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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第39話 六ヶ月

第08節 軍靴の音が聞こえる〔2/5〕

 コールの町は、(フェルマールのリュースデイルと同じく)国境の町である。

 この町に着いた俺たちは、まずは商人ギルドを(たず)ねた。


「こんにちは、ちょっと良いですか?」

「なんだね、少年?」

「この為替(かわせ)、決済出来ます?」

「確認させていただこう」


 持ち込んだ為替は、『ベスタ大迷宮』の中で冒険者たちから受け取ったモノである。

 彼らは、偽造(ぎぞう)の為替も用意していた。それはつまり、通用する相手には偽造の為替で(だま)し取る算段(さんだん)を以前からしていたことになる。

 これが普通の商人であれば、そんなことをすれば信用問題に直結するが、彼らの本業は冒険者である。商人としての信用を失ったからといって何ら困ることは無いのだ。


「お待たせしました。申し訳ありませんが、向こうの部屋でお話をさせていただけませんか?」

「構いませんが、うちの使用人(スタッフ)も同席して構いませんか? 二人とも、この為替を入手した時の状況を理解しております」

「……どうやら問題をご理解していらっしゃるようで、助かります。どうぞ皆さんご一緒に」


 そして通された小部屋。そこにはこのギルドの幹部らしき男たちが並んでいた。


「まず単刀直入に、結論から言わせてもらいましょう。

 この為替が指定する口座は、現在凍結処理されています」


 やっぱり、か。


「そこで、この為替をどのように入手したのか教えてもらえますか?」

「これは、とある冒険者に情報を提供した際に対価として受け取ったモノです。

 情報の裏付けになるものを持っていなかったのですが、こちらの事情で()えて吹っ掛けた金額を提示したところ、向こうはその金額で為替を切る、と言いました。

 ところが、その時用意した為替は、全くの偽物でした」

「何故偽物とわかったのです?」

「申し遅れました。私フェルマールのハティスに籍を置く商会【セラの孤児院】の出資者兼役員のアレクと申します。商会で扱う衣服の商談の為、スイザリアのモビレアに来ていました。諸々(もろもろ)の事情が重なって、現在はここにいますが。

 当商会でも、為替は扱わせていただいております。そして為替には(いく)つかの偽造防止の符牒(ふちょう)等が仕込まれていることに気付いております。

 例えば、その紙片そのもの。これは三枚の薄い紙を重ねており、真ん中の紙に一定のパターンで穴を開けることで、光に()かすと模様になって表れる。

 或いは、右下には模様に隠れて大まかな決済限度額を示す紋様(もんよう)が描かれている。

 他にも、これが偽造防止の符牒だろうと想像出来る仕掛けを、幾つか見つけていました。

 ともかく、その時提示された為替と称する紙片には、そういった符牒の一切がありませんでした。おそらく彼らは知らなかったんでしょうね。

 ですからそれを指摘し、偽造為替を使用する危険を教えたうえで、真正の為替を切らせました。その際、要求額を1,500C(カーン)に値上げしました。それは、その真正の為替に記された決済限度額が大凡(おおよそ)3,000Cとされていたからです。

 わざわざ偽造為替を用意していることと、高額額面の為替を躊躇(ためら)いなく切れること。この二つから、今は大丈夫でも遠からずこの為替が使えなくなる。そう考えて早いうちに決済する必要を感じ、こちらに持ち込んだ次第です」


「よくわかりました。こちらで把握している事情と矛盾がありません。

 【セラの孤児院】のアレク殿。貴方は正規の手段でこの為替を入手されたと判断致し、決済を認めます」

「え? でも口座は凍結されているのでしょう?」

「はいそうです。貴方が考えている通り、それは『ベスタ大迷宮』の攻略を専門にしている氏族(クラン)の商業部門に発行した為替ですが、どうやら最近攻略が行き詰っているようで、資金難に(おちい)ってしまったようなのです。それで資金を工面(くめん)する為に偽造為替の使用や決済限度額を超えた額面の為替の発行を濫発(らんぱつ)していたことが発覚しました。商人ギルドでは口座を凍結させたうえで冒険者ギルドにも連絡し、差し押さえの手続きに入っているところです」

「でしたら、この為替は無効になるのでは?」

「為替の信用は、商人ギルドが担保(たんぽ)しております。受け取った為替を商人が換金出来ないのでは、どの商人も為替を使うことは出来なくなります。

 その代わり、といっては何ですが、現金での決済は出来ません」

成程(なるほど)。口座振り込みの形にすれば、事実上数字の書き換えだけで済む訳ですね。あとは私がその金額を引き出すまでに、現金を金庫に補填(ほてん)しておけば良いだけのことで」

「おっしゃる通りです」

「わかりました。それで結構です。


 あと、ついでと言っては何ですが、馬を二頭購入したいのですが」


◇◆◇ ◆◇◆


 ちょっと指折り数えてみた。


 『ベスタ大迷宮』に入ったのが、春の二の月の終わり頃。

 3日目に、左に折れて地底湖に飛び込んだ。

 4日目に、金銀鉱床で採掘作業に精を出した。

 12日目に、冒険者たちと遭遇し、その護衛を買って出た。

 15日目に、彼らの補給(ベース)基地(キャンプ)に到着した。

 21日目に、横道探しと岩盤内調査を始めた。

 30日目に、水棲竜(ヒュドラ)との死闘を制した。

 31日目は完全休養日とし、32日目に探索を再開した。

 36日目に、スライムロードと戦った。

 そしてリリスと出逢(であ)ったのは、41日目。それが昨日。


 だから今は、夏の一の月の下旬、の(はず)

 なのに、商人ギルドで日付を確認したところ、今は秋の三の月もそろそろ終わろうかという頃、であった。


「いつの間にか、月が6回(ろっかげつ)()っているなんて……」

「うん? シェイラに御屋形(おやかた)様は、何を悩んでいるのじゃ?」

「いや、俺たちは『大迷宮』に40日程しかいなかった筈なのに、地上では既に6ヶ月経過していたんだ。だから何故かなって」

「そのことかの。あそこは時間も空間も(ゆが)んでおる。中で1年過ごしても外では3日しか経っていないこともあるし、中で10日程しか過ごしていないのに外では5年経過していたり、の」

「それってもしかしたら……」

(わらわ)が迷宮内の空間を繋ぐからその反動、かの?」

「……今後、迷宮の空間を繋ぐの、禁止な」

「わかったのじゃ。以後気を付けることにしよう」


◇◆◇ ◆◇◆


「ところで、何でか知らないが馬が異様に値上がりしていた。

 聞いてみたら、身元を隠した貴族が買い占めているんだそうだ。

 何か、キナ臭いことになるかもしれないな」

(2,694文字:2015/12/06初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/13 03:00掲載予定)

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