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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第27話 面接~威圧と意地~

第05節 新たな旅立ち〔3/7〕

◆◇◆ ◇◆◇


「ルシルよ。

 年が明けたなら、キャメロン騎士王国への留学を命ずる。

 なお随行(ずいこう)の騎士二名は、お前が自分で選べ」

御意(ぎょい)に従います」


◆◇◆ ◇◆◇


 その日。

 ルシル王女は、父王より西の大陸にあるキャメロン騎士王国へ留学することを命じられた。


「何故です? 何故姫様が西の海の果てにあるキャメロン王国へ留学しなければならないのですか?」

「それはね、シルヴィア。

 第一に、今私は国内にいない方が良いから。マキアの王太子と第二王子が王都に入るでしょう? たった一発の魔法でマキアの全軍を消し飛ばした氷雪の魔女と、敗戦国の王子たちが一緒にいるのは、トラブルの元でしょう?

 第二に、敗戦の責任を、私は取らなければいけないから」

「敗戦って、フェルマールは勝ったではありませんか!」

「言わせないで、シルヴィア。勝ったのはセレストグロウン卿であって(わたくし)ではない、なんて」

「……」

「第三に、キャメロン騎士王国が不審なくらい発展を始めているという(うわさ)があるの。産業、文化、そして軍事。

 ()の国はもともと海洋国家だったけど、最近になってその航海術が以前より更に向上しているという話もあるわ。もしかしたら、大陸中のどの国家よりも、騎士王国の方が脅威(きょうい)になるかもしれない。だから、視察する必要があるの」


「ですが、西の大陸までは、風向きと潮の流れに恵まれても三ヶ月はかかると聞いています。

 そして、長期の航海では壊血病という発症原因も治療方法もわからない病気に(かか)り易いと()われています」

「壊血病、ね。聞いたことがあるわ。

 精霊神殿では、土の精霊神が、大地を離れ海の上で長く暮らす民に対し、怒り、呪いをかけるのだと()いているわ。人は大地に生まれ大地に生きるのが自然の在り方だから、それに(そむ)くべきではない、と」

「私もそう思います。海は魚と海の魔物の領域であり、人の領域ではありません。

 現に、西の大陸に辿(たど)り着くまでに、船員の三人に一人は壊血病を発症し、その半分は死ぬと謂われています。

 無事に(こちら)の大陸に戻れる船乗りは二人に一人もいないとか」

「ところが、騎士王国ではここ数年、壊血病の発症者が劇的に減っているの。一人も死なないどころか一人も発症しない船も、少なくないそうよ」

「なんですって!」

「その秘密を解き明かすことも、今回の留学の目的の一つね」


「よくわかりました。それで、随行の騎士なのですが……」

「まずはシルヴィア。確定ね」

「微力を尽くします」

「そしてもう一人は……」

「『彼』、ですか」

「反対?」

「いえ、良い機会かと」

「じゃぁ明日の茶会の時にでも」


◇◆◇ ◆◇◆


 カナン暦701年冬の二の月の一日(いちじつ)

 茶会の席で、ルシル王女(おん)(みずか)ら俺に西大陸への随行を命じた。


「キャメロン騎士王国、ですか」


 ……何というか、ベタなネーミングだ。どこの転生者が名付け親だ?


「そう、命懸(いのちが)けの任務になるわ」


 成程(なるほど)、この時代の航海術を考えると、大洋を渡るのは正真正銘命懸け、ということか。


「ですが、姫殿下もそのお命を懸けてでも西大陸へ向かわれるのでしょう? でしたら尻込みしていては、黄金拍車を付ける資格がありません。

 ただ、ひとつお願いが」

「何かしら?」

「うちの家族も同行させて構いませんでしょうか?」

「家族?」

「一応立場上、俺の従者と侍女、そして専属鍛冶師です。決して姫殿下にご迷惑をおかけすることは無いと約束致します」

「確かに(わたくし)たちも、身の回りの世話をする人間を連れて行きます。けれど、安全な任務ではありませんよ? 万一の場合は誰からも守ってはもらえなくなります。それはセレストグロウン卿。貴方もです。

 貴方が守るべきは(わたくし)であって、貴方の家族ではないのですから」

「その心配は無用です、姫殿下。俺の従者と侍女は、俺より強いのですから」

「え?」

「ですが、一応事前にお目通り願った方が良いですね。

 宜しければ明日にでも王女離宮(ここ)に連れてきますが」

「そうね。会ってみたいわ」


◇◆◇ ◆◇◆


 そんなこんなで、翌日。俺はシェイラたちを連れて離宮を(おとず)れた。

 ルシル王女とローズヴェルト卿も、侍女たちを連れている(おそらくは随行予定の者たちであろう)。


「王女殿下に、私の家族を紹介させていただきます。

 まずはシェイラ。身分の上では俺の奴隷で、従者を任じております。

 また銀札(Bランク)の冒険者としても活躍しております」

「獣人奴隷の身の上で王女様の御意を得ます。シェイラと申します」


 獣人で奴隷、ということからか、侍女たちの表情は胡乱(うろん)げなモノになっている。おそらく「性奴隷」という単語が脳裏を(かす)めているのだろう。


「続いて、リリス。立場上は俺の侍女を任じております」

「リリスじゃ。この茶番にどのような意味があるのかは知らぬがな」

「お、おい、リリス」


 頭も下げず敬語も使わず、この態度。侍女たちのみならずローズヴェルト卿さえも、腰の剣に手が伸びていた。


「セレストグロウン卿。其方(そなた)の侍女の非礼は其方の(せき)と問うが、良いか?」


 だがこの場合、ローズヴェルト卿のことなどどうでも良い。


「フム、御屋形おやかた様よ。ここへは(わらわ)たちが御屋形様の足手(あしで)(まと)いにならないという証明をする為に来た、と認識しておるが、間違いないかの?」

「間違ってはいない」

「では既に試験は始まっている、と解釈して良いのじゃな?」


 そう言った途端(とたん)

 (すさ)まじいナニかがリリスから噴き出した。


 それは、殺気。魔力、(いや)、妖気。

 (まさ)にその場にいる者のSAN値を吹き飛ばそうとする、物理的圧力さえ伴った妖気が噴出した。


 ルシル王女の侍女や侍従は、一瞬も(あらが)うことが出来ずに魂を(しっ)飛ば(しん)した。ルシル王女は、失神こそ免れたものの、腰を抜かして座り込んだ。その腰のあたりが湿っているような気がするのは、気付かなかったことにすべきだろう。寧ろ(ひざ)が笑っていながらも、なんとか持ち(こた)えたローズヴェルト卿の心の強さに敬意を表する。

 こちら側は、流石(さすが)にシンディは腰が抜けかけており、シェイラに支えられている。けどリリスの正体を知っているからか、それ以上のことは無い。


「リリス、そこまでだ」


 俺が声をかけると、リリスの妖気が霧消した。初めから何もなかったかのように。

 侍女たちもはじめからそこで寝ていたかのように。


「妾を(はか)るなどと申しておったが、妾の威圧を受けて腰を抜かすような騎士に何がわかる? そち(・・)こそ、御屋形様の足手纏いにしかならぬのでは?」

「きっきっきっ……」

「何を鳴いておる? 森の小鳥はもっと綺麗に鳴くぞ?」

「貴様!」


 ローズヴェルト卿が、剣を抜いた。

 (いや)、抜こうとした、その時。


 リリスが何処からともなく取り出した、大薙刀(なぎなた)(ぬえ)』が一瞬に二閃。

 最初の一閃でローズヴェルト卿の腰に帯びた騎士剣を両断し、次の一閃で王女の喉元(のどもと)に突き付けた。


「妾がその気なら、そち(・・)も王女も死んでいた。どちらが足手纏いか、はっきりした訳じゃ」

(3,000文字:2015/12/19初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/16 03:00掲載予定)

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