第39話 決闘・2~神話の再現~
第06節 騎士王国〔8/9〕
「ルシル王女。ちょっと会長さんと一緒に騎士王陛下に謁見してきます」
騒ぎを聞きつけてやってきたルシル王女とシルヴィアさんに、そう挨拶したのだが。
「何を言っているんだ? アレクは姫様の騎士だろう?」
「だからこそ、ですよ。ちゃんと話を付けてこないと。それほど時間はかかりません。明日には帰るとシェイラたちに伝えてください」
「ちょっと!」
「じゃ、サリア会長。行きましょう」
「……ついて来てくれるのなら、何故わざわざ騎士たちを斃したの?」
「力関係は、見せておかないと侮られるだけですからね」
国家間交渉の前に、一度は軍事的成功を求める訳は、そういうこと。
◇◆◇ ◆◇◆
翌日、キャメロン騎士王国の謁見の間。騎士王陛下より直接の御言葉を賜る栄誉に浴した。
「其の方が、もう一人の転生者か」
「フェルマール王国正騎士、アレクサンドル・セレストグロウンと申します」
「フム。良かろう。今日からでも我が国に仕えよ。望みの報酬を用意するぞ」
「お断りします。」
即答。すると、騎士王陛下が口を開く前に、周囲の騎士たち(全員武装済み)が騒がしくなった。
「陛下に盾突く気か!」
「無礼者奴が。陛下の温情を何と心得る!」
「自分を何様だと思っているんだ!」
だから、俺は振り返って彼らに告げた。
「ではここにいらっしゃる皆様にお尋ねします。
貴方がたがもしフェルマールの王陛下に移籍を求められたとして、如何ほどの報酬を提示されたならばそれに応じますか?」
「侮るな。カネで動く我らではないわ!」
「私もそう思います。そして私もまた、貴方がたと同じくフェルマールの王陛下並びにルシル王女殿下に剣を捧げた騎士なれば、どれほどの報酬を提示されたとしても心動かすことはございません。
ましてや王女殿下を飛ばしていきなり私個人に引き抜きの話を持ち込むのは、殿下に対しても無礼というモノではございませんか?」
「其方の言うことに一理ある」
騎士王陛下がそう仰った。
「だが、だからといって退くつもりはない。たとえ一戦交えることになろうとも、其方を我が国に招き入れよう。其方とて王女の安全を買いたければ、素直に我が下に参じよ。それを以て王女に対する最後の奉公と成せ」
「お断りします。
……このままでは埒があきません。が、私としても戦になるというのはあまり嬉しくありません。
今、私はシャーウッド魔法学院に籍を置いております。ですので、ここは学院での紛争解決手段を採るのが平和的解決方法ではないかと存じます」
「学院の紛争解決手段。それは即ち決闘、ということか?」
「はい。勿論、陛下には代理人を立ててくださって構いません。如何でしょう?」
「だが、決闘は時に死人が出る。それを踏まえての話か?」
「陛下にとって。決闘で死ぬ程度の男なら必要無い筈。そしてフェルマールに転生者がいるという状況よりは、死んでくれた方がマシでしょう」
「良かろう。ではその決闘を受けよう」
「では次に、その決闘で俺が勝った時の報酬を決めさせていただきます」
「なに?」
「当然でしょう。俺は自分の命と身柄を懸けている。対して陛下は代理人を立て、身の安全は保障されている。これではあまりに差がありすぎます」
「余と決闘などという遊戯に耽る。それで充分優遇されていると思うが?」
騎士王の戯言は無視するに限る。
「もし俺が勝ったら。サリア会長を戴きます」
「え? あたし?」
「そう。つまり、陛下が勝てば転生者二人がキャメロン騎士王国に所属することになる。
俺が勝てば転生者二人がフェルマール王国に所属することになる。
これで対等だ」
「良いだろう。誰か、契約魔法を持て!」
◇◆◇ ◆◇◆
城の中庭で、準備が整った俺の前に立ったのは、学院で魔法実技を担当するデイビッド教官だった。
「教官? このような場所で何をなさっておいでですか?」
「俺は陛下の私兵でもあるのだよ。お前のような身の程知らずを見つけ出し、処分することも役目の一つだ」
「あぁそうですか。まぁ良いですが。
ところで、今日はあまり天気が宜しくありません。やっぱり決闘は明日に延期した方が良いのではありませんか?」
「今更怖気付いたか? だが逃げ場はないぞ」
そう。周囲は既に、近衛騎士団が全員完全武装で囲っている。
俺は、紐で結んだ石をぐるぐる回しながらその様子を見ていた。
「まぁ良いですよ。どちらかといえば、貴方がたに対する配慮だったんですけど。
というか、教官程度が相手ならわざわざ手間をかける必要もないし」
「俺程度、だと?」
「どうでも良いです。早く始めましょう」
そして、開始の合図が鳴った。
◇◆◇ ◆◇◆
難しいことはしない。使う魔法は昨日と同じく〔窒息〕。一呼吸で昏倒し、酸素を求めて気道が開く。
そして氣の抵抗が無くなるのを待って、その気道を通して〔加熱〕で肺の中の空気を約10秒間数百度Cに熱するだけ。
見える範囲での外傷が一切なく、それでいながら肺細胞が完全に焼け爛れ、ついでに周囲の体液と脂肪も高熱に曝されあるものは硬化しあるものは変質・分離。到底生命活動を維持することは出来なくなった。
人間の身体を内部から焼く。そんな状況を想定したことさえないのだろう。誰も、如何なるリアクションもとることは無かった。
◇◆◇ ◆◇◆
「で、俺の勝ちですか?」
「ま……まだだ! 代理人が一人などと誰が言った?」
「誰も。これで終わりって言ったら、寧ろ退屈でしたよ」
「次は、騎士団長、前へ!」
そして馬に乗り、馬上槍抱え全身鎧を着込んだ男が周囲を囲む騎士団を掻き分けて登場した。
「我が陛下の威光をここに!」
そう言いながらランスを掲げた、その時。
上空の雷雲から、一条の稲光が騎士団長を貫いた。
…………えっと。
俺まだ、何もしてないんですけど。
とはいえ、今この城の中庭は、雷が落ち易い状態になっているのは事実。
「だから、天気が悪いって言ったんですけどね。
次は、ってもう面倒だから、ここにいる騎士団全員が相手ってことで、良いですね?」
そう言って、これまでずっと振り回し続けていた石……磁石を空に向かって放り投げた。
俺は今まで、磁石を振り回しながら、その周囲に魔法的仮想回路を形成し、ずっと発電し続けていたのだ。そして生み出した電力は磁力に変換し、城の中庭の磁場を誘導していた。
上空に雷雲がある状態でその磁気を更に偏在させることで、任意の場所に雷を落とすことが出来る。
これが神話級魔法、〔雷光〕!
「はいそこ。次そっち。その次は向こう」
指を差したその先に、次から次へと雷が落ちる。
ものの五分もかかからずに、中庭にいた騎士たちの中で動く者はいなくなった。
(2,989文字:2015/12/23初稿 2016/11/02投稿予約 2016/12/10 03:00掲載予定)




