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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第38話 地上

第08節 軍靴の音が聞こえる〔1/5〕

「それを(もっ)(わらわ)の望みとしようぞ!」


 ショゴスの女王リリスがそう宣言した途端(とたん)、周囲の風景が切り替わった。

 そこは暖かい日差しが降り注ぐ、森の端の草原。

 遠くに海が見えるということは、ここはおそらくベスタ山脈の西側、マキア王国の領内ということになろう。


「え? え? え?」


 シェイラも混乱している。当然だ。空間転移など、聞いたこともない。


「リリス様、これは貴女のお力ですか?」

「妾は其方(そなた)について行くと決めた。ならばそのような言葉(づか)いはよせ。

 そうじゃの、妾もシェイラと同様の立場として通せば良い」

「ショゴスの女王を、奴隷として扱えと?」

「これまで多くの者たちが夢見て、(かな)わなかったことが叶うのじゃ。(よろこ)ぶべきであろう?」

「嬉しくありませんよ。抑々(そもそも)、シェイラだって立場上奴隷とせざるを得ないからそうしているんであって、出来ればその奴隷の首輪は外したくてしょうがないんですから」


「私はこの首輪は、ご主人様との(つな)がりを感じられて幸せですが」

「いや、だから!」

「そういうことじゃ。実際妾に対し奴隷契約を(ほどこ)せる者など居ようはずがない。

 なら形式上の話なのじゃから、どうでも良かろう。

 それに、どうしてもというのなら、シェイラの首輪も外してやることも出来るぞ」

「必要ありません。私はこの首輪をしていることが嬉しく誇らしいのですから」

「そう言うと思うたから、(たず)ねたまでじゃ」


「わかりました。ですが、ご主人様の奴隷として振る舞うのなら、相応(そうおう)の言葉遣いというモノがあるのではないでしょうか?」

「……確かに、そうじゃな。では丁寧な言葉遣いを心がけるとしようか」

「リリス。これからはそう呼ぶよ。

 リリス。キミの言葉遣いはそれで良い。その方がキミらしいし」

「そうか」

「でも、それならせめてご主人様への呼び方だけは変えた方が良いです。

 奴隷がその主人に対して『そなた』と呼ぶのは、あまりにおかし過ぎます」

「確かにそうじゃの。では……。

 これからは『御屋形(おやかた)様』と呼ぶようにしようかの」

「それで宜しいと思います。ご主人様もそれで宜しいですね?」

「元ネタが気になるけど、まぁ良いんじゃないか?」

「ではリリスさん、これから宜しくお願いしますね」

「こちらこそ、宜しく頼むの、先輩」

「はい!」


「で、リリス。まだ質問に答えてもらっていないんだが」

「空間転移など大したこともあるまい? 妾は星の海を渡れるのじゃぞ?」

「確かに。」

「なんじゃ、その力が欲しいのか?」

「欲しくないと言えば(うそ)になるけど、その力が実在するとわかった以上、自力で解明して自分で使えるように模索(もさく)するよ。その方が楽しいし」

「そうじゃな、其方、ではなく御屋形様はそういう男の子(おのこ)じゃったな。


 そもそも魔法とは、人の意思が妾の身体の欠片(かけら)――それも目に見えない微細なモノ――に干渉して世界を動かす力じゃからの。妾が出来る事で、魔法で出来ないことなぞ理論上ありえぬ」


 ……流石(さすが)に、この台詞(せりふ)は想定外だった。魔力粒子がショゴスの体細胞、だとするのなら、リリスがこの世界に降り立ったことがこの世界の本当の意味での始まり、ということになる。


「つまり、リリスさんは女神様、ということですか?」

「女神というより邪神じゃろ? のぉ御屋形様よ」

「それこそ神話の中では邪神に匹敵する存在だけど、この世界では事実上リリスが創造神といって間違いはないと思うよ?」

「このように、何も知らず何も出来ない小物が、か?」

「本当の意味での神ではないよ。だけど、今のこの世界を形作(かたちづく)ったのはリリスの力だ。その意味では創造神だろう。


 もっとも、(あが)めるつもりはないけれど」

「それは嬉しいが、何故?」

「人は弱いからね。神に(すが)るのは、助けてほしいからだ。神を崇めるのは、万一の時に奇跡を起こしてほしいからだ。だから俺は、リリスを崇めない。

 リリスの力を期待しない。リリスの力を利用しようと思わない。

 ただ俺の新たな家族として、俺の(そば)にいてくれればそれで良い」


◇◆◇ ◆◇◆


 それはそうと。現在位置がベスタ山脈の西側で、マキア領内であるのなら。


「……完全に、不法入国だね」

「何か問題が?」

「正規の手続きを経ずに、マキア王国に入ってきてしまっている。

 マキアとフェルマールは友好国だから、問答無用で処刑、なんてことにはならないだろうけど、身元確認とか入国ルートの特定とか、入国目的とかで面倒臭い取り調べの対象になるだろうな」

「では山脈の東側まで転移しようかの?」

「それはとても有り難いことだけど、でも遠慮しておくよ。ついさっきリリスの力に頼らないと言ったばかりだしね」

「そう、か」

「リリスも。今後は出来る限りショゴスの力を使わないでほしいな。

 そこらの人間がリリスを傷付けることが出来るとは思えないけど、それでも万一の時は人間が出来る範囲での行動をしてほしい」

「その方が、人間を良く理解出来る、か。あいわかった。そうするとしよう」

「じゃぁまずは、山を越えよう。人の通る道を探したいけど、まずは国境を越えてからだ」


 この辺りでなら、方角を見誤る可能性は少ない。()()えず山頂を目指せば、そちらは西なのだから。

 それに加えて俺たちの能力的な問題もある。

 普通、道無き山道を歩くのは自殺行為だ。(やぶ)(しげ)り、虫や獣がいて、魔物もいる。(がけ)があり、岩肌があり、谷がある。

 けど、場合によっては〔空間(エアロ・)機動(マニューバ)〕で全てを飛び越えられるのだから。


 現在の俺たちが〔空間機動〕で飛べる距離は、数km(キロ)の単位にまで伸びている。

 考えてみれば当然だ。魔力粒子がショゴスの微細胞であるのなら、リリスの(かたわ)らは最も魔力の濃度が濃い。つまり、効力も効率も、以前とは比較にならないくらい高まっているのである。「頼らない」と(ちか)いはしたが、その恩恵(おんけい)までも否定出来るほど、俺は無欲(ストイック)にはなれない。


 普通に歩けば(道があっても)三日はかかる山頂までの行程(こうてい)を、日が暮れる前にクリアしてスイザリア領内に入ることが出来た。

 そして山中で一泊した後、翌日には街道に出て、コールの町に到着した。

(2,626文字:2015/12/06初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/11 03:00掲載予定)

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