第26話 フィールドワーク・2
第06節 未知なるベスタを迷宮に求めて(前編)〔3/7〕
考え無しに湖水を熱した為湖岸もかなり暑くなった。けどまぁ大きな問題にはなるまい。
そう大らかに考えて、そのまま歩いていくと。
右手から小さな流れが湖に注いでいた。
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俺たちの目的地は、迷宮の奥。つまりは底。だから、向かう先は下になる。
川は上から下に流れるのなら、上流を目指してもゴールには辿り着けない。
が、個人的な興味で、川を遡ってみたいと思った。
「良いですよ?」
「良いのか?」
「ご主人様のお望みとあらば」
「逆方向だぞ?」
「急ぐ探索でもありませんし、それ以前に正しい道程など誰も知らないのですから」
そういう訳で、沢登りと洒落込むことにした。
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探しているのは、流れが蛇行している場所。或いは後天的に石(岩)が落ちている(すなわちまだ若い岩)がある場所。川床の岩盤の窪みなど。
上流に金鉱床があるのなら、そこで砂金が採取出来る。
そしてベスタ山脈には金鉱脈があり採掘されているので、その真下に当たるダンジョン内でならかなりの確率で鉱床を発見出来ると思われる。見つけられなければそれはそれで良いし。
砂金があるのなら、その採取は簡単だ。砂金を含めた砂を掬い、器ごと流れの中で洗うと、比重の軽い砂や小石は流れ、比重の重い砂金だけが残る。また、金以外の金属の多くは水と反応して融けてしまうので、金の純度は比較的高くなる(場所によっては純度90%以上の砂金もあるのだとか)。
また、砂鉄が採取出来るのなら、砂金同様比重選鉱で採取することも可能だが、こちらはそれなりの準備(「鉄穴流し」など)をしたうえでなければ効率が悪い。一方磁鉄鉱(磁硫鉄鉱)はまだ見つかっていない為、磁石で鉄を集めることも出来ない。
が、砂鉄にしろ砂金にしろ、そんなに苦労するとは思わない。寧ろ『鬼の迷宮』の時より話は簡単だ。無属性魔法Lv.2【群体操作】派生05.〔選鉱〕。『鬼の迷宮』では【群体操作】の基本魔法として発動させたが、〔地面操作〕同様派生魔法として登録した方が使い易い。
確実に砂金があると分かっているところで〔選鉱〕を使えば、その分効率よく採取出来る。砂鉄も同様だ。
そして、砂金にしろ砂鉄にしろ、それが発見出来れば、その上流に金鉱床・鉄鉱床を見つけられる。更に、金鉱床は同じ場所で銀鉱床・石英鉱床も見つかることが多いと聞いたことがある。銀は言うまでもなく、石英もガラスの原料になる(石英の結晶は「水晶」と呼ばれ、それ単体で宝石としての価値もある)。
加えて、『ベスタ大迷宮』のように魔力濃度の濃い場所でなら、金は神聖金、銀は神聖銀、鉄は神聖鉄に、それぞれ変化しているものも多いだろう。
オリハルコンは金の性質を受け継ぎ不変の属性を持ち、ミスリルもまた銀の性質を受け継いで超伝導の性質を持つ。ヒヒイロカネは武器、すなわち攻撃し打破するものそのものの属性を持つ。ちなみに神聖金剛石の属性は永遠である。
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さて。沢登りをしていると、充分量の砂金を目視出来た。
砂金浚いを楽しんでも良いが、それはもう少しのんびり出来る場所で、のんびりやるのが良いだろう。
まずは砂鉄の確認。〔選鉱〕で鉄を指定したところ、無い訳ではないが大した量は集まらなかった。
続いて砂金。こちらは目視出来る量があるだけに、〔選鉱〕で採取出来る量はかなりのものになった。その為、一気に引き寄せるのではなく、川岸に纏めて引き揚げて金の道を作った。
その金を回収しながら進んでいくと、当然そこにあるのは鉱床である。
金と銀、そして石英も確認出来たので、採掘作業に入る。
まず〔振動破砕〕で大まかに崩し、次いで〔振動破砕〕の周波数を少しずつ変えながら塊を砂に変える。
この時、最初に通常の石が崩れ(周波数の初期設定がそうなっている)、それから特定の周波数ごとに崩れる砂をそれぞれ選り分ける。
そうして選り分けられた砂に対し、〔選鉱〕をかけるのだ。これにより既知の金属はかなりの純度で採取出来る。それ以上の精製は後日ゆっくり行っても問題はないだろう。但し、採掘出来る銀は正しくは「硫化銀」の為、後程還元をする必要がある。
未精製の金と石英、それから硫化銀をそれぞれ10t程度収集した。一般に1tの金鉱石から5gほどしか純金は採取出来ないといわれているが、このやり方ならkgの単位で採取出来る筈。また砂金は前述の通りそれ自体の純度が高く、今回採取したものは80%以上の純度と推察出来る(これは前世某金山の砂金浚い体験をした時の経験との比較)。
他にも、オリハルコン化、ミスリル化しているものも数百kgの単位で確保出来た。こちらの精製は必要ない。
「それにしても、驚きました」
「何が? って聞くまでもないか」
「はい。オリハルコンやミスリルが、こんなに大量に纏めて確保出来るなんて」
「その理由は二つある。
一つは、神聖金属が、それぞれの金属が高濃度の魔力に曝されたことで生じるものだということが知られていないから、塊が何らかの理由で何処かに落ちているのを拾うことしか出来ない。
もう一つは、知っていてもその条件を満たすのはダンジョンの奥だ。そこで採掘作業をしようとするのはよっぽどのモノ好きだけだろう」
「ご主人様のように、ですか?」
「そ。俺のように。まぁあとついでに、俺は〔振動破砕〕や〔選鉱〕っていう都合の良い魔法を持っているっていうのもあるけどね。さすがにツルハシとスコップで採取しろと言われたら、ちょっと困る」
「でも、ご主人様を見ていると、無属性魔法が役に立たないという世間の評価が愚かしく思えてきますね」
「役に立たないモノなんてないさ。役立てていないだけのことだ。
どんなものでもちゃんと知っていれば、使い方はあるんだよ」
そして、ここでは量こそ少ないものの砂鉄が採取出来た。ということは、近くに鉄鉱床もあるということ。こちらも期待出来そうだ。
ただ、通路としては行き止まりなので、地底湖まで引き返さなければならなかった。
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ちなみに、この川床に砂金があるということは、地底湖の湖底にもかなりの量の砂金が堆積しているということになる。それも出来ることなら浚いたいが、さすがにそれは欲張り過ぎだろう。
地底湖に戻り、また壁沿いを歩いて行くと、地底湖に注ぐ大きな滝があった。その裏側に回ると、奥へ続いている道がある。
この先には何が有るのか、何も無くても浪漫があるさ。
そう嘯きながら、新たな通路を歩いて行くのだった。
(2,895文字:2015/12/02初稿 2016/07/03投稿予約 2016/08/18 03:00掲載予定)
【注:砂金採取については作家・八重野光弘様のHP内コンテンツ「砂金採りのノウハウ」(http://home.f01.itscom.net/yaeno/golddust.htm)を、鉄穴流しについては日立金属様のHP内コンテンツ「たたらの話」2-6-5頁「鉄穴(かんな)流し」(https://www.hitachi-metals.co.jp/tatara/nnp020605.htm)を、そして金銀鉱については山口大学工学部HP内コンテンツ「学術資料展示館:金銀鉱」(http://www.msoc.eng.yamaguchi-u.ac.jp/collection/element_11.php)を、それぞれ参照しています】
・ 「この先には何が有るのか、何も無くても浪漫があるさ。」は、原典となるフレーズ(があった筈なのですが……)を失念しており、不明です(ご存知の方はご一報くださると助かります)。




