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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第14話 日緋色

第03節 戦後処理〔3/7〕

「親父、いるか~!」


 その掛け声を最後に口にしたのは、もう三年も前になる。

 シェイラの手甲(ハンド)(クロー)を作ったときが最後だ。


 それ以降は店で会うより鍛冶師ギルドで会うことの方が多くなり、くだらない掛け合いをすることもなくなった。


「おう、アレクか。久しぶりだ。随分(ずいぶん)でかくなったようだな」

「……笑顔で返すなよ、気味が悪い。

 今日はシンディさんを、嫁に(もら)いに来た」

「フム。結納(ゆいのう)の代わりと言っては何だが、リリス君を(しばら)くうちで預かりたい。彼女には俺の持つ(わざ)の全てを伝えたい」


「……ちょっと、お父さん! 勝手にあたしの嫁入りを決めないでよ」

「なんだ、アレクは(いや)なのか?」

「そういうことじゃなくて! アレク君も何とか言ってよ」


「いや、にこにこ笑ってる親父が気持ち悪いんだが」

「何を言うか。先の(いくさ)の英雄で、近く叙爵(じょしゃく)される男だ。

 シンディのような色気のない女を貰ってくれるというのなら、これ以上の縁談は無いと思うが?」

「あのな、当然冗談で言ったんだが」

勿論(もちろん)わかっておるわ。だから言質(げんち)を取って既成事実を作ろうとしてたんだ」


「ところで御屋形(おやかた)様よ。(わらわ)はこの店に売られるのかや?」

「いや、そんなことは無いよ。シンディさんの好みもあるしね」

「でも……、アレク君が良いって言うんなら……」

「シンディさん、正気に戻って!」


◇◆◇ ◆◇◆


 さておき!


「頼んでいたモノは、出来ているか?」

「あぁ。ちゃんと(そろ)っているよ。

 だがな、これ程の量の神聖金属を扱ったことはこれまでなかったし、鍛え方も、お前のナイフを鍛えた時とは全然違っていた。良い勉強にはなったと思うが、どうしてこのやり方を以前教えてくれなかったんだ?」

「じゃぁ少し講義しよう。


 刀の製法には色々あって、俺のナイフを鍛えた時の方法を『四方(しほう)(づめ)』、今回の作刀(さくとう)の方法を『(まる)(ぎた)え』(或いは『無垢(むく)鍛え』)っていう。

 実際やってもらったからわかったと思うけど、形を整えるだけなら『丸鍛え』で良い。だが作刀技術や製鉄技術が未熟だと、『丸鍛え』では刀が応力に耐えきれない。

 一方で『四方詰』は、ある程度の製鉄技術があれば実現は難しくないうえ、(はがね)の量を節約出来る」

「製鉄技術、か」

「そうだ。加えて『四方詰』製法だと、大量生産に適している。心金(しんがね)棟金(むねかね)といった部品単位で複数鍛え、あとで合わせて刃金(はのかね)側金(かわかね)(ふさ)いで一体化させれば良いんだからな。

 だが『丸鍛え』だと、製鉄から作刀まで、一つのミスで全てが駄目になる。はっきり言って現在の鍛冶師ギルドの製鉄技術で作った鉄で『丸鍛え』すると、ただ単に(ソード)より細くて(もろ)い刃物にしかならない。

 今回使用した鉄は、神聖鉄(ヒヒイロカネ)。これは魔力金属であると同時に、おそらくは純鉄じゃない。チタン、クロム、マンガン、それから炭素などの合金だ。それも超高度に錬成されたものと同等だと(にら)んでいる。それ自体が硬軟両方の性質があり、それ以上手を加える必要が無いんだ。

 だから、折り返し鍛錬も事実上必要としないんだ」


「よくわかった。俺たち鍛冶師ギルドが目指すべき終着点は、ヒヒイロカネと同等の性質の鉄を作ること、ということだな」

「少し違う。ヒヒイロカネと同質の鉄を作り、それを活用出来る技術を確立することだ」

「そこまで来てようやく入り口か。先は長いな」

「何を当然のことを。あんたたちは入り口を、自力で見つけ出したんだ。前へ進まずにどうするんだ?」


◇◆◇ ◆◇◆


 そして俺は、完成した刀を見せてもらった。

 その(こしら)えは、『鬼丸(おにまる)(ごしらえ)』(『革包(かわづつみ)太刀(たちの)(こしらえ)』)を参考にしたことが一目でわかる。


 鯉口(こいくち)を切り、鍔元(つばもと)を五寸開いてみると、(まさ)()緋色(ヒイロ)(カネ)の名に相応(ふさわ)しく、鮮やかな緋色の刀身が目に()えた。


「この太刀の(めい)は?」

「まだ付けておらん。それは御屋形様の役割じゃからの。

 それとも、『小烏丸』にするかの?」


 日本の皇室御物(ぎょぶつ)である(きっさき)両刃(もろは)(づくり)の太刀の銘は、『小烏丸』である。


「それじゃぁまんまだろ?

 ()緋色(ヒイロ)(カネ)の太刀なんだから、太陽にちなんで、天照(アマテラス)――小烏(こがらす)丸――八咫(ヤタ)(ガラス)――八咫(やた)

 この太刀の銘は、『八咫』だ」

「では小太刀の方は『長鳴(ながなき)』(夜明けを告げる鳥。鶏のこと)としよう。

 シェイラ殿の大脇指(わきざし)は『白鷺(しらさぎ)』、小脇指は『千鳥(ちどり)』、

 妾の薙刀(なぎなた)は『(ぬえ)』、二刀小太刀は『鳴女(なきめ)』(白(きじ))と『鶺鴒(せきれい)』じゃ」

「鳥シリーズだな」

「御屋形様のセンスに合わせての」


「じゃぁさっそく試し斬りをしよう」


 そして、俺たちは店の裏にある練習場へと向かった。

 そこには既に、巻藁(まきわら)が用意されていた。


◇◆◇ ◆◇◆


「そういえばリリスは試し斬りしてみたのか?」

「当然じゃ。妾も刀を手に取るのは初めてじゃからな。一通り試してみた。

 シェイラ殿もじゃ」

「はい。まるで刃が標的(まと)に吸い込まれて行くようでした」


 それは二人の技量が卓越(たくえつ)しているからなのか、それともヒヒイロカネの特性なのか。

 俗に、「日本刀で人を一人斬ると剣道初段の腕前」だというが、それだけ刃筋を立てて刀を振り下ろすことが難しいことを意味している。つまり、今日初めて刀を手にした素人が、いきなり巻藁相手に両断することなどは、常識で考えて不可能である。

 だが、(かたな)を手にするのは初めてでも、(トウ)を振るうことを前提に幼少期より鍛錬を積み、(かたく)なに(ケン)ではなくナイフに(こだわ)り続けていた成果が出る可能性は、(異世界チート補正が掛かる程度には)期待出来るだろう。


 刃を完全に(さや)から抜き放つ。今の俺の体の大きさでは、両手でぎりぎり抜ける長さ。腰に()いたままでは抜けないし、納刀にも苦労しそうだ。

 振り上げる。予想以上に重い。確かに同等サイズの(ソード)よりは軽いだろうが、完全に振り回される。

 (むし)ろ、その重さを支え切れなくなり地面に「落とす」感じで刀が巻藁に向かう。俺はただ刃筋を立てることだけを考え、それ以上の力は入れない。


 そして、シェイラの言葉の通り、(ほとん)ど抵抗感もなく刃は巻藁に飲み込まれ、通過した。寧ろそのまま俺の足を切りそうになったくらい。


「……自分で依頼しておいて、とんでもない武器だな」

「そうみたいね。あたしもリリスさんに手伝ってもらいながら鍛えた武器が、こんな恐ろしいものになるとは思わなかったわ」


「ま、もう少し体が大きくなるまでは、『八咫』は封印して『長鳴』だけを使うことにしよう」

(2,971文字:2015/12/12初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/19 03:00掲載予定)

【注:「あんたたちは入り口を、自力で見つけ出したんだ。前に進まずにどうするんだ?」という台詞は、〔新城カズマ著『狗狼伝承 迷宮戦士・サガ』富士見ファンタジア文庫〕に登場した老数学教師の、「あなたは入り口に、自力で辿り着いたのですぞ。前へ進まずにどうするのですか」という台詞のオマージュです。

 『鬼丸拵』(『革包太刀拵』)については、Wikipedia「太刀」の項(https://ja.wikipedia.org/wiki/太刀)を参照しています】

・ 「八咫鴉」の正体は、太陽黒点です。夕日の中に住まう、黒いカラス。それが天照皇大神の使神(みさきがみ)の正体なのです。

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