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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第29話 清算

第06節 未知なるベスタを迷宮に求めて(前編)〔6/7〕

 自業自得で足の(けん)を切られた哀れな(笑)冒険者(名前はキースというらしい)は、簡単な血止めはされたが治療魔法を掛けることはしなかった。何故こうなったのか全員想像出来ているらしく、キースに同情する者はいない。勿論(もちろん)、その上でシェイラに反発する者はいるが。

 ただこれにより、ただでさえ低下した旅団(パーティ)【黄金を掴みし者】の戦力が更に低下したのは事実。昨日の戦闘の結果、戦力として残っていたのはヘディン(リーダー)セシル(ツンデレ)、そしてキース(ゲス)の三人だけだったのだから。

 おかげで、彼らは自身の戦力だけで補給(ベース)拠点(キャンプ)に帰りつける可能性は、ほぼ皆無となったのだ。


 そうして今日は(昨日とは逆で)俺が先頭、シェイラが最後尾を歩いている途中。


後方に(チェック)注意(シックス)!」


 シェイラが符牒(ふちょう)を飛ばしてきた。

 その合図で意識を隊列の後方に飛ばすと。


 そこに現れたのは、昨日より更に多くの数の蜥蜴(リザード)(マン)だった。


「うわっ、に、逃げ――」

「面倒臭いな。シェイラ下がれ」

「はい」


 シェイラに一歩引かせ、そして踏み込んで来たリザードマンたちの足元に〔地面(ムーブ)操作(アース)〕で大穴を開けそこに()めた。更に天井に向かって〔振動(バイブ)破砕(レーション)〕。鍾乳(しょうにゅう)(どう)(ほとん)どを(ふさ)ぐ量の土砂で埋め尽くした。


「別に無理して戦うこともないだろう。完全に塞いだ訳じゃないから出入りが出来ない訳でもないし」

「だがあそこからリザードマンが抜け出てきたらどうするんだ?」

「その時は(たお)せば良い。抜けてくるのは一匹ずつだろうからな、一対一なら簡単だろ?」


◇◆◇ ◆◇◆


 そのリザードマンたちがこの辺りの総戦力だったのか、その後はたまに()いて出るスライムたち以外との遭遇は無く、2回野営した後拠点に到着した。


「何だお前たちは」


 拠点防衛の責任者と(おぼ)しき男が、誰何(すいか)の声をかけて来た。


「【黄金を掴みし者】たちを護衛してきたパーティ【C(ケルブ)=()S(サイト)】です」

「護衛? どういうことだ」

「この先で、彼らはリザードマンたちに包囲されてまして、全滅寸前のところで出会いました。ここに戻ってくるにも装備に心許(こころもと)ないということで、僭越(せんえつ)ながら同行することになったんです」

「そういうことなら感謝するが、一つ疑問がある。私たちはお前たちを見たことが無い。私たちは現在この迷宮(ダンジョン)の最深部に到達している攻略チームだ。私たちの前にいたというのなら、私たちを追い抜いてないとおかしい筈だ」


 それのどこがおかしいのか。それを「おかしい」ということ自体が自惚(うぬぼ)れだと何故わからない?


「貴方がたはこのダンジョンの何を知っているんですか? 貴方がたはこのダンジョンで知らないことなどないというつもりですか? 貴方がたがここまで来た道以外にこの場所に到達するルートは無いと、本気で思っているんですか?」

「待て、別ルートがあるということか? それはどこだ? 教えてくれ!」


 ……おいおい、ちょっと待てよ。


「ダンジョンのマップデータは、パーティの財産ですよ。それを無償で提供しろというのですか?」

「では(いく)らなら出す?」

「その前に、護衛の後金(あときん)を受け取っていないのですが」

「ほう、幾らだ」

「金貨300枚。白金貨3枚ですね」

「何だと? そんなに払えるものか!」

「では幾らなら払えると? というか、報酬をケチるほど、彼らは替えの()く消耗品でしかなかったということですか?」

「だが……」

「彼らはリザードマン50匹以上に囲まれ、死にかけてました。無傷の者は無く、戦闘不能に(おちい)った者も3人。

 そして帰路、それを(しの)ぐ数のリザードマンの追撃を受けています。

 もし俺たちがいなければ、運良く最初の襲撃で生き延びることが出来たとしても、追撃の結果生還出来た人はいなかったでしょう。

 彼らにも言いましたけどね、今回の護衛報酬は、間違いなく彼らの命の値段です。

 ひとり白金貨1枚。むしろ安い方だと思いますよ?」

「だが、俺たちはそれほど多くの金貨を持ち込んでいない。()き集めてもそれだけそろうかどうか」


 いや、〔亜空間(インベン)収納(トリー)〕があるからその程度持ち込めるだろうが。


「では、別のモノでも良いですよ」

「別のモノとは、何だ?」

「そうですね、食糧10日分を白金貨半分で買い取りましょう。白金貨3枚分だから、食糧60日分ですね」

「ろくじゅっ……。そんなに渡したら攻略組どころか残留組の分も残らない!」

「これ以上値切るのですか? 彼らの命って、随分(ずいぶん)安かったのですね」

「では武具ではどうだ? 使えるものがいくらかあるぞ」

「それは必要ありません」


「いい加減にしろ、ガキが!」


 横から声をかけて来たのは、いかにも歴戦の冒険者、といった風情(ふぜい)の大男だった。


「礼はくれてやる。身の程を知ってさっさと帰るが良いさ」

「謝礼なんかいりませんよ。契約に従って約定の後金を支払ってほしい、というだけです」

「別に〔契約魔法〕で縛った訳じゃないんだろう? その点お前たちのミスだったな。

 ま、(あきら)めろ」


 このクソ野郎が。


「それって強盗の理論ですよね。なら俺たちも、実力を(もっ)てそれに対抗する必要があるってことで良いんですか?」

「お前らは俺たちに勝てるつもりでいるのか?」

「まともに戦っても勝てないでしょうね。けど、あんたたちに大損害を与えることは出来ますよ?」

「損害?」

「たとえばあそこに積み上がっている物資に火をかけるとか、水で濡らすとか。

 俺たちの拠点はこの先にあるからたとえ手持ちの物資を全部失っても補給が出来るが、あんたたちはこの拠点の物資が全滅したら、この一つ手前の拠点に戻れるのか?

 そしてこの拠点を再構築する為にどれだけの時間がかかる?」


 そう。ここに集積している物資を損壊させるだけならば、俺たちだけでも簡単に出来るんだ。


「貴方たちが格下冒険者相手に報酬をケチって踏み倒すような三流パーティだってことを自ら認めるんなら、俺たちは何も受け取らずにここから立ち去りますが?」

「……白金貨1枚と食糧15日分だ。これで手を打ってほしい」

「まぁこれ以上貧乏人を苦しめても仕方がありませんね。それで良いでしょう。


 それから、この先のマップデータですが、白金貨10枚出すのなら考えても良いですよ?」

「貴様、どこまで足元を見るつもりだ!」

「俺たちは二人きりのパーティです。つまり、この先にある拠点には誰もいません。

 二人で持ち運べる量でここまで持って来れるルート。見張りを置かなくても安全な、拠点とするには最適な場所。


 これらの情報の対価として白金貨10枚なら安い方だと思いますが?」

(2,841文字:2015/12/03初稿 2016/07/03投稿予約 2016/08/24 03:00掲載 20016/10/11衍字修正)

・ ちなみに一対一で試合する場合、アレクが勝てる相手は何人かしかいません(シェイラならもう少し増えるかも)。但し実戦なら、〔空間機動〕の魔法を持つ二人は、一般の冒険者に対し圧倒的な戦術的優位を確保出来ます。

・ 言うまでもありませんが、アレクたちは拠点など持っていません。全部持参です。

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