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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第06話 初陣

第02節 カンタレラ戦争〔2/7〕

 正直に言えば。マキア王国軍を壊滅させること自体は、それほど難しくない。

 本隊を探し出し、そこに〔星落し(スターフォール)〕を撃ち込めばそれで終わる。


 だが、もしそれを行ったとして、それで戦争が終わるか。

 答えは(いな)である。


 おそらくそれはマキア王国軍を攻撃したものとは見られず、ただ単に得体の知れない魔物がその腕を振り下ろした結果、そこにいたのがマキア王国軍だったと認識されるだけだろう。

 それがとある(・・・)魔術師の行使した神話級魔法だというのなら、その魔術師はフェルマール・マキア両国(のみならず既知の全ての国家)から脅威(きょうい)看做(みな)されることになる。リリス(ショゴス)を戦場に出さないのも、同じ理由なのだ。


 英雄的行為とは、顔も名前も知られていない者が行うものではない。

 何故なら、素性の知れぬ者がそれを行えば、その力が次は自分に向けられるかも知れない、と誰もが思うから。

 「仮面の英雄」「無名の英雄」などが持て(はや)されるのは、ラノベかアニメの中だけなのだ。


 俺が例えば王族の一員だというのであれば、王国に(そむ)くことはないと信じてもらえるだろう(それでも王子や公爵が敵軍を招き入れる(など)という話は別に珍しくもない)。だが、たかが伯爵家のそれも庶子(しょし)ともなれば、いつ国に(あだ)()すかわからない(実際に俺には愛国心などは無いのだから)。

 だから、俺が〔星落し〕を行ったとして、それが周囲に知られたら、おそらくはフェルマールの貴族から命を狙われることになる。「個人の力で戦争を終わらせるべきではない」。これは綺麗事の話ではなく、ただ純然たる事実に過ぎないのだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 春の三の月の晦日(まつじつ)。薄曇り。

 ブルックリンの町から東に(はず)れた丘陵地帯で、ついに両軍は対峙(たいじ)した。


 布陣としては、フェルマール王国軍が丘陵を占拠し中央に王国騎士団、南北に辺境伯領軍。そして丘陵を(なか)ば下った東側に傭兵(ようへい)部隊(傭兵と冒険者の混成部隊)が展開した。

 一方マキア軍は、南方の森を背に丘陵を東側まで囲むように展開している(所謂(いわゆる)鶴翼(かくよく)陣形)。その数、約二万五千。

 想定された数の約半分、ということは、別動隊がいるのか、それとも逐次(ちくじ)投入か。


 マキア王国軍が想定していた町に対する大軍による奇襲は、フェルマール王国がそれを事前に察知していた為既に(くず)れた。そして陣取りという意味ではフェルマールの方が有利な地点で陣を張れた。が、その数の差は二倍強。質の差は更に大きいだろう。


 ところで俺は、今回の戦争を前に一つの魔法を組み立てていた。無属性魔法Lv.4【気流操作】派生06.〔疾風(プロテクション)結界(フロムミサイル)〕。

 この魔法は、攻撃魔法のような無質量攻撃や投石のような大質量攻撃に対しては無力だが、矢のように質量が小さく且つ風の抵抗を受け易い飛び道具から身を守ることが出来る。流れ矢に当たって戦死、など情けない結果を避けられるようにと考えて作ったのである。


◇◆◇ ◆◇◆


 昔語(むかしがた)りにあるような、両軍から代表者が出てきて口上(こうじょう)を述べて、ということはなく、ただお互いの陣地から鏑矢(かぶらや)が打ち上げられた。続いて弓射(きゅうしゃ)戦が始まると同時に、傭兵部隊に突撃命令が下った。


 先日の名も知らない傭兵が語った「走り続けろ」という言葉は、前方の敵からの飛び道具だけでなく、後方の味方が撃つ飛び道具からも身を守る為、という意味があった。傭兵部隊の突撃で敵軍の動きが止まったら、傭兵部隊諸共(もろとも)敵軍を殲滅(せんめつ)出来れば(もう)けもの、と両軍の司令官は本気で考えているのだ。


 傭兵部隊に命じられた突撃先は、当然陣の厚い中央部。具体的には部隊二千で敵一万二千を突破せよ、というのだ!


 そして、接敵(コンタクト)


◇◆◇ ◆◇◆


 気が付いたら、日が暮れて戦闘は中断となった。

 どちらの軍も、相手の布陣を崩すことが出来ず、様子見というのが実情であった。


 俺は、というと、接敵の時に一人斬ったのは覚えている。だが、仕留められたか或いは(かす)り傷だけしか与えられなかったか、確認することは出来なかった。

 そしてその(あと)はもう、文字通り無我夢中。日が暮れてみたら、身体のあちこちに切り傷があったから、俺も何度か斬られたことは間違いないようだ。逆に、何人と剣を交えたか、何人斬り殺したか、そんなことは全く分からない。ただ剣(この(いくさ)ではいつもの戦闘(コンバット)ナイフではなく小剣(ショートソード)を使用している)は(つか)まで血糊(ちのり)()れていたことから、かなりの人数の肉を斬ったのは間違いないようだ。


 あの傭兵は、走り抜けろと言ったけど、いつまで走っても敵陣を抜くことは出来なかった。

 たとえば密林を歩いていると、気付かぬうちに同じ場所をぐるぐる回っていた、という話がある。これは、人間の足の長さ・踏み込む強さが左右で違う為、目標無く歩いていると、真っ直ぐ歩けない為に起こるのだという。

 それと同じで、日が暮れて戦闘が中断すると同時に敵陣を抜けた、と思ったら、目の前に味方の陣があったのだ。丘陵を半ば上っていた、ということさえ自覚していなかったのだった。


 そして元の陣に戻ってみると、俺が籍を間借りしている旅団(パーティ)【暁の成功者】から徴兵されている、リップ(本来は弓使いだが、この戦争では俺と同じく小剣を主武器として参加している)の姿が見えなかった。【暁の成功者】のリーダー・ゲオルグに声をかけたところ、所謂(いわゆる)戦闘中(Missing_)行方不明(In_Action)」、おそらく戦死した、ということらしい。

 他にも、行軍(こうぐん)中に俺に酒をせびってきた冒険者のうち何人かの姿が見えなくなっている。彼らのうち何人が脱走者となり、何人が捕虜(ほりょ)となり(但し冒険者の捕虜に価値は無い為、生存は絶望視される)、何人が戦死したのかはわからない。生きていてほしい。ただ素直にそう思えた。

 その一方で、例の傭兵はなお下品に笑いながら酒を飲んでいた。流石(さすが)に歴戦の勇士だけあり、戦場での生存術に()けているようだ。


 とにかく俺は、身体を休め、翌日の戦いに備えることにした。

(2,649文字:2015/12/09初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/03 03:00掲載予定)

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