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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第30話 S式

第05節 新たな旅立ち〔6/7〕

 アントニオさんと、壊血病予防策に関して気持ちの良い取引が出来た後。

 ついでに、船大工を紹介してもらった。


「何故船大工に用があるんだ?」

「実は、馬車を作ろうと思って」

「は? 馬車に何故船大工の用があるんだ?」

流石(さすが)に海は無理だけど、川程度なら渡れる馬車を作りたくてね」


 『ベスタ大迷宮』の地底湖に幌馬車(キャラバン)を浮かべたが、あとで色々確認してみたところ結構不都合が出て来ていた。

 ハティスに戻った後で補修をしたけど、余程(よっぽど)の特殊事情でなければキャラバンを川に浮かべることは出来ない。

 そして、人数も増えた。キャラバンは二人なら快適だが、四人となるとちょっと手狭。

 なら、四人乗ることを前提とした、四輪の荷馬車(ワゴン)を作るべきだと思ったのだ。

 但し、ベースは舟で。初めから川に浮かべることを前提で設計し、それを陸上用に改造する。そもそも『独立懸架(けんか)式サスペンション』やら『衝撃(ショック)緩衝機構(・アブソーバー)』やらと、通常の馬車でさえも魔改造する予定なのだから、はじめから違うボディをベースに作っても大過無かろう。


◇◆◇ ◆◇◆


 紹介してもらった船大工に設計を依頼し、その内容を修正した上で建造を依頼した。

 要求は多かったが、船としての性能は最小限だった為だろうか、一月(ひとつき)後には完成した。


 完成した舟を一旦俺の〔無限(インベン)収納(トリー)〕に仕舞い(船大工が目を回していた)、王都の寮に持ち帰った。

 そして、シンディが新たに開発した『S式衝撃(ショック)緩衝機構(・アブソーバー)』を組み込んだ、独立懸架式サスペンションで四輪とも支える。またワゴンは横から乗り込む形になるが、舟をボディとしているところから、乗り込み口がかなり高くなる。

 ので、収納式のステップを搭載した。当然俺の馬車にあって(しか)るべきアウトリガーも。

 舟としての車体は、外部(アウト)フロート(リガー)を装着出来るようにはじめから設計してもらっている。脱着式にすると強度が落ちる、と船大工には散々止められたが、これはシンディの技術で補強した。そのアウトリガーアームの接合箇所に、陸上に於ける車体(アウト)安定装置(リガ―)も取り付けられるようにした。ちなみにこのアウトリガーも、『S式ダンパー』などという怪しげな機構が組み込まれている。


 最後に車大工の元に持ち込み、馭者(ぎょしゃ)台を取り付けて、完成した。

 ところでこの馬車、車体が舟である為、馬の繋ぎ方もちょっと変則的なモノになった。

 それは舳先(へさき)(船首)の両側に二頭ずつ馬を並べ、舳先の上に馭者台を置いた形になる。

 馬の真上から馬を操作することになり、手綱(たづな)の操作などは機械的に行えるような機工(ギミック)も取り付けた。


 船底部分は、脚荷(バラスト)を兼ねた倉庫(〔無限収納〕があるとはいえ、倉庫があると便利)。

 舳先は馭者台を兼ねる。

 車体前部は石炭ストーブやキッチン、テーブルなどの生活空間。

 後部は所謂(いわゆる)(かいこ)(だな)寝台(ベッド)スペース。一床に2人ずつで、最大8人が寝られる。昼間はベッドを起こし、単純空間として使用する。

 (とも)(船尾)には動滑車式の手動クレーンを取り付けた。多分使う時は、かなりの重労働になりそうだが、人力で荷運びするよりは楽だろう。


 そして、従前使っていたキャラバンは、というと、ショックアブソーバーをS式に換装し、グリースの塗り直しなどをした上で、今回はワゴンに連結した。寮で飼っている家禽(かきん)を船に乗せ、海上での蛋白(たんぱく)源とすることで船長と合意した為、キャラバンに乗せて運ぶつもりなのである。


◇◆◇ ◆◇◆


 ところで、ショックアブソーバーなどの名称の(かしら)に付けられた『S式』。これは衝撃緩衝材として使えるものを探していた時に、リリスが言ったこの一言に端を発している。


「スライムを使ってみてはどうじゃ?」


 スライムは、(コア)が破壊されると死に、その粘体は速やかに揮発性の高い液体となり、数分足らずで蒸発してしまう。


 だが、スライムを殺さずコアだけ抜き出したらどうなるか。

 俺は知らなかったが、実は流動性の無い(見かけの粘性が高い)液体として、そこに残るのだ。そしてその粘体は摩擦(まさつ)が小さく、かなり高性能な潤滑剤(グリース)として使用出来ることが判明したのだ。


 またスライムコアは、周辺の魔力を吸収して粘体を生み出してゆく。

 その際、魔力を通さない神聖金(オリハルコン)で内面鍍金(めっき)した壺にスライムコアを入れておけば、再び生まれるスライムの大きさも調整出来る。その壺の内側を〔神聖魔法〕で魔力消去しておけば、粘体を生み出さずにコアを保存出来る。


 では、スライムを殺さずそのコアを凍結させたら。

 スライムは、ちょっとした低反発材並みの衝撃吸収力と生半可(なまはんか)な圧力では圧潰(あっかい)しない強度を持ったジェル状物質となるのだ(スライムの粘体は鈍器では(つぶ)せない。これは冒険者の常識)。


 つまり、スライムは「コアが破壊された」という信号が発せられたら、数n(ナノ)秒後には粘体の組織崩壊が始まる。が、逆にその信号さえ発せられなければ、粘体はその性質を維持し続けるということだ。


 それが判明したので、『ベスタ大迷宮』までリリスに連れて行ってもらいスライムを乱獲し、コアを抜いた『スライムグリス』とコアを凍結させた『スライムジェム』、そして『養殖用スライムコア』を大量生産したのである。


 スライムグリスは車輪の軸受(じくう)けその他摩擦が生じる部分に(むら)なく塗り、スライムジェムはショックアブソーバーのダンパー部分に使用する。


 またついでに色々な実験もした。

 たとえば、スライムグリスに可燃性オイルを混ぜると、燃え(やす)く消し(にく)く長く燃える照明用燃料になった。料理用燃料としては、試したいとも思わない。ちなみにこれを火炎瓶として使うと、水をかけた程度では消えない極悪な手投げ(ハンド)焼夷弾(ナパーム)になったが、殺傷力があまりに高すぎるので封印する。


 逆に溶けた(ろう)に混ぜると、防水性の高い塗料(ワックス)となり、これは車体外装部に塗られることになった(対水摩擦係数も素のままの蝋より小さくなるとはこの時はわからなかったが)。


 スライムジェムに革袋を被せてベッドにすると、もう普通のベッドが使えなくなるほどに心地良いものになってしまった。前世の記憶と照らし合わせても、ウォーターベッドより硬く低反発ベッドより柔らかい。それが10cm(センチ)に満たない薄さで再現出来るのだ。


 車輪にゴム代わりに巻き付けることが出来ないか、と試してみたが、こちらは完全に失敗。だがスライムグリスで接着剤を作れれば、スライムジェムを紐状に伸ばしてゴムタイヤ替わりにすることは出来ると思われる。これは今後の研究の進展に期待、ということだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 こうして、「おれのかんがえたさいきょうばしゃ」ver.(バージョン)2が完成した。

(2,928文字:2015/12/19初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/22 03:00掲載予定)

【注:1ナノ秒は、十億分の一秒です。

 舟をベースにした馬車は歴史上実在します(「コネストーガ幌馬車」と呼ばれているもの等)。もっともコネストーガ幌馬車には、アウトリガー他のギミックはありませんし、「水に浮く」程度のスペック(漏水事故多発)だったそうですが】

・ つまり、核のあるスライムの粘体は「ぷる」で、核のないスライムの粘体は「でろ」です。

・ 『S式』が実は『スライム式』ではなく『ショゴス式』である可能性も微レ存。

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