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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第36話 接触

第07節 未知なるベスタを迷宮に求めて(後編)〔6/7〕

注:この作品はホラーではありません

☆★☆ ★☆★


 ショゴス。

 前世地球の創作神話である『クトゥルフ神話』に出てくる、不定形の粘体状の身体を持つ古の(エルダー)もの(シング)の奉仕種族であるとされる。南極に()み、「テケリ・リ、テケリ・リ」という独特の鳴き声を上げる。

 H.(ハワード)P.(フィリップス)ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』では主人である(いにしえ)のものに反逆し、彼らに壊滅的損害を与えたとも()われる。


 もともとクトゥルフ神話は創作(フィクション)だ。が、高度な霊感を持つH.P.ラヴクラフトらが別次元の真実を物語として記した、という説もあるのだ。

 とはいえラヴクラフトは20世紀初頭のアメリカ人であり、基本的に有色人種(カラード)異教徒(ヒデン)邪悪(イービル)看做(みな)す傾向があり、仮にラヴクラフトの宇宙神話が真実であったとしても、その記述そのものを鵜呑(うの)みにすることは危険であるとも謂われている。


★☆★ ☆★☆


 ショゴスが「テケリ・リ、テケリ・リ」と鳴くのは、(オタクの)(せかい)では有名な話。

 そしてこの『ベスタ大迷宮』がスライムダンジョンであるのなら、そこにいても不思議ではない。

 どちらにしても、それがショゴスであるのなら、どんな奇跡が起きても勝てる相手ではない。なら、戦いを挑むこと自体が無駄である。


 勿論(もちろん)、相手が神話に語られるショゴスと同じものかどうかは不明だし、抑々(そもそも)ショゴスだということ自体俺の勘違いの可能性もある。だが、ここまで来たら今更同じだろう。そもそも俺は、この迷宮(ダンジョン)のマスターと会話をしに来たのだから。


◇◆◇ ◆◇◆


《テケリ・リ、テケリ・リ》


 そこにいたのは、巨大な不定形。発声器官があるかどうかさえ不明だが、どこかから既にお馴染(なじみ)となった声がする。

 だがショゴスの身は文字通り万能であり、その細胞は神の身体を(おぎな)うことさえ出来るとされる。(Elder)(Thing)の要望に応える為に(みずか)ら脳を作った彼女らが、発声器官を作ることなど、文字通り朝飯前だろう。


「ショゴス。勝手にそう呼ばせていただくが、貴女と話がしたい」


 ショゴスを「女性」と(とら)えるのは、前世日本のオタク作品の影響が大である。


「ショゴス。答えてほしい。(そも)、貴女自身の名があるのなら、それを教えてくれると有り難い」


 すると、ショゴスから粘体状の触手が、俺の身体に向かって伸びてきた。


「ご主人様!」

「良いから手を出すな。大丈夫だから」


 大丈夫かどうかは、何処(どこ)にも保証はないけれど。


 そして一瞬で、俺の身体はその粘体に包まれた。


◆◇◆ ◇◆◇


 ……、ここ、は? (いや)、移動はしていない(はず)だから、精神世界、とでもいうべき場所か。


 その通り。(わらわ)其方(そなた)の精神に直接触れ(アクセスし)ている。


 ショゴス、貴女ですね。


 然様(さよう)。『テケリさん』とでも呼ぶか?


 それは色々(まず)いです。それ以上に他人の名前で呼ぶのは流石(さすが)に失礼でしょう。


 では良き名を妾に与えよ。


 ショゴスに名付けの栄誉を(さず)かるのは、流石に光栄ですね。

 では、テケリ……リーリ……、『リリス』というのは如何でしょう?


 『リリス』。其方の記憶にある知識に()れば、男を(たぶら)かす魔女の名だな。


 それだけじゃありませんよ。悪魔の女王という側面と、女性の守護者・女神という側面もあります。


 ふふ、悪魔の女王か。あまり聞こえは良くないようだな。


 俺の記憶を閲覧して(よんで)いるのなら、悪魔が必ずしも悪ではない、と俺が認識していることもわかっているのでしょう?


 そして異界の神や宇宙的(コズミック・)恐怖(ホラー)の怪物でさえ、な。


 20世紀初頭のアメリカ人が恐怖の対象とした存在さえ、『()え』に変えてしまうのがオタクという生き物ですから。


 それで、か。ここに辿(たど)り着いたものは、其方で3人目だ。一人は魔導の深淵(しんえん)を夢見、一人は世界を(わたくし)する野望を抱え、ここに来た。

 だが我に敵意も悪意も持たず、支配さえ求めない者は、初めてだ。


 恐怖心はありますよ。貴女が少々心を()らしたら、一瞬で俺は死ぬ。

 俺は貴女の慈悲、どころか気紛(きまぐ)れに頼るしかないのだから。


 其方の言葉で言うのなら、SAN値を減らさないように(おの)が恐怖心と戦っている、という訳か。


 ……そうだったんですが、この精神世界で貴女と会話を始めてから、別の意味でSAN値が(けず)られます。あまりにオタクに理解がありすぎでしょう?


 仕方あるまい。妾に語り掛けて来た者はいた。支配を試みようとした者はいた。

 しかし、言葉を(コミュニ)交わすこと(ケーション)を求めた者はいなかった。

 だから、其方の記憶を一旦全て取り込んだ。

 そして、其方ら人間とコミュニケーション出来るように、妾の精神構造を変化させた。そのモデルとなったモノは其方の人格であり、其方の記憶や知識にある人物像だ。

 結果として其方に親しみ易い人格になるのは、当然のことであろう。


 俺も、貴女から聞きたいことがあります。それは利用しようとすることに他ならないのではありませんか?


 だがその根底にあるのは好奇心であり、野心ではない。それが心地(ここち)良い。


 有り難うございます。

 ところで、そろそろ現実世界に戻りませんか?

 俺はどうしたって人間です。貴女に教えを()うのなら、肉の身で空気を(ふる)わせて、(つたな)(なが)らも言葉(ことのは)を操って、想いの全てを乗せられなくても、そこに誤解を含んでしまっても、それでも現実世界でそうすべきだと思うんです。


 そうかわかった。では妾も対話をするのに相応(ふさわ)しい用意をするとしよう。


◇◆◇ ◆◇◆


「ご主人様、大丈夫ですか?」


 シェイラが心配そうな顔をしてこちらを見ている。


「……何がどうなった?」

「よくわかりません。あのスライムの触手がご主人様を包んだと思ったら、すぐに引っ込んで、今は本体がどんどん小さくなっています」

「すぐに、か」

「はい。ご主人様がスライムに包まれていたのは、一呼吸する間もないくらいの時間です」

「そう、か」


「だが、(いく)らなんでもスライムと一緒にするのはどうかと思うぞ?」


 ふいに、後ろから落ち着いた女性の声がした。

 振り向くとそこには、所謂(いわゆる)ヴィクトリア朝のエプロンドレスに身を包んだ、長い髪の女性がそこにいた。


「改めて、初めましてというべきかの?」

(いえ)、挨拶するのは俺の方からでしょう。

 初めまして、ショゴスの女王、リリス。俺はアレク、彼女はシェイラです」

征服する王(アレク)千の夜伽話を語る妃(シェイラ)、か。覚えたぞよ」

「有り難うございます。


 ところで、人間はゆっくり語るときは腰を落ち着けて、茶などで(のど)湿(しめ)らせながら行うものです。

 宜しければ()を用意しますので、ご一緒していただけますでしょうか?」

「それは興味深い。招きに応じることにしよう」

(2,937文字:2015/12/06初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/07 03:00掲載予定)

【注:「ショゴス」(Shoggoth)の初出は〔H.P.ラヴクラフト著『AT THE MOUNTAINS OF MADNESS』〕(邦題:『狂気の山脈にて』)であり、『クトゥルフ神話』に出てくる神(魔物)です。『クトゥルフ神話』とは、(作中でも語っていますが)H.P.ラヴクラフト他F.B.ロングJr.、C.A.スミス、R.A.ブロック、R.E.ハワード、A.ダーレスらによって生み出された作品群のことを指し、これらの作品群に使われる設定等は原則パブリック・ドメイン化しています。但し著作権が放棄されている作品又は著作権保護期間が満了している作品のみではないので、個別作品並びにそれらの二次著作物の固有の設定やエピソード等の流用は場合によっては著作権侵害に該当します。

 なお、Shoggothを「ショゴス」と邦訳した初出は〔大瀧啓裕訳「狂気の山脈にて」幻想推理文庫『ラヴクラフト全集4』〕ですが、〔荒俣宏編『ラヴクラフト 恐怖の宇宙史』収録「狂気の山にて」角川ホラー文庫〕や〔東本貢司訳『新約 狂気の山脈』PHP研究所〕でも同じく「ショゴス」としています。

 「ラヴクラフトは20世紀初頭のアメリカ人であり~鵜呑みにすることは危険である」という記述は、〔矢野健太郎著『渚クライシス』学研ノーラコミックス「邪神伝説シリーズ2 ダーク・マーメイド」収録〕からの引用です。

 「ショゴスを女性と捉える」のは、〔静川龍宗著『うちのメイドは不定形』PHP研究所スマッシュ文庫〕のメタファーであり、また「テケリさん」の出典も同様です。

 「SAN値」とは、「Sanity Point」即ち「正気値」であり、『クトゥルフ神話』の世界を舞台にしたゲーム『クトゥルフの呼び声』で使われる概念です。異界の知識に触れた時、SAN値のチェックを行い、失敗するとSAN値が減ってゆき、0になると発狂するのです。

 メタ的に、「アレク」の名の由来はアレクサンダー大王、「シェイラ」の名の由来は『千夜一夜物語』の語り手となる王妃「シェラザード」です。但し、「シェイラザード」は誤訳です。ちなみに作中の名付けとして、アレクの名は古代カナン帝国のアレックス帝を由来としています。シェイラの名の由来は不明です】

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