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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第31話 思索

第07節 未知なるベスタを迷宮に求めて(後編)〔1/7〕

 『ベスタ大迷宮』。この迷宮(ダンジョン)は広い。

 魔物の脅威度そのものは低いが、如何(いかん)せんダンジョンは広く、魔物の数は多い。

 〔亜空間(インベン)収納(トリー)〕で多くの物資を持ち込めるとはいっても、この広大且つ複雑怪奇な迷宮を探索するには充分とはいえず、照明石の所為(せい)で昼も夜もなく(ほの)暗いダンジョンは時間感覚を狂わせ、寝ても覚めても襲撃する魔物はベテランの冒険者でさえあってもその集中力を乱す。

 実際、【黄金を掴みし者】と名乗った旅団(パーティ)の面々の実力なら、一対一なら蜥蜴(リザード)(マン)に負ける(はず)がない。一対十でもそれなりの勝負が出来ただろう。

 疲労と、物資の不足から来る(あせ)りと、終わりの見えない探索ゆえの余裕の無さ。その上でリザードマンに何らかの策で()められた結果が、先日の大敗だったという訳だ。


 ダンジョンに(もぐ)る前、タギが生前(?)(のこ)した文献で「最奥まで最短距離で50日近くかかる」と記されていたというが、【黄金を掴みし者】をはじめとするあのチームは、攻略に既に数十日掛けていると思われる。

 俺たちはかなり余裕を見込んで物資を用意している為、その不足を案じる必要は無いが、引き時を(あやま)ったら同様の立場になるということを、考えておくべきだろう。


 彼らの拠点を去って既に6日、ダンジョンに入ってからもう22日が経過しようとしている。


◇◆◇ ◆◇◆


「ちょっと、びっくりしました」


 近くの池に()んでいた水棲人(ギルマン)との戦闘を終えたシェイラは、そう(こぼ)した。


「何がだい?」

「斬ったら硬かったので。このダンジョン内の魔物の体内で、神聖金(オリハルコン)が見つかる、という話は聞いていましたが、こういうことだったんですね」

「おそらく、オリハルコンの砂金ごと獲物を口にし、消化されないオリハルコンが体内に蓄積したんだろう。

 あれだけの投資をしてまでこのダンジョンを攻略するのは、こういった(うま)みがあるからなんだな。これからも魔物を解体するときは、魔石だけじゃなくオリハルコンも狙ってみるか?」

「先日ご主人様が採取なさった量に比べれば、端数みたいなものです」


 そりゃそうだ。


「それはともかく、ルートの見直しをする必要があるかもしれないな」

「どういうことですか?」

「何となくだが、誘導されているような気がする」


 この広大なダンジョンでは、一本道を何十日も歩いた挙句、辿(たど)り着く先は行き止まり、などということも充分あり得る。照明石に照らされ目立った道筋と、照明石の無い暗い横道。人は普通、明るい道を選びたくなるものだから。


「仮に誘導されているとしても、抑々(そもそも)正しい道程(みちのり)は誰も知らないのです。実際に間違えてみなければ、それが間違いだとは言えないのではないでしょうか?」

「それは確かにそうだ。だが、これは完全に俺の手落ちなんだが、タギ=リッチーがこのダンジョンを攻略した際の手記とやらを、実際に読んでいない。そう考えると、俺たちが何か、重大な勘違いをしているような気がしてならないんだ」

「どういうことでしょう?」

「タギは、50日近くかかったというが、では往復で100日分以上の物資をはじめから用意していたか?」

「それは……」


「もしかしたら、リザードマンや水棲の魔物など、食料を現地で調達していた可能性もある。水も、運良く(あた)らなかっただけかもしれない。どちらにしても、そんな大量の物資は用意していなかった筈なんだ」

「確かにそうかもしれません」

「普通の冒険者が、――収奪物を持ち帰る余裕を考えないとしたら――持ち込める物資の量は、普通に考えて20日分から30日分だ。ならタギも、それだけの量しか持って来なかったとしか思えない。

 だとしたら、『50日かかった』というのは単なる結果論だ。そして逆に、『正しい道を50日歩けば最奥部に辿り着く』という考えも、希望的観測に過ぎないということになる」

「それはつまり、最初のあの(がけ)を降りたように、予期せぬアクシデントの結果行程を省略した末の50日、という可能性もあるということですか」

「その場合、崖から落ち、更に地底湖で下流に流された結果、とまで考える必要があるかもな」

「でもそれも可能性です。今から地底湖まで引き返し、湖の上に幌馬車(キャラバン)を浮かべて流され、その先には何もないという可能性だってあります」

「その通りだ。


 そこで今度は、今俺たちが誘導されている可能性を考えてみる」

「誘導、って、誰にですか?」

「このダンジョンマスターに、だ」

「え?」

「以前『鬼の迷宮』を攻略した時、気になったことがあったんだ。

 階層の配置とそこに生息する魔物。それらはまるで、何者かが何らかの意図に(もと)づいて用意したかのようだ、って。

 勿論(もちろん)気の所為かもしれないし、仮にそうであったとしても、『鬼の迷宮』がそうだからといって『ベスタ大迷宮』もそうだとは限らない。

 だけどその一方で、もしそうであるのなら、ダンジョンマスターが知能の低い牛鬼(ミノタウロス)だった『鬼の迷宮』より、知性があると予測される『ベスタ大迷宮』の方が、何らかの意図に沿って設計されている可能性が高いと思う。

 そしてそこに意図があるのなら、間違えたゴールに誘導している可能性も、否定出来ない」

「確かにそうかもしれません」


「抑々、俺たちが『照明石』って呼んでいるこの石の正体も、(いま)だ不明だ。

 そして、何故このようなモノが迷宮内に配置されているのかも。

 全ての通路に照明石があるというのならそういうものだと納得することも出来ようが、照明石の無い通路も確かにある。

 人間の屋敷を考えると、屋敷の主人や客人を通す為の通路は明るくし、使用人専用の通路は暗くする。そうすれば、人は暗い通路には意識が向かないんだ」

「では今私たちが歩いている道は花道で、どこかに使用人用の裏道がある、ということですか?」

「ギルマンは水中から出てくる。では水中はどうなっている?

 リザードマンは普段何処(どこ)で生活している?

 スライムは岩の隙間から()み出してくるが、では岩の向こう側は?」

「考え出すとキリがないような気もします」


「ダンジョンの、究極の攻略法って知っているか?」

「いえ」

「床をぶち抜くことだ」

成程(なるほど)。縦の階層になっているダンジョンでは有効ですね」

「このダンジョンの場合は階層という概念が無いから意味が無いけどな。だが壁を、岩盤を撃ち抜くというのは選択肢の一つと考えた方が、この際良いかもしれない」

「人間が無意識に、向かうことを避ける方向に、()えて進んでみる、ということですか」

「他にも、水中を(もぐ)ることも選択肢の一つだな」

「それは、あまり嬉しくありませんね」

「それじゃぁそれは、最後の手段だな」


 ともかく、少し考え方を変えてみることにした。


(2,860文字:2015/12/04初稿 2016/07/03投稿予約 2016/08/28 03:00掲載予定)

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