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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第28話 呉越同舟

第06節 未知なるベスタを迷宮に求めて(前編)〔5/7〕

「それで、結局如何(いかが)しますか?」


 『ベスタ大迷宮』内の鍾乳(しょうにゅう)(どう)で出会った冒険者一行から、彼らの補給(ベース)拠点(キャンプ)までの護衛を依頼されたのは良いが。


「改めて護衛を依頼する。

 だが、手持ちは金貨120枚しかない。前金(まえきん)はそれで勘弁してくれないか」

「他の方々の持ち金を合わせれば、残り180枚程度(そろ)えられるのではないですか?」

「今回のことは俺の失策(ミス)だ。他の連中に責任を負わせたくない」

「それはそちらの都合です。前金が払えないのなら、この依頼は請けられません」

「……随分(ずいぶん)人情味が無いんだな」

「そういう対応を望んだのは、そちらの女性です。情には情で、理には理で返すのが人間関係というモノでしょう?」

「それを言われると反論の余地がない。わかった。ちょっと待っていてくれ」


 そして彼は仲間たちから金貨を集め、前金を揃えて俺に渡した。


「ひのふのみ……。確かに300枚。依頼は確かに(うけたまわ)りました」

「感謝する、とは言えないな。(むし)ろお前のような守銭(しゅせん)()に依頼しなければならない自分が腹立たしい」

「それならそれで良いでしょう。どうせ拠点に着くまでの縁です。

 俺の名前はアレク、彼女はシェイラ。俺たちは旅団(パーティ)C(ケルブ)=()S(サイト)】です」

「俺はパーティ【黄金を掴みし者】のリーダー、ヘディンだ。

 他の連中は……」

「他の人たちの紹介は必要ありません。拠点までの案内をお願いします。

 シェイラ、お前が前、俺が後ろだ」

(かしこ)まりました」


◇◆◇ ◆◇◆


 はっきり言って、雰囲気は最悪である。

 それでも状況が暴発しないのは、【黄金を掴みし者】の側が満身(まんしん)創痍(そうい)で事を荒立てる気力がない(あるのはツンデレ女冒険者一人だけ)のと、俺たちが護衛を辞めたら文字通り彼らの命は風前の灯火(ともしび)となることが明らかだからだ。


「さて、この辺で野営しよう。ヘディンさん、宜しいですね」

「ああ。構わない」


 【黄金を掴みし者】の皆は適当に座り、干しイモのようなものを口にし、腰に()げた水筒(すいとう)からちびりちびりと水を飲んでいた。

 俺たちは、〔無限(インベン)収納(トリー)〕から(まき)と鍋、そして塩漬け肉や野菜を取り出し、〔地面(ムーブ)操作(アース)〕で(かまど)を作って火を点けた。塩漬け肉の塩で充分な塩分が採れる。あとは肉からとれる出汁(だし)(いく)つかの香草や調味料で味を調え、仕上げにすいとん(小麦粉を練ったもの)を投入した。ある程度煮込んで、完成。


「な……、なあ、随分美味しそうだな。一口分けてくれよ」

「俺たちが請けた依頼は護衛で、食材の提供は契約の中にありません。

 それに、貴方たちならどうしました? 迷宮(ダンジョン)の奥で出会った冒険者に、貴重な食材を分けますか?」

「それは……」

「申し訳ありませんが、そういうことです」


 勿論(もちろん)、俺のやっていることは、彼らの憎悪(ヘイト)を貯めることに他ならないと理解している。それでも()めるつもりはない。そもそも最初に俺たちの善意を無にしたのは連中なのだから。

 高ランク(ハイ)冒険者(ランカー)だか最前線(トップ)攻略組(エリート)だか知らないが、俺たちから見れば敵中に孤立して殲滅(せんめつ)される寸前の、素人冒険者集団だ。にもかかわらず、「一流」(笑)としてのプライドにしがみ付き、低ランク(ロー)冒険者(ランカー)は自分たちの踏み台になって当然だ、と言わんばかりの態度を(くず)さない。

 確かに食材はかなり余裕をもって持ってきたが、だからといってこんな奴らに提供したいとは思わない。


 あ、(いや)。だがそれでもこの空気を改善する良い手を思いついた。


「シェイラ。お茶を()れてくれないか。それくらいなら彼らに分けてあげても良いだろう。あと蒸留酒(ブランデー)を入れてあげるのを忘れるなよ」


 言うまでもないが、お茶は高級品である。だが、ダンジョンのような環境だからこそ、俺は嗜好(しこう)品をケチらない主義だ。

 その一方で、今回のお茶の為に入れた水は、例の地底湖で()み、濾過(ろか)煮沸(しゃふつ)した水だ。イメージの関係で生活用水にしか使っていないが、衛生的には問題はない。


 反面、彼らにとって水は、ここではそれこそ同じ重さの金貨とでも交換出来るくらい貴重なものだ。それをお茶などという嗜好品の為に浪費するなんて、想像の埒外(らちがい)だろう。

 だが、傷だらけで(途中川に落ちたのか)服も()れそれを(ぬぐ)う布もなく、満足に食事も採れないところで、温かいお茶は、その心を(ほぐ)す。

 多分ヘディンがミスしたのも、そういった余裕が無かったことに起因するのではないだろうか。


◇◆◇ ◆◇◆


 そうして、交代で休息を取った、最中(さなか)

 男の太い悲鳴が野営地に響いた。


「何が起こった?」


 見てみると、ひとりの男の、その左(もも)が、骨が見えるほど深く切り裂かれていた。やったのは、シェイラ。他にいない。


「この女が、いきなり俺に襲い掛かって来たんだ」

「と、言っているが?」


 ヘディンがこちらに話を振ってくるが、


「……この場合、真相が何処(どこ)にあるかなんて、どうでも良い話だと思いませんか?」

「どういうことだ?」

「ここに二つのパーティが行動を共にしている。

 それぞれのパーティに属するメンバーの間で、問題が起こった。

 なら、最も簡単な対処法は、行動を共にすることを止めることです。

 シェイラは積極的にあの男を刺す理由はない。けど、それさえどうでも良いことです。

 あの男に責任があるのなら、俺たちはあの男と一緒にいることに()えられない。けど、貴方たちはあの男を放逐(ほうちく)する気はないでしょう?

 同じように、仮にシェイラに問題があるのなら、貴方がたはシェイラと行動したくない(はず)だが、俺はシェイラと別れて行動するつもりはない。

 つまり、護衛契約はここで終わりにして、ここから先は別行動にした方が良いということです」


 そもそも、俺は契約報酬の後金(あときん)を回収出来るなんてはじめから思っちゃいない。だからここで終わりにしても何ら問題はない。

 だが、彼らにとってはそう簡単な話ではない。そもそも、俺たちと一緒に行動しているのは、そうしないと生還が覚束(おぼつか)ないからだ。

 彼らにこそその必要があり、俺たちにはない。それこそ契約をここで打ち切る為にシェイラが一方的にあの男を襲ったのだとしても、彼らの方にこそ契約を継続しなければならない理由があるのだから、シェイラを断罪出来る訳がない。

 おそらく、あの男はシェイラを殺し、その〔亜空間(インベン)収納(トリー)〕の中にある水や食料を奪うつもりだったのだろう。だが、シェイラは周囲を見張るだけでなく、冒険者たちの動向にも意識を割いていた。だからこそ、襲撃を察知し返り討ちに出来たのだ。


「……別行動をとる必要は無いし、契約をおわりにするつもりもない。

 何も起こっていない。ただアイツは悪い夢を見ていただけだ」

(2,979文字:2015/12/02初稿 2016/07/03投稿予約 2016/08/22 03:00掲載 2016/08/22脱字修正)

【注:「同じ重さの金貨とでも交換出来るくらい貴重なもの」という表現は、大航海時代に胡椒の貴重性を謳った「同じ重さの金に等しい価値がある」という表現のメタファーです】

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