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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第29話 壊血病

第05節 新たな旅立ち〔5/7〕

☆★☆ ★☆★


 「柔道は相撲から派生した」という人がいる。

 それに間違いはない。が、正しくは「相撲は柔道の祖である」程度と考えるべきなのだ。


 というのは、江戸時代「武芸十八般」という言葉があった。当時の武士が、全て極めるべしと()われた18の武芸のことであるが、常識的に考えて、一芸を極めるのに一生を(つい)やすモノを18も極めろと言われても、現実的に不可能である。

 だがその為か、日本武芸の体捌(たいさば)きは、基本的に同一になっている。つまり、日本の武術は、ただルール(使う武器や有効とされる攻撃方法)が違うだけ、というモノになったのである。

 だから柔道も相撲も、「日本武芸」を直接の親とする一分野、と(とら)えるのが正解だ。そして日本武芸は、他の武芸との交流戦を当然のモノと看做(みな)して技を(みが)く。だからどちらも、剣術との立ち合いを想定した技(一本背負い等)があるのである。


★☆★ ☆★☆


 シェイラが身に付けた柔術の技に、剣に対するモノはある。

 ローズヴェルト卿が使う剣の技に、無手に対するモノは無い。

 これがこの立ち合いの差。騎士は剣を持たない者相手の対等の戦闘は想定していないのだから。

 シェイラは、無手の技を持つというだけで、実はかなりの優位に立っていたのである。

 だから、この結果は当然だった。


◇◆◇ ◆◇◆


 (しばら)くの立ち合いの後。

 シェイラは軽く(ほこり)を払ってから、仰向けになっているローズヴェルト卿に手を差し伸べた。


 この立ち合いの間、シェイラは幾度(いくたび)もローズヴェルト卿を投げた。

 しかも、地面に落としても痛くないよう、加減をして。

 一方で、ローズヴェルト卿の木剣は、シェイラに(かす)りもしなかった。


 勝者が敗者を(たた)えるのは、(めぐ)(めぐ)って自己賛美。

 それがわかっているから、シェイラは引き起こし立ち上がったローズヴェルト卿に一礼するだけで、修練場を辞した。


「それでは姫殿下、我々はこれで失礼させていただきます」


◇◆◇ ◆◇◆


 その数日後。俺は王都フェルマリアからほど近い、港街パスカグーラを(おとず)れていた。

 キャメロン騎士王国への船は、この街から出る。その船に用があったのだ。


「『光と雪の女王』号の船長は、貴方ですか?」

「アンタは誰だ?」

「申し遅れました、私はアレクサンドル・セレストグロウン騎士爵。ルシル王女とともに貴船に乗せていただくことになる者です」

「そおかい、俺はジョージ・ラザーランド。王女殿下の御座(ござ)(ぶね)『光と雪の女王』号の船長だ。一応準男爵の爵位も貰っているが、生まれはしがない海賊でね。上品な貴族言葉に縁がねぇ。騎士様にはご無礼申し上げますが、ってなもんだ」

「なら俺も似たようなもんだ。こないだまで冒険者をやっていたからね。まだるっこしい丁寧語がなかなか身に付かねぇよ」

「そりゃぁ話が早い(はえぇ)ってもんだ」


 そして、近くにある船主ギルドが経営する酒場に連れだって入っていった。


「いよぉ、ラザーランド。イイ女に縁のねぇおめぇが、ついに男色に走ったか?」

阿呆(アホウ)。取引相手だよ」

「商人には見えないが?」


「そういうアンタは?」

「俺はアントニオ。この街の商人ギルドの……」

「そいつは商人ギルドの使い走り(パシリ)だ。気を付けねぇと尻の毛まで(むし)られるぞ」

「商人ギルドか。丁度良い。

 俺はアレク。商会【セラの孤児院】の出資者兼役員で、ギルドランクAを貰っている」


 ギルドカードを見せると、アントニオとラザーランドがともに驚いた。アントニオは俺みたいな若造がAランクってことに驚いたのだろうし、ラザーランドは騎士を名乗り、元冒険者と自己紹介した俺が商人としての立場も持っているということに驚いたのだろう。


「アントニオさん。(もう)け話がある。これからこの港街で、爆発的に売れる物を紹介出来る。だがその大前提として、俺たちのやることにギルド単位で協力してもらう必要がある。アンタの立場で、ギルドを動かせるか?」

「それは情報次第だな」

「まぁそれもそうか。で、話を聞いてみたいと思うか?」

「良いだろう、聞かせてもらおう」


◇◆◇ ◆◇◆


「まずはラザーランド船長。アンタの知っている壊血病についてのことを教えてほしい」

「壊血病だと? あれは、船乗りの宿命みたいなもんだ。

 長く乗っていればいずれは皆その病気になる。だが船乗りたちは、それを(ほこ)りとしている」

「誇り、か。何故だ?」

「壊血病に(かか)(にく)い奴がいる。不真面目で、悪賢(わるがしこ)くて、手癖の悪い奴だ。真面目で、愚直で、誠実な奴ほど壊血病に罹る。なら、俺たちは壊血病に罹ることを誇りに思う」

「だが、そういう奴ら以外にも、壊血病に罹らない人もいるだろう?」

「王侯貴族や大商人、だな。王侯貴族は精霊神の加護が強い。大商人は……、『不真面目で、悪賢くて、手癖の悪い』という条件に該当するんじゃないか?」

「ちょっと待て。それは商人に対する挑戦か?」

「済まないアントニオさん、ちょっと黙っていてくれ。

 ラザーランド船長。壊血病に罹り易い人とそうでない人。実は、特定の条件で区別されるとしたら?」

「何?」

「答えは、柑橘(かんきつ)系の果物だ」

「は?」

「王侯貴族や大商人は、船の上でもその贅沢(ぜいたく)な暮らしを続ける。勿論(もちろん)、食後の果物(デザート)もね。

 そして手癖の悪い奴は、積み荷や貴族用の果物にも手を付けるだろう。だから、壊血病に罹らない。

 一方、船に積み込める荷の量は限られているから、一般の船員が果物を口に出来る事は滅多にない。真面目で誠実な船員は、だから果物不足で病気になるんだ。


 果物は、確かに贅沢品だ。だけど、それは果物に代わる食べ物がある陸上での都合だ。

 物資が限られる船の上では、寧ろ柑橘系の果物は効率的に壊血病を予防出来る精霊神の恵みなんだよ」

「それは、本当のことか?」

「証明しろ、と言われても困る。船長のように、誠実な船乗りでも壊血病に罹らずに済む場合もあるからね。

 船員たち全員に果物を食べさせ、年単位で経過観察をし、それで罹患(りかん)0(ゼロ)が続けば、それで証明になるかもしれないけど、今すぐ、ってのは無理だ」


「そういえば、西大陸のキャメロン騎士王国籍の船では、壊血病の罹患者はいないという話を聞いたことがある」

「商人ギルドでもその情報は入っています。船籍を騎士王国に移せば、壊血病に罹らない方法を教える、と」


 成程(なるほど)、どうやら現在進行形で、騎士王国には転生者か転移者がいるんだろう。そして彼らは情報の囲い込みを選んだ。なら。


「そういう訳で、アントニオさん。取引です。

 この壊血病予防策についてを、騎士王国籍でない(・・・)船主に無償で伝えてください。勿論、マキア籍の船も含めて。そして、柑橘系の果物を大量に仕入れてください。

 (ちか)っても良いですが、飛ぶように売れますよ」

「今の話の上で考えれば、売れない(はず)がありませんね」


「で、既に情報を提供した後ですが、この情報を(いく)らで買います?」

(2,921文字:2015/12/19初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/20 03:00掲載予定)

【注:壊血病に関しては、マゼランのエピソードをはじめ多数の文献で語られています。ただ面白いのは、それら全て経験則として見出された法則だということです。それに理論が追従するのは、……以下第五章第12話の蘊蓄で詳説(?)します】

・ ちなみに、「王侯貴族」の「侯」は「侯爵」の「侯」ではなく、「諸侯」の「侯」です。

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