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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第28話 面接~能力評価~

第05節 新たな旅立ち〔4/7〕

 その惨状(さんじょう)は、(まさ)に“(ひど)い状態”としか言いようが無かった。

 だが(いく)ら知らなかったとはいえ、邪神(ショゴス)に喧嘩を売ってこの程度で済むのなら、(むし)ろ安い方だろう。

 薙刀(なぎなた)(ぬえ)』を突き付けられたルシル王女は失神する余裕さえなく、リリスの剣閃のその影さえ追えなかったローズヴェルト卿は身動き一つとれない。


「リリス、そこまでだ」


 もう一度俺が声をかけると、リリスは『鵺』をまたどこかに仕舞い、一歩下がった。


「ルシル王女、ローズヴェルト卿。うちの侍女が失礼を致しました。

 ローズヴェルト卿の剣は、私が責任を持って弁償させていただきます。

 シンディ、打てるな?」

「は……、はい」


「こちらがシンディ。うちの専属鍛冶師です。戦闘力はありませんが、彼女はリリスが守ります。……って、頼っても良いな?」

「シンディ殿の守護なら任せるが良い」

「助かるよ、リリス。シンディ、殿下にご挨拶を」

「はい。殿下には初めて御意を得ます。シンディと申します」


◇◆◇ ◆◇◆


 ところで。リリスが『鵺』を引いてもルシル王女とローズヴェルト卿は、まだ硬直し続けたままだった。

 だから場を落ち着けようと、俺の〔無限(インベン)収納(トリー)〕の中から茶器とポットを取り出して、(テーブル)に並べた。


「どうぞ。姫殿下に供するには(いささ)かお恥ずかしいものですが、茶器もポットも、私たちの手製です」


 茶器を見たからかそれとも紅茶の(かお)りのおかげか、二人はようやく再起動に成功したようだ。


「これが手製? 見事なものだな。

 だが……、これは銀、か? 随分(ずいぶん)カネがかかったんではないか?」

(いえ)、茶器の原材料は、探索で見つけた神聖銀(ミスリル)ですから、ただみたいなもんです」

「ミスリルだと! ミスリルで茶器を作るなど、貴様正気か?」

「別に変ではないでしょう。うちでは神聖鉄(ヒヒイロカネ)製の包丁を料理に使いますし、シンディの工房の金床(かなどこ)白金(プラチナ)製です。質が良いものは、使ってこそ価値があります。価値があるからといって使わずに飾るのであれば、それに意味はありません」

「ヒヒイロカネの包丁に、白金の金床、そしてミスリルの茶器か。価値観が根本から狂っているな」


 ローズヴェルト卿が、頭を抱えている。


「そうだ、シンディ。ローズヴェルト卿の剣だが、ヒヒイロカネで打つか?」

「え? 旦那様は鉄製の剣のつもりだったんですか?」

「いや、シンディがその気ならそれで良い」

「はい、わかりました」


「ヒヒイロカネの剣、か。我が国の宝剣(クラス)だな」

「もしかしたら(うらや)ましいかも」

「姫様、何をおっしゃいますか」

「ねぇセレストグロウン卿、私にも何か作ってとおねだりしたら、貴方は何を作ってくれる?」

「ローズヴェルト卿の剣は、うちのリリスが壊してしまったお()びです。

 姫殿下がお求めなら、市価よりかなりお安くするとお約束しますよ」


「貴様、王女殿下への献上品に対価を求めるつもりか! 増長するのもいい加減にせよ!」

「いい加減にするのはそち(・・)の方であろ、シルヴィア・ローズヴェルト?

 何故御屋形(おやかた)様がそこの(のぞ)き見趣味の“雪娘(ゆきんこ)姫”の為に無償で働かねばならぬ?」


 “雪娘姫”。その名は先日、一度だけリリスの前で口にした。そして『覗き見趣味』という表現と合わせると。

 あの時、あの話をルシル王女は聞いていたということになる。


「“雪娘姫”の父親は、騎士の(くらい)(もっ)て御屋形様の働きに(むく)いた。では“雪娘姫”はどうじゃ? そしてシルヴィア・ローズヴェルト、妾の威圧で腰を抜かした(あわ)れな守護騎士よ。そちの言葉に一片(ひとかけら)でも(まこと)があるのなら、そちもまた御屋形様に対し、示すべき態度と言葉があるのではないかの?」


 その言葉に応じたのは、ルシル王女だった。


「貴女のおっしゃる通りです、侍女殿。

 セレストグロウン卿、重ねての無礼をお詫び申し上げます。また(さき)の戦いでは幾度となくこの命を救っていただいたことに感謝致します。

 ですが今の私は若輩(じゃくはい)の身、出来る事は(たか)が知れております。いずれ機会があれば、必ずこの恩に報いたいと思います」

「姫殿下、顔を上げてください。私はただ、守りたいものがあっただけです。それが姫殿下の守りたいものと重なっただけ。寧ろ、私は私の守りたいものを守る為、姫殿下を利用した人間です。ですので、礼も謝罪も不要です」

「ですが、それでは気が済みません!」

「でしたら、此度(こたび)の西大陸行きに、彼女らを同行することをお許しください」


 俺がそう口にしたとき、ルシル王女は目を真円(まんまる)にして絶句した。

 そしてすぐ、その口からは()みが(こぼ)れた。


「ふふっ、そうでした。それが今回の面談の目的でしたね。

 ローズヴェルト卿。貴女もそれで宜しいですね?」

「はい。文句のつけようもありません。


 だがセレストグロウン卿。一つだけ教えてくれないか。

 リリス殿が()の戦争に参加していたら、あれほど苦戦せずに済んだのではないのか?」

「何故リリスが戦う必要がありましょうか?

 あそこはリリスの戦場ではありません。それを言ったら(わたくし)の戦場でもありませんが。

 ですが(わたくし)にとって守るべき者を守る為に、あそこでマキア軍を撃退する必要がありました。だから参戦しました。

 誰が自分の家族を戦場に出したいと思われましょうか?


 今回も同じです。リリスは、シンディを守ると約束しました。だから、シンディを守る為に戦うことはあるでしょう。

 けれど、それ以外の目的で戦うことはありません。

 仮にルシル王女の身に危険が及んだとしても、(わたくし)が傷付いたとしても、リリスは動かないでしょう。(わたくし)はリリスとそういう契約を交わしております。そこだけは勘違いしないでいただきたい」

「よくわかった。何より、其方(そなた)ら家族の結びつきの強さが、な。


 ところでシェイラ殿。もし差し支えなければ、私と一手勝負してくれないか?」

「何故、自分と?」

「昨日、セレストグロウン卿が言っていたんだ、『俺の従者と侍女は、俺より強い』って。

 リリス殿の強さは骨身に、(いや)、魂に染みてわかった。

 だから今度はシェイラ殿の実力を拝見したい」

「わかりました」


 そして場を移し、他の騎士たちを退出させたうえで、修練場にやってきた。

 ローズヴェルト卿は木剣を構え、シェイラは無手。


「剣を抜かないのか?」

「練習で騎士様に怪我(けが)させる訳にはいきませんから」

「つい先程までの私なら、『莫迦(ばか)にするな!』と激昂(げっこう)するところだな。だけどセレストグロウン卿の身内を(あなど)るなど、今となっては恐ろしくて出来る訳がない。

 貴女もセレストグロウン卿のように、ナイフを飛ばすことが出来るのか?」

「出来ますが、今回は使いません。あの技は手加減し(づら)いですから」

「手加減前提か。(まい)ったね、これでも一応、守護騎士長なんだけど」


「では、参ります」

(2,965文字:2015/12/19初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/18 03:00掲載予定)

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