第18話 銅門~スケルトン~
第04節 廃都の王〔3/5〕
「そういう訳だから、今夜はしっかり眠るとしよう」
タギ=リッチーの霊体が立ち去った後、就寝の準備を始めた俺に、シェイラは奇妙な物体を見るような目で俺を見ながら口を開いた。
「……ご主人様。この死霊都市で夜眠ることがどれほど恐ろしいことか、わかっていない訳ではないのでしょう?」
「大丈夫。その死霊都市の王が保証してくれたから」
「それを信じる、と?」
「ああ。あの人は無意味なことはしないよ」
そう。あの人は『余興』と口にした。なら始まる前に不死魔物に食い殺されるなどという結末は望まないはずだ。
「人ではなく魔物です」
「魔物でも、知性があり、言葉を交わすことが出来るのなら、それは人と同じだよ」
「ですが」
「相手を信じろ、とは言わないよ。けど、『相手の立場で考えろ』。彼が今一番望むことは、何だと思う?」
「魔物の望み、ですか。獲物を喰らうことでしょうか」
「アンデッドは食事をしない。生き物を襲うのは、ただの渇望だ」
「渇望、ですか?」
「妬み、とも言うね。生きているってことが羨ましくて仕方がないんだ。何故なら連中は、魔力の歪んだ場所でしか存在することさえ出来ないんだから」
「……魔力の歪み?」
「昨日、〔神聖魔法〕を検証してみてわかった。〔神聖魔法〕は、その歪みを正す魔法だ。本来なら死んだ人の魂は現世に存在し続けることは出来ない。にもかかわらずアンデッドが存在出来るほどに歪んだ魔力空間。それを是正する魔法が〔神聖魔法〕なんだ」
「……」
「話が逸れたね。そんな歪んだ空間にしか存在出来ないから、アンデッドは普通に存在出来る生き物が妬ましい。だから自分たちと同じになれば良いって生者を襲うんだ」
「では喰屍鬼は? グールは人間の死体を食べますが」
「グールはアンデッドじゃない。ただの鬼系の魔物の一種だ。そして獲物として人間の肉を嗜好するだけだ」
「アンデッドじゃない?」
「そうだ。一昨日解剖してみてわかった。寧ろアンデッドの標的になってもおかしくないくらいのね。多分そうならないのは、グールの種族特性なんだろうがね」
「ですが、死体を喰らうのは……」
「全ての生き物は、死体を喰らうよ。クマも人間を殺してから喰らう。今俺たちが食べている肉も、ウサギの死体だ」
「それは!」
「結局、そういうことなんだ。墓地を掘り返し土葬された死体を貪る。考えてみれば野犬と同じことをしているだけだが、人型の魔物がそれを行うことから、邪悪というイメージを持ってしまう。墓地に多く出没するから、アンデッドの一種と認識してしまう」
「……確かに、そうかもしれません」
「邪悪さ加減で言ったら、グールより俺の方が遥かに上だ。一昨日の解剖を見てそう思わなかったか?」
「ご主人様は邪悪なんかじゃありません」
「だとしたら、アンデッドたちの王たるリッチーも邪悪じゃない。彼はただ、退屈なんだと思うよ。抑々俺は、あの人と言葉を交わしたくてここに来たようなものだからね」
「わかりました。ご主人様を信じます」
「有り難う。じゃぁしっかり寝よう。明日は多分、朝から忙しくなるだろうからね」
◇◆◇ ◆◇◆
予想通りアンデッドの襲撃もないまま一夜明け、食事を済ませてから幌馬車を仕舞った。
そして、この馬出曲輪の、入ってきたのとは反対の方向にかかる橋を見据えた。
「さて、この橋を渡ったら、すぐさま戦闘が始まる。準備は良いか?」
「はい、問題ありません」
「武器は苦無の投擲がメイン、魔法は〔神聖魔法〕だ。接近戦は避けろ。
万一指先だけでもアンデッドに触れてしまった場合、すぐに退いて〔解毒魔法〕を掛けろ」
「わかりました」
「じゃぁ行くぞ!」
ご丁寧に銅色に染められた門構え(扉はない)を抜けると、一面の骸骨戦士が出迎えた。
「シェイラ、〔神聖魔法〕!」
シェイラは返事をせずに呪文を詠唱する。そもそもスケルトンは骨を腱で繋いでいる訳ではないのにその形を保っている。その時点で物理法則を無視していると言える。なら動死体を相手にしたときのように足を斬り飛ばせば転ぶということもないだろう。片足で歩く、という有り得ない現象を見せても不思議ではない。そしてそうなると、刃物はあまりに分が悪い。
少し考えて、キャラバンの修理用のハンマーを取り出した。前世から、アンデッドに対しては鈍器と相場は決まっている。
が、意味がない。スケルトンの骨を幾ら砕いても、立体ジグソーのように破片同士が繋ぎ合わさり、またもとの姿を取り戻した。
「ご主人様、魔法を使ってください!」
多分俺は、二つ勘違いしていた。
一つは、スケルトンは実体があるから、それを破壊すれば無力化出来る、と。だが、幽霊を物理的に破壊出来ないのと同じで、いくら実体を破壊しても実質的には効果がない。
もう一つは、アンデッドは夜しか活動出来ない、と。言葉の上ではシェイラに対し「(昼間でも)アンデッドが現れる」と言っていたにもかかわらず、アンデッドが出現することはないと心のどこかで思っていた。そして現れたのがスケルトンだったことから、勝手にスケルトンのことを傀儡の一種だと解釈していたのだ。
だが、実体を持たないゴーストの類は煌々たる灯の下には出れなかったが、実体を持ったゾンビはそれが出来た。なら、実体を持ったアンデッドなら昼間に出てきても不思議ではない。そして、スケルトンは紛う事なきアンデッドだった。なら、そのように対処する必要があったのだ。
けど、俺は天邪鬼。〔神聖魔法〕で対処出来ると知っているのなら、寧ろ〔神聖魔法〕は使いたくない。他の魔法を試してみたい。
取り敢えず、先日開発した魔法〔気弾〕でスケルトンどもを吹き飛ばし、距離を作る。
〔気弾〕の効果範囲外だったスケルトンの殆どはシェイラの〔神聖魔法〕に委ね、一体を対象に〔振動破砕〕を発動。振動周期を慎重に調整し、骨を破砕する周波数を特定する。
骨粉になるまで粉砕したら、いくら何でも再生出来ないようだ。物理破壊は全面的に無意味という訳ではない、と。
続いて〔気弾〕の魔法を開発した時から仕上げに入っていた、とある研究中魔法を元スケルトンの骨粉に向けて発動させる。
空気密度の制御の余波として実現が可能になった、分子運動操作。即ち、温度操作。
無属性魔法Lv.4【気流操作】で風を起こしながら(つまり酸素を供給しながら)骨粉の分子運動を加速させる。そして生じる現象は。
無属性魔法Lv.5【分子操作】派生01.〔点火〕!
一度発動に成功させた魔法を再現するのは容易なこと。
残りのスケルトンたちを片端から焼却処分するのに、それほど時間を要することはなかった。
(3,000文字:2015/11/22初稿 2016/07/03投稿予約 2016/08/02 03:00掲載予定)
・ 今回語られている「アンデッドの気持ち」はアレクの考えであり、それが真実である保証はどこにもありません。
・ 喰屍鬼の種族特性の中には、死毒に対する耐性等もあると思います。つまり、多少腐敗していても問題なく食べられる(もしかしたら腐敗していた方が嗜好に沿う)のかもしれません。




