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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第37話 問答

第07節 未知なるベスタを迷宮に求めて(後編)〔7/7〕

「それで、何から聞きたい?」


 ショゴスの女王リリスを招き、ちょっとした茶席を用意した。

 ショゴスに嗜好(しこう)は無く、何でも食べることが出来るから、逆に外見に合わせて紅茶とドライフルーツの盛り合わせで饗応(きょうおう)したのだ。


「まずは貴女のことを。どこから来て、何故ここに居を構えたのか。これからどこに向かうのか」

「フム、初対面の女のことを知りたがるのは、()の世界では失礼に当たるのではないか?」

「多分、()の世界でも失礼に当たると思います。けど、先程精神を触れ合わせ、俺の心は既に丸裸です。ここで形の上だけ礼儀を保っても、何ら意味はないでしょう」

「ではその言葉(づか)いは?」

「礼儀というか、(たしな)みです。貴女は王で、女性です。相応(そうおう)の言葉遣いというモノがあるでしょう」

「まぁ良い。(わらわ)其方(そなた)と語る為に、この姿を取っているのだからな。


 妾がこの星に降り立ったのは、何十万年前のことになろうか」

「あ、随分(ずいぶん)最近なんですね」

「神話と一緒にするでない。抑々(そもそも)この星の歴史を考えれば、一万年も一億年も、大差なかろう」

「確かに。」


「妾がこの星に来た時、この世界の人間たちは、まだようやく火を扱えるようになった程度だったな」

「旧石器時代、ですね」

(しばら)く観察しているうちに、不思議なことが起こった。

 ただでさえ人間たちは弱い。力を合わせなければ他の動物たちには勝てないだろう。

 だから協力する。それは良くわかる。

 そして数を増やす為に、戦う力のない雌性体(メス)を保護するのも、良くわかる。

 だが、力無き者、手足を失った者、知性に欠ける者、年老いて戦えなくなった者、そういった者達さえ人間たちは守ろうとしていた。

 何故か。それを知りたく、この地に居を構えた。

 弱き者たちを招き入れ、その庇護(ひご)者となった。

 それがここ、人間たちが『ベスタ大迷宮』と呼ぶ場所じゃ。


 じゃが、それでもやはり、答えは出ない。

 弱き者が殺される。これは普通のことじゃ。しかし、人間たちは、弱き者は守られる権利があるという。なら強き者は、弱き者の奴隷なのかや?」


「“つよさ”、というのは一つじゃありません。戦う力、智慧(ちえ)、生活を豊かにする技術、人を(いや)す優しさ、人の心を揺さぶり感動させる芸術、そのどれも“つよさ”です。

 戦う力だけが価値ある“つよさ”なら、それを失った者や初めから持たない者は不要でしょう。だけど、それ以外の“つよさ”にも価値を置くから、そういった人たちを戦う力、暴力から守る為に、法や秩序が必要なのです。

 けど、法も秩序も、強き者が弱き者を守ることを当然とする為にあるものではありません。戦う力が弱い者が、それ以外の力を()かす為にあるものです。


 前世の日本(せかい)には、『基本的人権』といって、生まれて来ただけで最低限保証される権利があり、それを守る為に国家と法があるんだと()いますが、俺はそれを間違いだと思います。それ以前に、この世界ではそれを主張する余裕はないでしょうが」

「では何故()の世界では、『基本的人権』などがある?」

「それは、人間、というか国民を信じているからです」

「信じる?」

「はい。もし全ての民が、『基本的人権』を主張して無条件の庇護を求めたら、国は動きません。日本は民主主義国家で、国を動かす政治家もまた民であるからです。(いえ)、政治家以外の全ての民がそうしても、やはり国は破綻(はたん)するでしょう。

 けど、前世で人は、基本的に人を信じます。皆が皆、自分の“つよさ”を活かす為に何らかの主体的な行動をとる、と。勿論(もちろん)、裏切られることもあるでしょう。怠けて何もしようとしない者もいるでしょう。

 でも、大半の人は、行動出来るんです。だから、国が破綻せずに済むのです」


成程(なるほど)。だが其方は先程『この世界ではそれを主張する余裕はない』といっていたな?」

「はい。この世界では、民の教育が不十分です。だから民は、自分自身は何が出来るのか、それを考えることさえ出来ないんです。ただ剣を振り戦う力は誰の目から見ても良くわかります。

 だから、王が民を隷属(れいぞく)させ、また戦う力のある者を兵に取り立て、その者たちを使って王が国を守る、という契約が成立するのです。その契約が真っ当に履行(りこう)されているかどうかはまた別の話ですが」

「この世界は未熟、ということか。ではあとどれくらい待てば、其方の言う『自分の“つよさ”を活かす為に何らかの主体的な行動を』()れるようになると思う?」

「それは不明です。普通に考えれば、あと数百年はかかるでしょう。それが少しでも早まれば、とも思いますが」


「じゃが其方の記憶を見てみると、彼の世界もまた、平和でも幸せでもないように思えるが?」

「それは俺の前世の記憶を通して見る風景ですよね。けどそれは個々人の選択の結果です。勿論(もちろん)、そのような選択の余地も無く不幸になる子供がいることも事実ですが、所謂(いわゆる)先進国では、(みずか)ら選んで幸福になる為の努力をすることが出来ます。(むし)ろ努力をしない(・・・)自由を選んだ結果、不幸になる人間が多いのではないでしょうか」

「不幸になるのは、不幸になった本人が悪い、と?」

「失礼。表現を間違えました。この場合の“幸福”とは、他人が()(はか)るものではありません。抑々(そもそも)“境遇”と“幸福”に因果関係はありません。豊かな境遇の中にあって不幸になる人もいますし、逆に豊かな人が(あわ)れむような境遇であっても幸福に生きることが出来る人もいます。

 そして、何を(もっ)て“幸福”と看做(みな)すか、それは人それぞれですが、“不幸”を定義することは簡単です。“幸福”に背を向けることが“不幸”なのですから」

「だが、自分が“幸福”を得た結果で、他人を“不幸”にすることもあるのではないか?」

「繰り返しますが、“幸福”の定義は人それぞれです。が、他人が“不幸”になり、それが俺の()したこと(ゆえ)(うら)まれたら、俺にとってそれは“幸福”とは言い難いです。なら最初の時点で、それが出来れば“幸福”になれる、と考えたこと自体が間違いだったということでしょう」


「今の其方の“幸福”は?」

「シェイラがいて、自分の求める知識に触れることが出来る、今この瞬間ですね」

「では“不幸”は?」

「その幸せの貴重さを忘れ、シェイラに見限られることでしょうか」


「……ご主人様……」


「面白い。面白いぞ、人間よ。

 妾がこれからどこへ行くのか。そう問うたな。見つけたぞ。答えよう。

 其方、アレクよ。妾は其方とともに行こう。其方が見るモノを妾にも見せよ。其方が知りたいと思うものを妾にも教えよ。


 それを以て今の妾の望みとしようぞ」

(2,842文字:2015/12/06初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/09 03:00掲載予定)

・ “つよい”という意味の漢字は、「強い」「毅い」「剛い」「剄い」など色々あり、そのそれぞれ厳密な意味は違います(現在その多くは常用漢字から外され、人名漢字に名残を残すのみですが)。少なくとも日本語に於いて、“つよさ”は一種類じゃないんです。

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