表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
128/368

第34話 休息

第07節 未知なるベスタを迷宮に求めて(後編)〔4/7〕

 水棲竜(ヒュドラ)(たお)した後、川を渡って向こう岸に着き、周辺の安全が確保出来ると信じられる場所で幌馬車(キャラバン)を出し、そこでようやく一息()くことにした。


「それにしても、ご主人様は無茶し過ぎです」

「今回に限っては、スマンと思う」

「今回だけじゃありません。いつもです。

 先日の冒険者たちとのやり取りだって、もう少し上手くやれたんじゃないですか?」

「あれはまぁ、確かにそうだな。

 『助けてあげた』なんて恩着せがましく言うつもりはないけど、それでも連中の態度が気に喰わなかった」

「それはわかります。けど、わざわざ正面から事を荒立てる必要は無かった(はず)です。嫌がらせがしたいのなら、一旦引いたうえで物資に火を()けても良かったですし、適当に暗殺してその物資や為替(かわせ)収奪する(うばう)ことも出来ました。なのに……」

「一応考えてはいたんだけどね。

 彼らの誇り(プライド)()り所は、高ランク冒険者であるという事実と、この迷宮(ダンジョン)の最奥部まで進出しているという実績だ。だからその両方をへし折ってやりたかったんだ」

「高ランク冒険者6人が手も足も出ない相手を、ランクが低く歳も若く、更に人数もたった2人で一方的に蹂躙(じゅうりん)する。確かにプライドがへし折られますね」

「ついでに彼らが到達したことのない場所に関する情報。これも、だ。

 確かに上手くやれば、余計な憎悪(ヘイト)を稼がずに済んだだろうし、嫌がらせだって簡単に出来た。でもそれだけじゃ足りなかったんだ」

「どうしてそこまで怒ったんですか?」

「彼らを助ける。それを選んだのはシェイラだ。だが連中は、あまりにもその甲斐(かい)が無さ過ぎた。それが(ゆる)せなかった。ま、一方的な八つ当たりだな」

「全くです。ご主人様はそんなことを気にしなくて良いんですから」


「それはそうと、これからどう進むか、だが」

「それ以前に、ここで二泊してください」

「二泊? 何故?」

「一日完全に休養日を作らないと、ご主人様は倒れてしまいます」

「あぁそういうことか」

「ダンジョンの中でゆっくり休む、なんて常識で考えれば正気の沙汰(さた)ではありませんが、ご主人様に常識は初めから通用しませんし、このキャラバンのおかげで随分(ずいぶん)優雅な休日を過ごせると思うんです」

「確かにそうだ。だけど俺が休むんならシェイラもだよ。

 探索任務はあくまで見張りだけ。それ以外の時間はゆっくり休む。

 (いや)、見張りも二人でお茶を飲みながら、っていうのもアリだね」

「……それは確かに素敵ですね。私たちにしか出来ない見張りの仕方です」


 そして、キャラバンの石炭ストーブに火を入れた。地下だからかそれともヒュドラとの戦いの影響で冷気が滞留しているのか、この季節(日数計算に間違いがなければ、今は夏の一の月の筈。また今年の閏月(うるうづき)は冬の一の月だから、太陽暦に直しても5月頃の筈)にしては少々肌寒い。

 更にキャラバンの外でも焚火(たきび)をし、シチューを作り始める。

 (しょく)は心の(なぐさ)め。温かくて美味しい料理をお腹いっぱい食べれれば、それだけで後ろ向きな考えは出てこなくなる。またドライフルーツなどの甘味を口にし、蒸留酒(ブランデー)()らしたお茶を飲めば、ここがダンジョンの中であっても充分な行楽地に早変わりするだろう。


 本を読み、シェイラと他愛ないお(しゃべ)りをし、冗談を言い合いまた俺が小難しい考察を垂れ、久しぶりにゆっくりとした一日を過ごすのであった。


◇◆◇ ◆◇◆


 そして休みも終わり32日目。俺たちは再び探索を開始する。


 とはいっても、やることはこれまでと変わりない。

 シェイラは〔空間(エコー)音響探査(ロケーション)〕で周辺を調査し、俺は〔音響(アコースティック・)探査(プロバイディング)〕で地質調査。気になる地層を見つけたら〔振動(バイブ)破砕(レーション)〕で砕いて鉱石や原石を採取する。

 鉄鉱石の(まと)まった鉱床(というよりも神聖鉄(ヒヒイロカネ)の鉱床)が見つかったので、こちらもトン単位で採取した。ヒヒイロカネは砂鉄の形でしか見つからないだろうと思っていただけに、鉱床で見つけられたのはちょっと意外だった。

 魔物が現れたら二人で一緒に対処して、枝道・岐路(わかれみち)があったらどちらに行くか二人で相談して決める。


 そうして歩くこと更に4日。大きな水溜(みずたま)りのようなものを見つけた。


「……あからさまに怪しいですが、池、でしょうか?」

「それにしては見るからに粘性が高そうだな。このダンジョンの性質を考えると、あれで一つのスライム、と考えるべきじゃないか?」

「あんな大きな? 孤児院の浴場でも収まらない、小さな屋敷なら丸ごと入る大きさですよ?」

「そうだよな。ちなみにあれがスライムだとしたら、その核が何処にあるのかわからない」

「とても、面倒そうですね」

「そういう訳で、一旦引こう」

「わかりました」


 で、スライムが視界に入らないくらい離れたところで。


「どうします?」

「本音を言うと、戦わずに済むのなら戦いたくない。だが戦わずに通り過ぎて、後ろから攻撃されるかもしれないと考えるのなら、戦って(たお)した方がマシかな、と」

「別の道を探す、という選択肢は?」

「あるかもしれないけれど、少なくともここがダンジョンである以上、魔物がいないルートっていうのは無いと思うよ。今逃げても、どこかで別の奴と戦わなきゃならない。そしてその時は、あいつより(しょ)し易い相手であるとは限らないし、あいつと戦わなかったことで不利になるかもしれない」

「わかりました。戦いましょう。けど、この間のヒュドラのときのような無茶は駄目ですよ?」

「気を付けよう。だからシェイラも、(あった)かい服装に着替えろ」

「え?」

「また〔(エンドース)(ミック)〕を中心に戦術を組み立てる。寒さで手足が縮こまらないように、な」

「わかりました」


◇◆◇ ◆◇◆


 準備を済ませて再び向かうと、どうやらスライムの方もやる気になっていたようだ。

 池の擬態(ぎたい)(?)を解き、立ち上がって(?)、こちらを見ている(目が何処にあるのかはわからないが)。その大きさは、俺達の想像以上だった。


「やることには変わりない。行くぞ!」

「はい」


 二人とも〔空間(エアロ・)機動(マニューバ)〕を起動し、いざ接近しようとしたところで。


 スライムが、無数の(つぶて)を投げてきた。


「うお!」


 (あわ)てて回避し、石壁の影に隠れた。が、礫の攻撃は止まず、がりがりと壁が削れていく。このままでは身を守り切れない。


 一時(しの)ぎとわかっているが、〔地面(ムーブ)操作(アース)〕で土壁を作り、それに隠れて移動した。シェイラと合流して、


「……、どうしよう?」

(2,824文字:2015/12/06初稿 2016/07/31投稿予約 2016/09/03 03:00掲載予定)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ