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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第25話 戦争の総括~マキアの思惑~

第05節 新たな旅立ち〔1/7〕

 決闘の翌日は、休日だった。

 シェイラは俺の休日に合わせて冒険者の依頼(クエスト)の受注を取り止め、シンディはリック義父(おやじ)に贈る為の神聖鉄(ヒヒイロカネ)の大太刀『大蛇(おろち)』を打ち終えて、次は何を打とう? という時期だった。

 寮の庭で、皆で日向(ひなた)ぼっこしているとき、ふとリリスが口を開いた。


「のう、御屋形(おやかた)様。教えてほしいことがあるんじゃ。

 何故、あの戦争でマキア王国は全軍をブルックリンの戦場に投入しておったのじゃ?」


 あぁ、成程(なるほど)。リリスは俺の記憶を転写している為、俺と同じ知識を持つが、俺と同じ思考回路を持つ訳じゃない。俺の知識に(もと)づいて、俺が理解出来ることでも、リリスが理解出来るとは限らない。

 そこがリリスの疑問に繋がったのだろう。


「それは、マキアが何を目的に戦争したのかって問題なんだ」


◆◇◆ ◇◆◇


 ルシル王女とローズヴェルト卿シルヴィアは、あまりに一方的であった決闘の結末に、言葉を失っていた。


 シルヴィアは考える。

 もし、あの決闘の相手がメーダラ卿ではなく自分だったとしたら、メーダラ卿と同じ結末を辿(たど)らずに済むだろうか?

 脳裏でどうシミュレーションしても、他の結末を想像出来なかった。


 ルシル王女は考える。

 セレストグロウン卿が自分と敵対する立場であったら、どうやって身を守れるだろう?

 脳裏でどうシミュレーションしても、自分が無事で済む結末を想像出来なかった。


 二人は思う。

 彼とは、絶対に敵対すべきではない、と。

 だとしたら、彼の逆鱗(・・)の位置を知る必要がある。知らずそこに触れることのないように。


 その為、決闘の翌日。

 二人はお忍びで、セレストグロウン卿の寮を訪ねることにした。


◆◇◆ ◇◆◇


 ルシルとシルヴィアがアレクの寮を訪れた時、アレクはその庭で、家族と談笑(だんしょう)しているのが見えた。

 そこで、アレクに挨拶をしようと近付いた時、彼らの会話が聞こえた。


「何故、あの戦争でマキア王国は全軍をブルックリンの戦場に投入しておったのじゃ?」

「それは、マキアが何を目的に戦争したのかって問題なんだ」


 その話題は、二人にとっても興味深いこと。

 挨拶することも忘れ、彼らの会話を聞き入った。


◇◆◇ ◆◇◆


前世で(むかし)、A国とB国が戦争したらどちらが勝つだろう、ということがよく話題になったんだ。

 (いわ)く、国力の差でA国が勝つ。

 曰く、戦闘能力の差でB国が勝つ。

 曰く、B国に敵地占領能力は無いんだから、B国が勝てる(はず)がない。

 曰く、A国とB国が戦争になったらA国の周辺の国はB国に味方するだろうから、A国はB国との戦争を続けられなくなる。


 これらはどれも正しく、どれも的外(まとはず)れなんだ。

 と言うのは、戦争には目的がある。

 あの穀倉(こくそう)地帯が欲しい。あの鉱山が欲しい。

 商人たちの安全な通行の為にあの街が欲しい。国を守る為にあの(とりで)が欲しい。


 A国とB国の戦争の目的次第では、A国が勝つこともあればB国が(ゆず)ることもある。

 国力の全てを(かたむ)けてでもその戦争目的を果たす必要がある場合もあれば、その目的を果たす為に国民に死ねと命じるのは割に合わないって判断するときもあるんだ」


 たとえば、南ベルナンド地方。

 ここは、フェルマール王国の防衛を考えたら、決して他国に(ゆだ)ねて良い土地ではない。ここを(おさ)えられたら、肥沃(ひよく)な穀倉地帯と豊富な鉄資源を奪われたうえで、王都フェルマリアまで(さえぎ)るものが無いからである。喉元(のどもと)にナイフを突き付けられたも同然。それゆえ300年前は、国を(かたむ)ける程の勢いで、南ベルナンド地方の奪還(だっかん)を行ったのである。


 そしてそう考えると、(さき)の戦争に於けるマキア王国の目的がはっきりする。南ベルナンド地方の制圧。これに尽きる。

 南ベルナンド地方を抑えておけば、その(あと)に続くフェルマール王国との戦争が有利に進められる。リーフ王国やカナリア公国といった火種を抱えているフェルマールは、300年前のように全戦力を南ベルナンド地方奪還の為に(ついや)やせない。南ベルナンド地方の中核であるハティスを抑えれば、実効支配することは簡単なのである。


 南ベルナンド地方の支配が目的だというのなら。

 今回の侵攻は、マキアにとっては完全に奇襲になる予定だった。

 フェルマール中央政府が知らないうちにブルックリンを占領し、おっとり刀で駆けつける辺境伯領軍をヴィッシンズで撃破出来れば、南ベルナンド地方の支配は成ったも同然。

 なら最大戦力をブルックリンに投入し、そのままの勢いでヴィッシンズに侵攻、余勢(よせい)()って防衛戦に向かないハティスを包囲し陥落させる。これで戦争の第一局面が完了するのだ。


 その後フェルマールの本軍が進出して来たらあっさりハティスを捨ててヴィッシンズまで退却。もしフェルマール軍がハティスの確保を優先したら前進してハティスを包囲。市民という足手(あしで)(まと)いを抱えたフェルマール軍は、かなりの苦戦を強いられることになる。

 ハティスを無視してヴィッシンズにまで進出して来たら、ヴィッシンズで迎え撃つ。


 フェルマール軍の強みは、騎士団による機動戦と歩兵による縦深防御陣の有機的結合といわれる。しかしヴィッシンズの戦場は騎士団の機動力を活かすには幅が無く、フェルマールが寄せ手の戦況では縦深防御は意味を成さない。マキアにとってかなり有利に戦いを進められるという訳だ。


 それでもフェルマールに押し切られるのなら、今度は国境線まで下がる。

 ベスタ山脈の最北端に位置する国境線は、フェルマールの騎士団の機動力が全く機能しない場所だから。国境を越えて寄せて来たら山中で迎撃すれば良し、引いたら後ろから攻めかかれば良し。マキアにとっては最悪でも負けない戦争に持ち込める。


 マキアにとって最悪は、ブルックリンで対峙(たいじ)することだったのだ。


「何故ブルックリンでは(まず)いのじゃ?」

「ブルックリンは、フェルマールの騎士団が縦横に活躍出来る広さがある。

 高台を抑えられれば、フェルマールの優位は揺るがない。

 ブルックリンに防衛陣地を構築出来れば、マキアはそれを攻略することはほぼ不可能なんだ」

「じゃが、ブルックリンでフェルマールは負けた」

「あれは完全に、あの雪娘(ゆきんこ)王女の責任。やるべきことをやり、余計なことをしなければ、あの状況でもなお持ち(こた)える余裕があったんだ」


◆◇◆ ◇◆◇


 ルシル王女は、自身に屈辱(くつじょく)的な渾名(あだな)を付けられたことよりも、あの状況で持ち堪えられるという言葉の方に興味を()かれていた。

(2,773文字:2015/12/18初稿 2016/09/30投稿予約 2016/11/12 03:00掲載予定)

・ ちなみに、ここでのアレクの戦評は、「後出しじゃんけん」ともいうべき「後知恵」(終わった後だから言えること)が多分に含まれています。

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