許したようだ」

「あの町長()が。早く彼奴(あやつ)を更迭出来ていれば!」

「それは今更言っても(せん)の無いことだ。陛下が証拠不十分と裁決されたのだからな」

「ですが、どうします? スイザリア軍は二万五千と聞きます。対する我がハティスは冒険者や義勇兵を(つの)っても二千(そろ)えば良いところでしょう。到底勝ち目はありません」

「ましてや此度(こたび)(いくさ)には、単身で戦局を(くつがえ)す英雄は不在です」

「その通りだ。この難局を我々だけで乗り越えなければならない」

「ですが、どうやって?」


「……この街を、放棄する」

「え?」

「守るべきは、その(たみ)だ。勿論(もちろん)、街には思い入れもある。しかし、民の命には代えられない」

「領主様……」

「とはいえ無条件でスイザリアの盗賊どもを受け入れるつもりはない。冒険者ギルドを中心に、守備兵を募れ。但し、その者たちには死兵となってもらう。その覚悟がある者のみ、従軍を許す」

「はっ」

「商人ギルドは、馬車を出してもらう。この街から(のが)れる民を(みちび)いてほしい。費用は男爵家の金庫から好きなだけ持っていくと良い」

「かしこまりました。資金が尽きるまで民に寄り添うことを約束します」

「神殿、魔術師ギルドは避難する民の心の支えになってほしい」

「わかりました。ハティスの民が常に精霊神の加護を受けていられるよう、我々が祈りましょう」

「鍛冶師ギルドは、全員避難民と共に行け」

「何を言われるか。街で戦う為には武器を鍛える者も必要でしょう」

(いや)、鍛冶師ギルドは最も深く最も長く、『彼』と共にあった。その技術の一片(いっぺん)たりともスイザリアに(ゆだ)ねる訳にはゆかぬ。頼むから、民たちと共にこの街を離れてくれ」

「……では、若者たちには生きよと告げましょう。ですが我々のような老骨は、最期までこの街に踏み(とど)まりたいと存じます」

「わかった。では好きにすると良い。


 最後に、避難民たちの(おさ)は、我が妻セラとする」


◆◇◆ ◇◆◇


 結局、ハティス市に残った者は、冒険者・自警団員他志願兵など約八百名と、鍛冶師11名、その他非戦闘員124名と領主ケイン・エルルーサ卿であった。


「領主様が残られるとは思いませんでしたよ」

「最初で最後のハティス男爵として、この街の歴史とともに最期を迎えたいと思ったんだよ」

「ですが、まだ結婚して二年すら経っていないのに」

「街を守れなかった無能な町長の、最後の我儘(わがまま)だよ」

「街じゃなくて市ですし、町長じゃなくて領主でしょ?」

「エルルーサの家系は、代々ハティスの町長を輩出していた。最後は領主としてではなく、町長としてここにいるつもりだが、迷惑かな?」

(いいえ)

 それはそうと、鍛冶師ギルドは忙しそうですね」

「そうだな。鉄鉱山の閉鎖と炭鉱の封印。炭焼き(がま)や手押しポンプ、石炭ストーブなどの破砕。『彼』が残したものは全て滅却する。スイザリアには一握りの灰さえも渡さない」

「それはもう、全員に伝えてありますよ。捕虜になることも投降することも認めない。最後の一人になるまで、(いや)、最後の一人になっても一人でも多くのスイザリア兵を道連れに、死に()こう、と。それが嫌なら民たちと共に脱出しろ、と。

 そういえば、カラン村の小鬼(ゴブリン)たちですが、無人となった村を占領したそうですよ?」

「ほう、何故?」

「カラン村の村長に()ると、彼ら(ゴブリンたち)はこう言ったそうです。

 『オレたちは、ハティスの街の民の盾となる。そうあの小さい人間と約束した』と」

「そう、か。ここにも『彼』が残したものがあったか」

「はい。勝てないまでも、時間を(かせ)ぐ。ゴブリンたちの得意な戦術です。が、今回は数が違い過ぎる。1日持てば良い方でしょう」

「だがその1日で、助かる命があるかもしれない」

「ゴブリンたちが1日時間を稼ぐというのなら、我々は10日稼いでみせましょう」

「期待していよう」

「ええ、『冒険者の街』の冒険者ギルドのギルマスの名に()けて」


◆◇◆ ◇◆◇


 ハティスが街から市に昇格することによって、市壁を築くことを中央に許された為、高さはそれほどないものの、多数の銃眼を持つ市壁を築いていた。

 銃眼の内側には、射手・助手・装填手の三人で班を作り、射手が(クロスボウ)を撃ち、装填手が弩に矢弾(クォレル)を装填し、助手が二人の間に立って弩を遣り取りした。それにより連射が効かない筈の弩で、長弓(ロングボウ)より速く、精密に撃ち続けることが出来た。

 また市壁の周囲に底の浅い(ほり)を巡らせ、砕いて粉末にした石炭を敷いた。スイザリア軍が進出してきたとき、この堀に火矢を撃ち込み、火計を(もっ)てスイザリア軍を翻弄(ほんろう)した。

 市壁の内側からは投石器(カタパルト)を以て同じく粉末の石炭を袋に詰めたものを敵軍めがけて撃ち出し、同時に火矢で攻撃することで絶大な戦果を挙げた。


 とはいえ多勢に無勢。18日間に及ぶ攻防戦の(のち)、ハティス市は陥落(かんらく)した。しかし、スイザリア軍の大半が市内に入ったのを見計らったようなタイミングで、市内の一角から出火。たちまちのうちに市は業火に包まれた。

 一昼夜燃え続けた火事は、やがて燃える物がなくなって鎮火した。これによりスイザリア軍将兵にも少なからず被害が生じ、またその糧秣(りょうまつ)の多くも灰になってしまった。


 なお、ハティス守備隊で生存乃至は逃走が確認された者は、いなかった。

(2,970文字:2016/01/06初稿 2016/11/02投稿予約 2016/12/28 03:00掲載予定)

・ リングダッド王国の湖沼地帯からスイザリア王国南部とアザレア教国北部を隔ててマキア王国南部を横断して海に注ぐ大河があります。スイザリア水軍はその川を下ってマキア沿岸に出ました。ということは、今回の戦争にはアザレア教国も間接的に参戦しているということになります。

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