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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第三章:「異邦人は歴史学者!?」
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第12話 対決

第02節 悪神の使徒〔8/8〕

 旧カナン帝国帝都カナンにほど近い、丘陵地帯。

 ミルトン侯爵邸で押収した資料に()れば、そこに魔法技研の秘密研究所があるという。つまりは『悪神(ザコルス)の使徒』の本拠地だ。


 そこまでは、馬を飛ばして約二日。おそらくは侯爵からの早馬が先行しているだろうから、秘密裏に犠牲者たちを救出する、という訳にはいかないだろう。多分、到着と同時に戦闘になる。


「つぅ訳で、役割分担。

 おっさん(マティス)は犠牲者たちの救助。

 俺たちは『悪神の使徒』の頭目にご挨拶に行く。

 出来る限りの(つゆ)(ばら)いはするけど、そこから先はおっさんの腕次第だ。

 ドジ踏むなよ」

「ガキどもに言われたくねぇよ、って言いたいところだが、侯爵邸の襲撃の手際を見ると、お前たちの言い分の方が正しいのかもしれないな。

 無理はしねぇ。無理なら退()いて、お前たちの到着を待つ。それで良いな」

「……自分の手で(めい)っ子を救出する、とは言わないんだな」

「重要なのは姪っ子(プリムラ)を救出することであって、誰が助けるかじゃない」

「おっけ。


 それからシェイラ。幹部連中は別として、全員殺そうと考える必要は無い。

 逃げたい奴は逃がしてやれ」

「良いんですか?」

(した)()だけなら、放っておいても何も出来ないだろうさ。

 というか、ミルトン侯爵らにとっては、自分たちの悪事の生き証人だ。侯爵らの方が生き残りを処分してくれるよ」


◇◆◇ ◆◇◆


 どうせ戦闘になるのなら。どうせ全員と闘うことが前提なら。

 こそこそするのは、もう()きた。


 という訳で、真正面からヒミツの研究所を訪問することにした。

 近くに馬を(つな)ぎ、三人で歩いて研究所に向かうと、法衣(ほうえ)(まと)った神職と(おぼ)しき男たちが10人くらい出てきて、こちらに杖を向けた。


 考えてみれば、初めての人間相手の魔法戦闘。今俺の使える魔法で最も有効なモノは。

 無属性魔法Lv.2【群体操作】派生04.〔大地(アース)(ランス)〕。

 新開発の魔法だが、これが結構えげつない。

 一定範囲内の地面が、ある程度の間隔を空けて鋭利な槍状になって天に延びる。

 その一撃で絶命したら、その方が幸運だったろう。

 即死出来なければ、モズの速贄(はやにえ)の如く槍の上で失血死を待つより他はなく、それが手足なら、重力に負けて手足が千切れる。

 そして槍の照準から外れた為に地面にいて死なずに済んだ者は、逃げる場所もないまま第二波の槍を足元から受けることになる。


 モノの数秒で、迎撃に出て来た研究所員は全滅した。


「おめぇ……」

()けてる暇はないよ。行くよ」


 続いて取り出したるは、大槍(ジャベリン)(かつ)てミノタウロスを(ほふ)った大槍である。これを全力で研究所の正門に向かって〔穿孔(ペネト)投擲(レイター)〕で投擲(とうてき)した。

 『鬼の迷宮』を攻略した時より魔力量も上がっている上、槍そのものも質量増加している為、ちょっとした扉位なら一撃で粉砕出来る。

 ……と思っていたら、どうやら研究所の建物そのものを貫通する一歩手前だったようだ。


 これにより研究所員(或いは『悪神の使徒』の構成員)の戦闘意欲そのものを()ぎ落とすことが出来たようだ。

 研究所に入り込み、そこでおっさんと二手に分かれた。所内の構造は、既に全員の頭に入っている。


◇◆◇ ◆◇◆


 時折現れる研究所員に対しては、俺の〔散弾(ショットガン)〕とシェイラの鉄串による飽和(ほうわ)攻撃で、あっさり(ハチ)の巣になって事切(ことき)れた。

 そして、研究所長の執務室に辿(たど)り着き、その(ドア)を開けた。


「初めまして、というべきですかね?」

「何者だ?」

「うちの家族が貴方にお世話になった者です」

「貴様の家族?」

「えぇ、ここにいるシェイラの体の中に、魔石を埋めてくださいましたでしょう?」

「あの時の獣人の娘か」

「おかげでシェイラは、魔力の自家中毒を起こして死にかけました」

「良く助かったものだ」

「魔石は摘出(てきしゅつ)しました。彼女の胸元を飾っている魔石がありますでしょう? これが、貴方が埋め込んだ魔石です」

「ほう、そんなに大きく育ったか」

「もしかしたら、低位の魔石を高位の魔石に(ランク)上げ(アップ)させるには良い手かもしれませんね」

「同感だ。まさか同じような考え方が出来る人間が、他にいるとはな」

「それは違うでしょう。俺は、生来こういう人間でした。では貴方は?

 誰かの影響を受けて、そういう考え方をするようになったのではないですか?」


 この時、これまで能面のような無表情を貫いていた男が初めてその表情を動かした。


「何のことだ?」

「貴方が独自の発想で、そんな考え方が出来るようになったのなら、それはそれで立派です。事の善悪は置いてね。

 けど、貴方の考えは誰かからの借り物だ。だからこそ、貴方は考察の前に実験をする必要があり、その為多くの被検体(ひけんたい)が必要になった。

 そして無意味な実験を繰り返したんだ」

「無意味ではない。これは偉大な成――」

「偉大な成果に至る、小さな一歩、ってか?

 逆に聞くが、あんたは小鬼(ゴブリン)を何体解剖(かいぼう)した? 中鬼(ホブゴブリン)は? 大鬼(オーガ)は? 犬鬼(コボルト)は? 豚鬼(オーク)は? 牛鬼(ミノタウロス)は?

 魔石が鬼系の魔物にどういった影響を与えているのか、一定の考察をしたのか?

 各種族の違いと魔石の関係性について、どれだけ検討した?

 鬼系の魔物から生きたまま魔石を抜いたらどうなるか確認したか?

 人間の前に、野獣に魔石を埋め込む実験は何体した? それぞれの結果の違いの比較をしたか?

 人間の体に魔石を埋め込むなんて、子供でも出来る。研究者を名乗るなら、そんなことの前に出来ることなど(いく)らでもあるだろうに」


 興奮のあまり、形だけの敬語もどこかに飛んで行ってしまった。全く(もっ)て、なってない。

 俺のゼミでこんな研究レジュメを持ってきたら、その場で再提出(リテイク)を命じるところだ。


「貴様は、私が非人道的な実験をしたことを(とが)めている訳じゃないのか?」

「俺の家族を巻き込んだことは腹立たしいが、科学(サイエンス)の進歩の為にはある程度の人体実験は必要だろう?」

「……さいえんす?」

「わからないならわからないで良い。

 お前が何を目指しているにしろ、お前の研究にテーマはなく、お前の研究は誰にとっても益にならない。だからお前の研究をこれ以上継続することを認めない。

 もう一度聞く。お前は誰の影響を受けてこの研究を始めた?」

「答えたくない。そう言えばどう――」


 俺は鉄串を投げ、その右(ふともも)を貫いた。


「答えたくなるまで射的の標的(まと)になるのが望みか?」

「……、わかった。答えよう。

 廃都の王、だ」

「廃都。つまり帝都カナンの遺跡、か」

「そうだ」


「良くわかった。俺の聞きたいことは以上だ。

 シェイラ。あとはお前の好きにしろ」

(2,858文字:2015/11/18初稿 2016/05/31投稿予約 2016/07/21 03:00掲載予定)

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