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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第16話 江戸口見附~グール~

第04節 廃都の王〔1/5〕

(今回はグロ注意。マッドサイエンティストの本領発揮回です)

 幼少の頃、帝都カナンの全体図を本で見た時、どこかで見たような気がしていた。

 そして最近になって帝都の設計者の一人が転移者である入間史朗氏と判明し、その手記を読み、()に落ちた。


 カナン市は中世欧州(ヨーロッパ)城塞(じょうさい)都市ではなく、小田原城の総構(そうがまえ)を参考に設計されていたのである。勿論(もちろん)、平地と海辺の違いはあれど、長大な城壁(土塁(どるい))と複雑に入り組んだ水堀(みずぼり)空堀(からぼり)、そして計画的に配置された生産拠点。町を抱え込むのではなく、城壁の内側で生産と消費を完結させられる配置。それがカナン市であった。

 惜しむらくは、カナン暦78年の帝都防衛戦時には、その長大な防衛陣を維持出来るだけの戦力が帝都側になかった為、第一城壁(外周部)を放棄し、本城とその附随(ふずい)施設(大手門より内側)のみで防衛戦を行わざるを得ず、結果その無限に等しい生産力を活かすことが出来なかったようである。


 今、俺たちが足を踏み入れようとしているのは、小田原城なら『江戸口』に相当する場所。

 既に空堀となっている外堀の上を渡り、今では『廃都』『死霊都市』などと言われている帝都遺跡に足を踏み入れた。


◇◆◇ ◆◇◆


 廃都カナン。『死霊都市』の異名の通り、不死魔物(アンデッド)闊歩(かっぽ)する魔境(まきょう)だと()われている。

 アンデッドを研究対象としている者にとっては、アンデッドが出没し易い夜間の街を見て回りたいものだが、流石(さすが)にそれは物好きが過ぎる。というか、市内を歩いていれば嫌でもアンデッドに遭遇するだろうし、市内で野営しないで済むとも思えない。わざわざ夜間を選ぶ必要もないだろう。


 前世の虚構(フィクション)では、アンデッドは日光を嫌うとあったが、さて?


◇◆◇ ◆◇◆


 廃墟と化した街を歩いていると、(あたか)も死者と小鬼(ゴブリン)を足して二で割ったような魔物が(うごめ)いているのがわかる。喰屍鬼(グール)だ。グールは生者(オレたち)に気付くと、こちらに襲い掛かってきた。


「シェイラ。()()えず殺さず動きを止めろ」

「了解しました」


 グールの足を斬り飛ばし、また半身を両断し(これでも死なないところはアンデッドの面目(めんもく)躍如(やくじょ)?)、襲い掛かって来たグールどもを無力化した。

 ……というか、「不死魔物」に対し「殺すな」という指示に疑問を覚えないシェイラは、随分(ずいぶん)染まってきているというべきか。


 周辺の警戒をシェイラに任せ、俺はグールの様子を観察する。

 その瞳には、精気(せいき)の色も恐怖の色も見える。これは死体じゃない。明らかな生き物だ。

 その胸を()く。グールは苦しみに(もだ)える。痛みを感じている証拠だ。

 その臓器の隙間に手を入れる。生温(なまあたた)かい。体温がある。間違いない。グールは(前世の物語(フィクション)区分(カテゴライズ)される)不死魔物ではない。

 そのまま体内を探る。どうやら絶命したようだが、気にせずに解剖を続ける。

 やがて魔石の位置を特定する。人間でいう丹田(たんでん)鳩尾(みぞおち)の位置)。ゴブリンは心臓の近くにあったから、そこが違う。

 魔石を抜いた後、次のグールの(どう)を裂く。心臓から魔石の位置まで。どうやら力加減を間違えた。このグールも絶命した。

 三体目のグール。こちらは慎重に、死なせないように皮膚(ひふ)を裂く。心臓の鼓動(こどう)を確認。どうやら内臓の配置は人間と大差ないようだ。

 魔石と心臓を(つな)(けん)のようなものがないかどうかを確認する。見つからない。魔石の周辺から他の内臓組織に繋がる繊維質のモノがないかどうかを確認する。見つからない。(むし)ろ周辺細胞と魔石が一体化しているかのように映る。

 この様子に見覚えがある。シェイラに埋め込まれた魔石だ。あれも周辺細胞が魔石と一体化して脂肪(しぼう)(しゅ)となっていた。つまり、身体の一部細胞だけではなく体全体が魔石と一体化した時に、その生き物は魔物になるのだろう。

 シェイラは魔石を埋め込まれても数年間は人間(獣人)として生き(なが)らえた。一方イノシシは、魔石を埋め込み十数分で魔猪(ボア)に変化した。これはおそらく人間(獣人)とイノシシの差。魔力耐性か、それとも“存在の変質”に抵抗する力か。シェイラが獣人だったからか、人間であっても同じだったか、それは試してみないとわからない。丁度良いことに魔石を埋め込まれて放置されている女性が10人以上いる。知り合いの商人を頼り彼女らの追跡調査をし、その後の様子と何年生存出来るかの統計を取れば――。


 ……待て。どう考えても『悪神(ザコルス)の使徒』の頭領たる魔法技研の所長より、俺の発想の方が邪悪だろう。人間に対する研究プランは破棄したと、俺はシアに宣言したじゃないか。

 気を取り直し、そのグールに(とど)めを刺してから魔石を抜く。いや、間違えた。

 次のグールに対しては、まず〔(ストラグル)(・バインド)〕でその体を拘束してから〔治癒魔法〕〔回復魔法〕をかける。グールの傷も回復した。治療魔法は魔物に対しても有効。これはちょっとした発見である。

 次いであまり大きな傷を付けないように注意しながらその腹を裂き、メスを取り出し慎重に魔石の周辺細胞を切り開き、魔石だけを抜き取った。その上で再び〔治癒魔法〕と〔回復魔法〕をかけ、傷を(ふさ)ぐ。しかし、見る見るうちに衰弱(すいじゃく)し、やがて事切(ことき)れた。どうやら魔物にとって生命活動と魔石は不可分のようだ。


 これ以上は大した成果はないだろうと、残りのグールを処分し魔石を抜いた。

 グール。この魔物はゴブリンなどと同じく、鬼系の魔物の一種であり、ただハイエナのように死肉を()らうことを好むだけの生き物なのだろう。(かつ)て『鬼の迷宮』第十五層の構造が、どの魔物にとって有利か不明だったが、薄暗くて身を隠す場所の多いあそこは、グールが跳梁(ちょうりょう)するのにピッタリかもしれない。ただあの時は幸か不幸か出会うことがなかっただけで。

 グールという魔物の生態をもう少し調査してみたいという欲求はあるが、これ以上はキリが無い。この辺で次に行こう。


 その後現れた人面鳥(ハーピー)も同様に拘束して解剖し、俺の研究の(かて)とした。ちなみに、上半身鳥・下半身人間のハーピーの身体構造はとても興味深かった。だがこの翼の大きさを考えると、胸筋や烏口(うこう)上筋(じょうきん)(翼の付け根の筋肉)の筋肉量やその他に関しどれだけ都合の良い数値を(あて)がっても、飛翔するに足る揚力(ようりょく)を得られるとは思わない。

 つまり、飛翔それ自体は魔法の助けを得ていることになる。飛翔をする為に魔法がどのように作用しているか、それを知る為には生きたハーピーと友好的な関係を築く必要がある。


 残念ながら現状ではまず不可能だろう。

(2,907文字:2015/11/20初稿 2016/05/31投稿予約 2016/07/29 03:00掲載 2016/10/09下記注釈に於ける小田原市の所在を静岡県としていたので修正)

【注:本節に於いて、帝都カナンの地図の代替として小田原城の地図を使用しています。詳細は神奈川県小田原市公式HPにある小田原城パンフレット(http://www.city.odawara.kanagawa.jp/kanko/odawaracastle/info/pamphlet/)内「小田原城総構を歩こう」などを参照してください】

・ ここで言う「欧州の城塞都市」は、軍事拠点としての側面と平民の生活拠点としての側面を有している都市を指し、商業活動は出来ても農業・酪農等の生産活動をする空間は確保されていない都市のことを言います。一方で「小田原城の総構」は、そういった生産・工業の拠点も城壁(土塁)の内側に擁する都市のことであり、その区分が歴史的・語義的に正確かどうかは配慮しておりません。

・ 本文中に於いて「ただハイエナのように死肉を喰らうことを好むだけの生き物」と記述していますが、ハイエナもトラもヒョウも、死肉を漁ることに躊躇いはないので、自分が捕えた獲物しか食べない訳ではないようです。ハイエナが捕えた獲物をトラが食べることも、トラが捕えた獲物をヒョウが食べることもあるといいます。なお、格言の中に「虎は飢えても死したる肉を食わず」(「渇しても盗泉の水を飲まず」と同義)というのがありますが……。

・ 『鬼の迷宮』については、第一章第46話を参照してください。

・ ちなみに破傷風菌等に対する予防はちゃんとしています(マスクと手袋、皮膚の〔解毒魔法〕による洗浄その他)。

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