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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第17話 片岡本陣から馬出門~神聖魔法~

第04節 廃都の王〔2/5〕

 流石(さすが)に余計なことに時間をかけ過ぎた。大して進まないうちに、日が暮れてしまった。(こよみ)はもう、冬の一の月。日没も日を追って早くなる。


 『死霊都市』の本領は、どう考えても夜。(むし)ろ夜は眠らず、昼に交代で睡眠を取った方が、結果として安全だろう。

 道のど真ん中に幌馬車(キャラバン)を出し(馬はカナン市に入る前、セムス村で預けてきた)、中で石炭ストーブを()き、また照明石はキャラバンの内外に取り付け、更に四方に篝火(かがりび)を焚いた。夜は眠らないと決めたとはいえ、夜に動くとも言っていない。流石に夜動くのは自殺行為だろう。シェイラと交代で見張りをしながら、お茶を飲んだり本を読んだりして夜を過ごすことにする。


 と、(あかり)(たか)る羽虫のように、近付いてくる影がある。実体を(ともな)いしかし緩慢(かんまん)な動きの影と、文字通りの影――半透明のモノ――。所謂(いわゆる)動死体(ゾンビ)幽霊(ゴースト)(たぐい)だろう。


 動きの遅いゾンビは()()えず放置して、ゴーストの動きを注視する。

 が。焚いた篝火が(あたか)も結界のようにゴーストの動きを(はば)んでいる。

 その理由を考察するのは後回しにして、それならゾンビの方を先に対処しよう。

 苦無(くない)を〔射出(インジェクション)〕し、冒険者風のゾンビの足を吹き飛ばす。ゾンビは転んだ。起き上がれない。どうやらその動き自体は物理法則に従っているようだ。

 次いで、別のゾンビの頭部を吹き飛ばす。変わらず動く。行動そのものは脳の指令を必要としていないということか。もっとも、その脳は既に腐敗(ふはい)しているようだから、思考しているとは初めから思っていなかったが。

 ふと見ると、先程足を吹き飛ばしたゾンビが()()って近付いてくる。目障(めざわ)りなので、習ってから今まで一度も使ったことのない魔法を試してみる。

 【生活魔法】の一つ、〔神聖魔法〕。

 “神聖”と(めい)打っていても、別に神職でなければ使えないというモノではないらしい。勿論(もちろん)信仰の深さと効果の大きさは比例すると「教えられて」いるが。

 では精霊神など(はな)から信仰していない俺の場合、どの程度効果を発揮するだろう?

 ……結構効果があった。効果範囲内にいるゾンビたちのみならず、近くにいたゴーストたちにも作用した。だが、なら冒険者がアンデッドを恐れる理由はないと思うが。


 わかった。明るさだ。

 篝火が作用したのか照明石のおかげか、或いはどちらも関係なくただ煌々(こうこう)たる明るさの所為(せい)か。絶対安全な場所を確保出来ているから、その中から〔神聖魔法〕を放っているから、大した労なくアンデッドを滅ぼすことが出来るのだろう。

 そういえば、前世で「死ぬことは眠ること」という言葉を聞いたことがある。眠りと縁の遠い明るさ。これが『死』そのものであるアンデッドを遠ざけているのだろうか。


 ふと、ゾンビの中に見知った姿を見つけた。俺が傷を(いや)しながら魔石を抜いた喰屍鬼(グール)だ。グールのゾンビ。もはや何が何だか。丁度良いから実験をする。

 そのゾンビを解体する。手足を千切り、首を()ね、(どう)を十字に()つ。完全に動くことの出来ない肉片になったとき、そのゾンビからゴーストが()いて出た。

 つまり、ゴーストが死体に憑依(ひょうい)したモノが、ゾンビということになる。〔神聖魔法〕が効果を発揮するのは、死体の中のゴーストを消滅させたからなのだろう。


 もう一度〔神聖魔法〕を発動させる。今度は周囲の魔力の偏差(へんさ)に注視しながら。通常、魔法を使用するとその周辺の魔力が大きく()らぐ。その揺らぎが事象を改変するのだ。

 この廃都カナンは全体的に魔力が濃い。だが〔神聖魔法〕を放った時、その周囲の魔力が極端に薄れた。すぐに元の濃度になったが、即ち〔神聖魔法〕は魔力濃度を薄めることで、高魔力濃度下でなければ存在を維持出来ないゴーストの(たぐい)を消滅させると同時に、(一般空間にあっては)魔力の異常偏差を是正する働きのある魔法なのであろう。


 これでこの辺りに出没するアンデッドに対する考察は充分だろう。シェイラにゾンビ(グール)とゴースト相手の対処方法を教え、俺はキャラバンの中に引っ込むことにした。が、寝はしない。おそらく寝ると、アンデッドに対する結界効果が弱まるだろうから。


◇◆◇ ◆◇◆


 翌朝。日が昇ると、周囲にゾンビであった死体が散乱していた。流石に気分悪い。

 シェイラとともに死体に油を()き、火を()けた。火は浄化の(あかし)。別に精霊神の教えに沿()うまでもなく、燃やして灰にしてしまえばゴーストが()(どころ)にすることも出来ない。また屍毒(プトマイン)苗床(なえどこ)になることもない。グールを解剖した後も、ちゃんと処置してやれば良かったと、今更ながらに反省する。


 堀(水堀だが、その水は腐敗臭がする)を越え、次の内堀を抜けたところでまた野営の準備をする。所謂(いわゆる)曲輪(くるわ)中洲(なかす)のような場所)だが、それだけにゾンビどもの襲来する方角を限定出来る。


 灯を(とも)して夜を過ごすが、今夜はゴーストどもが現れない。何か違いがあるのか? と思っていると、一体のゴーストが現れた。

 いや。ゴーストというにはその眼光に力があり過ぎる。悪霊(ファントム)……、否、霊体(スペクター)だ! 生前の渇望(かつぼう)に従って動くだけのゴーストや、生前の悪意に従って動くだけのファントムなんぞとは格が違う。幽体でありながら自意識を保ち、おそらくは魔法の行使も出来るだろう。

 だが、この廃都にそんな高位存在がいるだろうか? 自意識があるということは、目的や意図があるということ。この廃都に、その王たる存在の他にそんなモノがいる余地があるのだろうか?。

 つまり、このスペクターの正体は。


「わざわざ王(みずか)らこのような地にまで御出(おい)で下さり光栄です」

「フン、我を王と見極めるか。しかし、ここもまた我が城の一部。『このような地』とは随分(ずいぶん)失礼な()(ぐさ)ではないか?」

「ここは馬出(うまだし)門。入城の際騎乗が許される、ぎりぎりの場所です。

 王は奥の間に居て下々の謁見を待つものであれば、ここまで出向いて下さるのであれば歓喜に()えません」

「馬出門。何故その言葉を知る?」

「入間史郎氏。シロー・ウィルマー氏の手記に(しる)されておりました」

「シローか。懐かしい名を聞いた」

「ではやはり、魔術師タギ様でいらっしゃいますか?」

「その名は既に捨てた。今はリッチーと名乗っている」

「ではリッチー様。色々と(うかが)いたいことがあります」

「“このような地”で、か?

 どうせなら、貴様の言う通り奥の間で相手をすることにしよう。久方(ひさかた)ぶりの余興になるだろうしな」

(かしこ)まりました。王の無聊(ぶりょう)(なぐさ)める一助となれば」


「では今夜はゆるりと休むが良い。霊どもにも今宵(こよい)ここに手出しをすることを禁じておこう」

(2,993文字:2015/11/21初稿 2016/05/31投稿予約 2016/07/31 03:00掲載予定)

【注:本節のタイトルは、本丸に踏み込むまではカナン市を小田原市(小田原城)に置き換えた場合の現在位置と捉えてください。

 「死ぬことは眠ること」という台詞は、ハムレット(ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『Hamlet』)の台詞の引用です。この中で、「To die: to sleep;/ No more; and by a sleep to say we end/ The heart-ache and the thousand natural shocks」(第三幕第一場)とあり、この邦訳が「死ぬことは眠ること。ただそれだけだ。眠ってしまえばこの心の痛みも幾千の衝撃も終わらせることが出来る」(たかあきら訳)となります。ちなみにこの場面に於けるハムレットの台詞の冒頭は、かの有名な「To be, or not to be: that is the question:」です。

 「プトマイン」(ptomaine=屍毒/死毒)という毒は実在しません。ここではサルモネラ菌、ボツリヌス菌、ブドウ球菌、等の細菌性毒素並びに腐敗毒の総称として挙げています。

 「リッチ」は古期英語で「死体」を意味します。著作権的に微妙ですが、1.古期英語その他の言語由来のアンデッドの名称(グール、ゾンビ、キョンシー、ワイト、レイスなど)は一般名詞と考えられる、2.後述の版権を所有する出版社以外の出版社から刊行される作品でもアンデッドの名称として「リッチ」が使用されているものがある、3.「リッチ」は(モンスター等の名称として)商標登録がされていない、4.米国では版権問わずリッチの名称のアンデッドが描かれている、などの理由から著作権は存在しないものと判断し、本作に於いて一般名詞として使用しています。

 ちなみに、この「著作権的に微妙」というのは、著作権の存在の有無の他、著作権者(具体的には翻訳版権者)の「リッチ」という名称に対する取扱いの不明瞭さを指していいます。「リッチ」という名称に関し、アンデッドとしてのリッチの初出は米国の小説でその小説の邦訳出版社は創土社、ゲームモンスターとしての初出はD&D®で、D&D®の邦訳版権は現在ホビージャパン社が所有しております。以前某漫画家がD&D®のオリジナルモンスターを自作品に使用した時、当時D&D®の邦訳版権を所持していた新和社との間でトラブルに発展したという事件があったこと等から、トラブルを忌避して「リッチ」の名称を使用しない作品は多いというのが出版界の現状です。……最近はそれほどでもないようですが】

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