第37話 此の世界と彼の世界
第06節 騎士王国〔6/9〕
精霊は、存在しない。それがこの世界の『真実』。
この世界の住人には、まず受け入れられないだろう内容だが、ただ一人、サリアだけは受け入れられる筈。
前世日本のWeb小説で、異世界に転移したり転生したりする主人公は、皆チートを持っていた。スペックやステータス、成長率のチート、アイテムのチート、知識のチート。
地球より科学の遅れている世界であるのなら、日本の一般教養レベルでも充分チートになる。俺やサリアもそうしてその知識を活かして今まで生きてきた。
だけど。本当のチートは、別の世界を知っていること。
それだけで、既にチートなのだ。
異世界を知るから、この世界の人が常識と思って疑わないことも疑える。
異なる価値観を知るから、世界を変える原動力になる。
なのに、サリアは。
前世の知識を、ただの「知識」で終わらせていた。ゲームプレーヤーがゲームの知識を丸暗記して、攻略サイトを作って他のプレーヤーに教えて満足するように。
なら、俺にとっては。
サリアが作った攻略サイトは、俺には全く価値が無い。
魔法だけとっても、今の俺が使う、無属性魔法は。
この世界の魔法を地球の知識で応用した結果、謂わば裏技・バグ技の次元にまで昇華しているから。
◇◆◇ ◆◇◆
「でも、それじゃあ。
精霊を見たことのある人はいるわ、それこそルシル王女だって。王女が以前、氷雪の精霊と出会ったっていう話は有名じゃない」
初めて聞いた。
「魔法は、術者の願いを叶える。
なら、その願いが器を作り、信仰がその器に力を注いだのだとしたら?」
「え?」
「神はいない。けど、『神はいる』と信じる人たちが、多くの人たちが、その信仰を元に共通の姿を思い描いたら。その姿を持つ“存在”が、実体を持つんじゃないか?」
「……」
神が人を作るのではなく、人が神を作る。
前世地球であっても、信心深い国で、信心深い人に言えば、殺されてもおかしくない“不敬”。けど、日本では受け入れられる。俺もサリアも、前世はそういった国で生きていた。
それもまた、日本特有の価値観。
「神様ってのは、実在するとしたら人間だけを見ている訳じゃない。
だから、人間が想像したり理解出来たりする存在じゃないんだ。
人間がイメージする神は、全て人間にとって都合の良いモノ。善神のみならず悪神もね。
つまり、それは人間が作ったモノに過ぎないんだ」
「……」
「もう良いか? 情報交換しない、と言いながら、随分たくさんの情報を、それも一方的に提供したような気もするけどね」
「……」
「でも、サリア。
今の俺の話に値する情報を、サリアは提供出来るのか?」
「……出来ない。仮に王様が許してくれたとしても、貴方が教えてくれたことに値する情報を、あたしは持っていない」
「そういうこと。
けどまぁ今の話に具体的な内容は無い。
サリアが知っていても不思議ではないことを『気付かせた』だけだからね。
だから対価は求めない。
でも、だからサリアにとって価値のある情報は、俺からは提供出来ない。
どうしてもというのなら、まず対価を用意してからにしてくれ」
そして俺は、後ろを振り向いてこう言った。
「じゃ、ルシル王女、シルヴィアさん。帰りましょう」
◇◆◇ ◆◇◆
ところで。
この9ヶ月間、シェイラやシンディは、(他の貴族の従者の多くがそうするように)この学院でアルバイトをしていた。リリスは「チート」ならぬ「ニート」生活を満喫していたようだが。
俺が、何から聞くべきかわからなくなって言葉を紡げないルシル王女とシルヴィアさんを伴って自室に戻ったとき、シェイラたち三人は揃って出迎えてくれた。
「御屋形様よ。御屋形様とサリアとやらの会話は、全て聞いていた。二人にも中継した。
だから余計な話は飛ばして本題に入るが良かろう」
「さんきゅ。
という訳で、ルシル王女、シルヴィアさん。
俺が生まれ変わる前の世界の記憶を持つということは、三人は既に知っています。
そして、俺が前世に生きた世界と同じ世界・同じ時代の同じ国に生きていた人を、俺はあと二人知っています。
一人は、サリア。
そしてもう一人は、カナン帝国時代の財務官僚である、シロー・ウィルマー氏。
リリス。タブPC起動して」
「了解じゃ。何を見せる?」
「まずは画像データかな? 動画で何か面白いものはあったか?」
「女子の裸などはどうでも良いな。風景も、自然より都市の方が良いか?」
「自然でも、画像の精緻さを説明する役には立つけど、確かに都市の画像の方がインパクトはあるかな? あとエロ画像の所在は後で教えるように」
「シルヴィアに知られると削除されそうじゃな。了解した。
動画の方は、軍事関係の画像が結構あるぞ」
「それは良い。あれか? キノコ雲か?」
「それもある」
「じゃぁ鑑賞会と行こうか。
……ルシル王女、シルヴィアさん。これは、入間氏の遺産です」
まず見せた風景画像では、その美しさに皆目を奪われた。
「これ、絵なの? 本当に?」
次いで見せた都市の画像は、その人の多さに圧倒された。
「こんなにたくさん……」
「ちなみにこの建物、『新宿駅』って言うんですが、ここを一日に通り過ぎる人の数は、王都の人口の大凡三十倍に相当します」
「さん……!」
次が動画。まずはキノコ雲。
「凄い……」
「この一発で、ブルックリンとヴィッシンズの両町が一瞬で消滅し、ハティスに至るまでの空間が毒に冒されその後百年は生命が存在出来なくなります」
「……なに、それ?」
次の動画は、中東の空爆の様子。
「この映像は、雲より高いところを音より速く飛ぶ乗物から撮影しています。
さっきの爆弾ほどじゃぁないですが、この爆弾一つで町の一角が瓦礫に代わります。そしてその爆弾を、数千発いっぺんに落とすんです」
その次は、ガラッと変わってビーチの様子。
「女性の露出は多いけど、ここでは男に襲われる心配もなければ魔獣に襲われる危険もないのです。飢えに苦しむこともなく、ただ楽しむ為だけに海に来る。そんな生活が出来るんです」
次は、アイドルのコンサート。
「一般市民でも充分蓄えがあるから、遊ぶ為にお金を使えます。
だから、遊ぶ人を相手にした商売も成り立ちます。
これは、ただ気持ちを明るくする為だけの、歌と踊りなんです」
取り敢えず許容量オーバーのようなので、ここらで終わりにしよう。
「これは、ウィルマー氏の遺産です。大賢者タギが〔状態保存〕の魔法で維持していたモノを、俺が復活させました。
もう、おわかりでしょう? タブPC一つとっても、この世界の今の技術では再現出来ない。況や中のデータをや、です」
「確かに、別の世界と言われた方が寧ろ納得出来る」
「これが、俺たちが、俺や入間氏、そしてサリア会長が、嘗て生きていた世界なんです」
(2,937文字:2015/12/21初稿 2016/11/02投稿予約 2016/12/06 03:00掲載 2017/06/30誤記修正 2019/04/20誤字報告による衍字修正)
・ なお、この頃にはリリスは「発電魔法」を身に付けており、自分で電子機器に充電させることが出来るようになっております。ちなみに電磁石を使った発電ではなく、生体発電。




