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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第四章:「見習い騎士は気象学者!?」
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第03話 嵐を呼ぶ男

第01節 出征〔3/4〕

(わらわ)たちの(けんか)じゃ」


(いや)、リリス。お前の掛け合い(ツッコミ)には感謝するけど、お前も留守番だから」

「何故だ!」

「ショゴスだからさ。

 ……いや、だから、あまりネタに走らないように」


 最後に帳尻を合わせるのは俺なんだから。(いく)ら俺の記憶を丸写し(コピー)したからって、嗜好(しこう)までこちらに合わせる必要はないだろうに。

 というか、ショゴス(リリス)が戦場に出たら、五万が五億でも一瞬だろうに。


「……ともかく。戦場に出るのは俺一人だ。

 そういう訳だから町長、今シェイラが商人ギルドに倉庫を借りに行っている。

 準備が出来たら接収した糧秣(りょうまつ)を収納するから、あとはそちらに任せる」

「わかった。その代金はこちらで持とう。糧秣の代金は輸送料も含めないとな。そして、密偵としての報酬も用意する」

「そんなに大金があっても使い切れないぞ。というか、街の財政は大丈夫なのか?」

「全て戦費(せんぴ)として、領主様に請求するさ」

成程(なるほど)。じゃぁ少し吹っかけても良いな」

「少しなら、な」


 だが町長は気づいていなかった。アルバニーで糧秣を調達した時、『300年の(カンタレラ)』の作戦名(コードネーム)を口にしていた為、戦時徴用として市価の2割程度の代金で決済出来た。だから俺が支払った金額に輸送費を乗せて更にその3倍を請求しても、なお市価(輸送費を乗せない額)より(やす)く済んでいるのだ。

 更にこの軍需(ぐんじゅ)物資の調達が評価され、商人ランクがAに昇格され、為替(かわせ)の決済レートが上がっていた。のちに新たに用意された為替の符牒(ふちょう)を確認したところ、【拾】になっていたのは驚いた。


◇◆◇ ◆◇◆


 町役場を辞し、冒険者ギルドに行くと、そのカウンターに見覚えのある(オードリー)女性(さん)はいなかった。


「こんにちは。登録ですか?」

(いえ)、待ち合わせです。ギルマスはいますか?」

「マスターとお約束ですか?」

「いや、待ち合わせにギルマスの執務室でも使わせてもらえないかと思ってね」

「……流石(さすが)にそれは。失礼ですが、お引き取りを」

「それは残念。ところでオードリーさんは?」

「奥様ともお知り合いですか? 今は産休に入っておりますが」

「それはめでたい。

 まぁともかく、それじゃぁ俺の復帰の手続きをしてもらおうか」

「復帰、ですか?」

「あぁ。名前はアレク、銀札(Bランク)だ。長期依頼(クエスト)に出たのは699年の春の一の月」

「当時の依頼内容を教えてください」

「特秘。済まないがギルドマスターに照会してもらいたい」

「え? ……か、かしこまりました。少々お待ちください」


 考えてみれば、このハティスでは俺の持っている情報や立場なんかが入り組み過ぎて、窓口で対応するのも難しくなってきているんだ。以前はオードリーさんが担当だったから幾らでも対処出来たけど。


 すぐに先程の受付嬢が飛んできた。


「お待たせしました。ご案内致します」

「いや、勝手知ったるなんとやらってね。自分で行けるよ」

「ですが……」

「大丈夫だから」

「かしこまりました」

「あと、俺の連れがあとから来る。シェイラという名の白金の髪の少女だ。

 来たらギルマスの執務室に案内してほしい」

「かしこまりました」


◇◆◇ ◆◇◆


「久しぶりだな、嵐を(ストーム)呼ぶ男(・ブリンガー)

「誰が嵐を呼ぶ男だ! というか訳のわからん二つ名をつけるな」

「お前がいない二年間、この街はとても静かだった。

 いきなり騒がしくなったと思ったら、その元凶はお前が(もたら)した情報だった。

 もしかしたら、お前は疫病(やくびょう)神なんじゃないか?」

「ほう、ご挨拶だな。なら俺は何もしない方がよかったか?」

勿論(もちろん)、冗談だ。

 お前が齎した情報が正しければ――冒険者(オレ)ギルド(たち)や商人ギルドの方でも独自に調査をして裏付けを取っているが、今のところお前の情報を補填(ほてん)するものはあれど否定するものはない――、連中(マキア)は300年前からこの日の為に準備をしていた。お前がいなかったとしても戦争は起こっただろう。そして、お前がいなければ俺たちは()(すべ)もなかっただろう」

「そう言ってくれると(なぐさ)めになるな」


「さて、与太(よた)話をしに来た訳じゃないんだろう? 話を聞こうか」

「実を言うと、与太話をしに来たんだ」

「……何だと?」

「もっと具体的に言うと、シェイラとの待ち合わせ場所に使わせてもらってる」

をい(おい)

「いやマジで。糧秣は二万五千人の3ヶ月分を既に手配済みだし、うちの氏族から徴兵されるのは俺一人ということで町長と話が付いたし、それから――」

「待て待て待て待て! 何だそれは?

 二万五千人分? どっから持ってきた、そんな物!」

「スイザリアがマキアの後詰(ごづめ)の為に用意した物資をちょろまかした。これで向こうも長期戦が難しくなったうえ、こちらは徴用で市民生活に影響を与えずに済んだ訳だ」

「あっさり言ってくれるが、自分がどれだけのことをしたのかわかっているのか?」

旅団(パーティ)一つにつき最低2人の徴兵枠を、氏族(クラン)Children(セラ) of() Seraph(こどもたち)】全体で俺一人とごり押しするに(あたい)する程度の戦果だとは思っているよ」

「その程度で済むか! もしかしたらこれが戦況を左右することになるかもしれないんだぞ」

「多分それはない。

 この季節じゃぁ防御陣地を構築することは出来ないから、あとは布陣と地形をどう活かすかで戦況は左右される。

 だが向こうは最大五万、こちらは領軍六千と国軍騎士団四千、それに冒険者や傭兵(ようへい)を加えても三千(そろ)えられれば上出来だろう。つまり布陣を云々(うんぬん)出来るほどの戦力はこちらにはない。

 初めから短期決戦以外での勝ちはないってことだ」

「……絶望的だな」

「だから、俺の女たちを戦場に出したくない。弟たちもな」

「よくわかった。それでもそれだけの備蓄があるのとないのとでは、士気が違う。特例を認めるさ」

「感謝する」

()めろ。戦後この国の全ての(たみ)から感謝を(ささ)げられるであろう未来の英雄に感謝されるのは面映(おもは)ゆい。


 それより、そろそろそちらの御婦人を紹介してくれないか?」

「あぁ、だがその前に、秘密を厳守してもらうぞ?」

「当然だろう? 冒険者の秘密をそうそう()らしていては、ギルドマスターが務まるか」

「まぁそうだな。じゃ、紹介する。

 彼女はリリス。『ベスタ大迷宮』の、ダンジョンマスターだ」

「な!」

「色々と人間社会を知りたいというから連れてきた。はっきり言えば、彼女一人いれば五万の軍など呼吸するより簡単に皆殺しに出来るけど、彼女を人間同士の(いさか)いに介入させるつもりはない」

「……そうしてくれると有り難いな。聞かなきゃよかった」

「そういう訳で、ただの連れだ。冒険者登録させるつもりもない」

「よくわかった」


 それから先は、シェイラが来るまでまったりと、文字通り与太話を続けるのだった。


(2,934文字⇒2,611文字:2015/12/08初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/27 03:00掲載 2022/05/29誤字指摘に伴いスペースの位置を修正)

【注:「何故だ!」「ショゴスだからさ」の掛け合いは、〔富野喜幸原作テレビアニメ『機動戦士ガンダム』〕の、ギレンの演説「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだ?」に対するシャアの独白「坊やだからさ」のオマージュです。ですがリリスさん、この章の前半はガチで戦争なんで、あまりオタネタに走られると原典掲記が大変……ぢゃなく、緊張感を維持するのが大変なんですが】

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