第38話 召喚命令
第06節 騎士王国〔7/9〕
やはり異世界の技術とその画像・動画のインパクトは大きかったようで、ルシル王女やシルヴィアさんのみならず、シェイラやシンディも知恵熱出していそうな表情をしていた。
「シンディ、憶えてる? 俺が異世界の言語を覚えてほしいって言っていたこと」
「え……うん、憶えているけど?」
「それはね、これらの使い方を覚えてほしい、ってことでもあるんだ。ここには異世界の書物数万冊分のデータが収納されているから」
「……もう驚く気力も残って無い」
「ま、おいおいね。
……でも、サリア会長、か。
彼女、どうにかしてこちら側に引き込めないかな?」
ぽつり、と呟いた俺の言葉に、反応したのはシルヴィアさんだった。
「前世の仲間、だから?」
「もっと現実的な都合。俺と彼女の基礎知識はほぼ同じ。勿論嗜好の偏りなんかで多少の違いはあるけどね。
そしてその知識に価値があるというのなら、それが二つに分かれて両陣営に一人ずつという状況は危険すぎる」
「その方が、バランスが取れると思うけど?」
「ならこう言えばわかり易いですか? もし仮に、『俺は氷結魔法〔酷寒地獄〕を無属性魔法で使える』と言ったなら。その根拠に異世界知識を置くのなら。
俺と同じ知識を持つサリア会長が、フェルマールに属していないということを、二人は許容出来ますか?」
「え……、って、あの、ちょっと待て、その…………」
「それは………その…………」
二人とも、面白いくらいに動揺している。いきなり俺の方からカードを切ってくるとは思わなかったんだろう。
「二つの陣営両方に、異端者がいるのなら。こっちが出来る事は向こうも出来るし、向こうが出来る事はこっちも出来る。そう考えてしまう。もしかしたらどちらかが出来てももう一方は出来ないかもしれないのに。
『出来るけど使わない』そう決めていても、相手が使ったらこちらも使わざるを得ないし、たとえ出来なくても相手以上のことをすべきと要求されるでしょう。
それは、はっきり言って俺たちにとっての地獄です」
「……」
「だけど、二人がともに一方の陣営に属していれば、その陣営が一方的に利益を享受出来る反面、俺たちにとっても出来る事と出来無いこと、したいこととそうでないことに関しては『個性』で納得してもらえる。少なくとも、二人が同一陣営に属するのであれば、俺たちとその陣営にとってはWin-Winの関係を築き上げることが出来るんです」
「だけど、手放すことを強要された陣営は、一方的に損をする」
「確かに。だからおそらくは、明日にでも行動を始めると思いますよ?」
「誰が?」
「騎士王陛下が」
◆◇◆ ◇◆◇
はたして、騎士王陛下が行動したのは、その翌日のことだった。
春の三の月。成績発表も終わり、卒業式までは実質的に消化試合という時期。
アレクたちF組は、弓射の授業でグラウンドに出ていた。
そこに、自治会長のサリアが、王国騎士らしき武装した男たちを5人引き連れたやって来た。
「アレクサンドル君。キミは昨日、言っていたよね? 情報を提供する許可を得ているのか、って。確かに許可を得ていなかった。
けど同時に、あたしには報告する義務もあったんだ。悪く思わないでね?」
「別に会長を責めるつもりはありませんよ。で、どうしろと?」
「当然。ついて来てもらいます」
「お断りしたら?」
「力尽くで。
それともやっぱり、『魔法学院の劣等生』の真価でも発揮してみせてくれるの? 現役騎士5人を前に」
アレクは、その言葉に直接の返事をしなかった。ただ煩わしそうに、腕を一振りしただけ。
だがその直後、その場にいた騎士たち全員が、意識を喪い昏倒した!
「え? ……な、なにをしたの!?」
「無属性魔法Lv.4【気流操作】派生09.〔窒息〕。
単純に、彼らの周囲の空気から、酸素を選んで排除しただけのことだ。
人間が酸素欠乏症になるには、一呼吸で充分だからね」
◇◆◇ ◆◇◆
それをサリア会長が望むなら、俺も遠慮はしない。
魔法は、観測することで初めて効果を発揮出来る。そして、知識として「空気中に酸素がある」ことを知っていても、今まではそれを観測出来なかった。
だが、この大陸に来る途上、船の上で水の電気分解実験を行い、酸素と水素をそれぞれ観測することに成功した。結果、空気中の酸素を単体で操作出来るようになったのだ。
そしてここで新規開発魔法である〔窒息〕を使用したのは、演出効果を考えてのことだ。酸素を自在に操れるのなら、酸素と水素の反応である爆鳴気を武器とするサリア会長にとっては致命的なまでに相性が悪い。そう誤認させる為。
実際、爆鳴気は標的の周辺の水蒸気を利用する。この場合は俺の周囲ということになる。そこの酸素を動かしてしまったら、今度は俺が酸欠になる。その意味で、これはただのはったり。だが。
◆◇◆ ◇◆◇
「酸素を動かす、ですか。それは凄いと素直に称賛しましょう。
ですが、あたしの魔法はそれだけではありませんよ。もとよりあたしは水属性。氷結魔法こそ本領です。
――、――――、――、―――、
氷よ、彼の者を永劫に閉じ込めよ!
〔氷棺〕!」
途端、アレクは白透明の氷に閉ざされた。が、次の瞬間それは粉微塵に砕け散った。
「これが氷棺? 俺が莫迦やったときの雪娘姫の眼差しの方が、よっぽど冷たいが」
◇◆◇ ◆◇◆
この世界に於ける、氷結魔法。それは実は、対象の周囲の水蒸気を凍結させて対象を包み込むこと。それだけでしかない(当然放置していれば、対象の体温が奪われ凍死するが)。
だが、ならその氷を砕けば脱出は容易。その短い時間で低下してしまった体温も、【分子操作】による加熱/冷却を使い熟せるようになってから、魔力を用いた体温調整を無意識で行うようになったことから手間を要せず回復させられる。
「氷結魔法というのなら、せめてこれくらいの低温は具現化してみろ」
そう言って、〔冷却〕を発動。但し、ドライアイスを生成するほどの極超低温ではなく、氷点下30度C。極光が観測出来る極地方の冬の寒さ。だがこれから暖かくなる季節を迎えようとしているこの時期の服装で、この寒さには耐えられない。
空気のそのものを冷却していることから、例えば火を焚いてその輻射熱で温めようと考えても、効果はない。火が齎す熱よりも、空気そのものの冷気の方が大きいからだ。
急激に体温を奪われたサリア会長が、恐怖と絶望に満ちた表情で助けを乞うてきたのは、それから間もなくのことであった。
(2,911文字:2015/12/23初稿 2016/11/02投稿予約 2016/12/08 03:00掲載予定)
【注:酸素欠乏症の危険は、金沢工業大学露元研究室のHP内コンテンツ「実験を安全に行う為に」(http://www2.kanazawa-it.ac.jp/eco/safety_index.html)の「窒息の注意 -酸欠の気体を一回吸うと倒れる」を参照しています】
・ なお、「知恵熱」というのは乳幼児が、知恵のつく時期に発症する原因不明の発熱のことを指して言いますが、転じて「普段赤子のように頭を使っていない人が、珍しく考え事をしたから熱を出した」という意味で「知恵熱」という言葉を使い、更に転じて「難しいことを考えると熱が出る」という意味で「知恵熱」という言葉が使われます(その意味では「誤用」ではありません)。……という注釈までつけなければならない、「なろう」読者のツッコミ力に敬意を表します。




