第13話 武器を作ろう・4
第03節 戦後処理〔2/7〕
夏の二の月。
戦争が終わり、俺たちハティスから出征した冒険者たちは帰還した。
俺たち冒険者にとって、戦争などはちょっと変わった形の依頼に過ぎない。それが勝ち戦になったことで、報酬に上乗せがあったという程度。
ただ、他のクエストなら場合によっては違約金を払えば破棄することも出来るが、戦争の場合はそれが出来ない。だからこそ、生き残ったことを皆で喜び、騒ぐのだ。
だが、王都のようにそれを何日も続けたりはしない。一晩飲んで騒いで、翌日にはもう、日常に戻る。
とはいえ、それだけでは終わらない場合もあるのだが。
◇◆◇ ◆◇◆
「アレク、喜べ。昇格だ」
「は?」
「お前は今日から、金札冒険者、という訳だ」
「はぁ?」
冒険者ギルドに顔を出したら、いきなりカウンターからギルマスの胴間声が響いた。そして(多分ワザと)他の冒険者に聞こえるように、俺が金札冒険者になったと告げたのだった。
「マジかよ」
「あの歳でか?」
「いや、当然だろう。知ってるか? あいつ、敵将と一騎打ちまでして味方の退路を確保したんだってよ」
「おい、それが本当なら何で生きてんだ?」
「だからランクアップなんだろう? 実力ある冒険者がいる街は平和だっていうからな」
「……、ったく。敢えて騒ぎを起こすなよ」
「まあまあ、良いじゃねぇか。
国の方もお前の活躍は無視出来ねぇだろう。騎士爵への叙爵も検討されているって話だぜ?」
「うゎ、いらね」
「そう言うと思ったが、騎士爵なら受け取っておけ。領地持ちになると面倒も増えるが、騎士爵ならただ戦働きが求められるだけの、名誉爵位だ。うちの町長の準男爵より格は上なんだぜ。
それに、王家にも面目がある。黄金拍車一つで守れるメンツなら、黙って貰っておくのが男だろ?」
「だが、ギルマスは知っているだろう? 俺の素性を」
「だからこそ、だよ。生まれや家を讃える訳にはいかないから、お前個人を賞するんだ」
「成程。そういうことなら確かに、貰っておいた方が面倒が少ないな」
「……そういう理由で爵位を賜るのは、お前くらいだろうな」
◇◆◇ ◆◇◆
さておき。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
「今日か? 【リックの武具店】に行くつもりだ。出征前に注文を出しておいたんだ」
「今度は何を作ったんだ?」
「剣だよ。そろそろ俺も、専用の剣を持っても良い頃合いだと思ってね」
「まだまだチビだがな」
「うるせ」
◆◇◆ ◇◆◇
それはまだ、アレクが出征する前。
スイザリアから帰って来た、その日のこと。
「シンディさん、お久しぶりです」
「アレク君、本当に帰って来てたのね!」
ハティスに作られた公衆浴場の休憩室で、アレクはシンディと再会していた。
「にしても公衆浴場を作ってしまうなんて、シンディさんは本当に風呂が好きなんですね」
「そうね。こんなに気持ち良いモノをこれまで知らなかったなんて、人生の半分を損していたようなものだわ。
だからこの快感を、一人でも多くの街の人と共有したいと思ったのよ」
「立派です、シンディさん。
でも、本業の方は良いんですか?」
「今は戦時体制で、戦争の為に全生産力をそちらに注力することになっているからね。
あたしの仕事は基本的に特定個人仕様だから、こうなると仕事が無いのよ」
「なら、出征後なら注文を請けられますか?」
「え?」
「ちょっと注文したいものがあるんですが、どちらにしても今回の戦争には間に合いそうにないんで」
「アレク君も、出征するの?」
「はい、その予定です」
「そう。でも材料となる鉄が足りるかどうか……」
「そのあたりは大丈夫です。持込みですから」
「あはっ。流石規格外」
「じゃぁ明日にでも、お店の方に行きますね」
「建前上、今は休業中だから、裏の工房に直接来て」
「はい、わかりました」
◆◇◆ ◇◆◇
翌日、アレクはリリスを伴ってシンディの工房を訪ねた。
「まず紹介させてください。
彼女はリリス。俺の新しい家族です」
「はじめましてよの、シンディとやら。噂は以前から聞いておる。
リリスという。宜しく頼もうぞ」
「はじめまして、リリスさん。こちらこそ宜しくね」
「それで、作ってもらいたいモノは、太刀一振り、小太刀一振り、大脇指一振り、小脇指一振り」
「ちょ、ちょっと待って。それは一体――」
「ごめん、取り敢えず聞いて。わからなくて良いから。
太刀は長さ二尺六寸(78.78cm)の鋒両刃造。
小太刀は長さ二尺(60.6cm)。
大脇指は長さ二尺の打刀。
小脇指は長さ一尺二寸(36.36cm)。
全て単一合金鋼構造の丸鍛え」
「だから待ってってば! わからないモノを言われてもわからないわよ!」
「うん、だからリリスに同席してもらっているんだ。
リリス、わかったか?」
「大体な。大小は御屋形様が腰に佩くのじゃな?」
「あぁ。脇指はシェイラ用だ」
「ずるいの。妾にはないのか?」
「……、じゃぁ太刀造の薙刀なんかは如何だ? それに小太刀を佩いて」
「刀身二尺の静型、柄は四尺四寸(133.32cm)。
小太刀は一尺八寸(54.54cm)で直刀造じゃ」
「それで良い。何なら小太刀は二本作ってもらうか?」
「確かに小太刀二刀は漢の浪漫じゃな」
「お前は漢じゃないだろう?」
ともかく。
「このリリスは、とある理由で俺の記憶を丸々写して自分のモノとしているんだ」
「え? それは魔法?」
「そうじゃの」
「そんな魔法、聞いたことない」
「まぁそんな訳で、俺の持つ知識は全て、リリスも持っている。
だからリリス、シンディさんに全面的に協力して、良い刀を作ってほしい。
素材は、『ベスタ大迷宮』で採取した神聖鉄と『鬼の迷宮』で採取した神聖金剛石、それから重量調整用に神聖金を使ってくれ」
「……ヒヒイロカネにアダマンタイト、それにオリハルコン? どこの国の国宝級武器を打てって?」
「俺たちの日用品。もしヒヒイロカネが余ったら、シェイラ用の包丁を何振りか作っておいてほしい」
「もうどうでも良いわ」
◆◇◆ ◇◆◇
アレク(とその知識を転写したリリス)は、知識があっても技術は無い。
シンディは、知識は無いが現場の技術がある。
そしてアレクは、工芸や芸術のセンスも無い。
だから、アレクの知識を持つリリスとシンディが二人一組で作業をすれば、シンディはリアルタイムでリリスから助言を得られるし、リリスはシンディの現場の技術を学習出来る。
だからアレクは、それを目論んだのである。
(2,555文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2015/12/11初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/17 03:00掲載 2021/01/23衍字修正)
【注:「黄金拍車」とは、(昭和末期に出版された同名の未完のライトノベル作品のことではなく)中世の騎士が叙任式のときに君主から受け取る物の一つであり、逆に騎士階級にない者が純金製の拍車を付けることは禁止されていました。その為、「黄金拍車」(または「金拍車」)は騎士の象徴とまで謂われるようになったのです。
日本刀の長さと種類は公益財団法人日本美術刀剣保存協会様のHP内コンテンツ「刀剣の種類」(http://touken.or.jp/syurui/)を、構造はT.Ohmura様のHP「日本刀の研究(鋼材・構造・性能)」内コンテンツ「日本刀の刀身構造」(http://ohmura-study.net/008.html)を、薙刀についてはWikipedia「薙刀」の項(https://ja.wikipedia.org/wiki/薙刀)を、それぞれ参照しています。なお薙刀の「静型」とは刀身の反りの小さい物を指し(静御前に由来)、反りの大きい物は「巴型」(巴御前に由来)というのだそうです。
寸法は、一尺=30.3cm、一寸=3.03cmで計算しています。
ちなみに、ここでは「小太刀」と「脇指」を別物として表現しておりますが、実際は明確な区分はありません。ただ二本佩きの際の見栄えを考えて、太刀造を「小太刀」、打刀造を「脇指」としています。
「小太刀二刀」は、〔和月信宏著『るろうに剣心』集英社少年ジャンプコミックス〕の登場人物・四乃森蒼紫の業が有名ですが、この場合〔ivory製作18禁PCゲーム『とらいあんぐるハート3 ~Sweet Songs Forever~』〕の主人公・高町恭也の業が原典です】




