挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生者は魔法学者!? 作者:藤原 高彬

プロローグ

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

1/357

P1 新生児は哲学者!?

プロローグ〔1/4〕
 初めに感じたのは、(すさ)まじいまでの、激痛。
 髪の全てを引きちぎられ、全身の全ての皮膚の皮が()かれ、更にそこに火鏝(ひごて)を当てられ、おまけに全身の骨という骨・関節という関節を砕かれたような痛み。

 余りの激痛に悲鳴を上げようとするが、声が出ない。(いや)、それどころか息が出来ない!

 このまま死んでしまうのか。死の恐怖と絶望に、もし誰かが俺を救ってくれるというのなら、何を手放しても構わない。そう思ってしまった。

 けれどそんな時。声が聞こえた。

「なんだ、もう忘れたのか? 『ピンチの時、恐慌状態(パニック)になったら死は目前。まずは落ち着いて、周囲を見よう。そうすれば必ずその状況を改善するヒントがある筈だから』。いつも言われていただろう?」

 それは、誰でもない【俺】の声。
 そうだ。痛みで気が遠くなりそうだが、一つ一つを確認してみれば良い。

 痛く感じるのは、それこそこれまで感じたことない環境に身を置かれたから。(あたか)も普通の空気の中から熱湯の中に飛び込んだが如く。安全が確約されていた環境から外に出された為、ただ空気に触れるだけでも激痛が走るのだ。けど、ここが俺が生きる場所なのだろう。
 骨が砕かれそうに痛いのは、外的な力で無理矢理引っ張られているから。痛みと苦しみと悲しみしかないこの世界に、誰かが俺を無理矢理引きずり出そうとしている。だけど、ここで生きろと誰かが言っているのだろう。

 苦しいのは……、抑々(そもそも)俺は呼吸をしていないからだ。今までは呼吸さえ必要ない、安らかな世界で微睡(まどろ)んでいたのだから。
 なら落ち着いて、呼吸をすれば良い。

 痛みも、苦しみも、まだ続いている。もしかしたらこれから更に多くの苦難が待ち受けているかもしれない。けど、俺はそれでもこの手のうちにあるものを何一つ取り(こぼ)さない。この(たなごころ)を握りしめ、これから俺は生きて行く。

 さあ。
 命の気(いき)を吸い。
 そして、それを吐き出そう。
 今俺の体内に、命の気(いき)があることを(あか)す為に。
 そして一緒に、思いのままに、今の気持ちを声に出そう。世界中に響けとばかりに、腹の底から力を入れて。

「おぎゃ~~~~~~~~~~~~!」

 そして今、俺はこの世に生を享けた。

◇◆◇ ◆◇◆

 この世に生まれ、最初に見たのは、ただ白い光だけ。網膜というより、脳が働かない状態で光を見ると、このように映ることを【俺】は知っている。

 まず感じたのは、恐怖。何もわからない、「未知」という名の恐怖と不安。

 続いて感じたのは、安らぎ。どんな恐怖も不安も包んで溶かしてくれると信じられる、暖かさと柔らかさ。

 けれど、その次に感じたのは疑問であった。「ここは一体、何処(どこ)なんだ?」

◇◆◇ ◆◇◆

 交通事故か何かで、病院に運ばれたという訳ではなさそうだ。「白い光」しか見えないのは、視力((ある)いは視覚認識力)が正常ではない為、ただ「光」と「(かげ)」だけを認識しているからのようだ。
 耳から入ってくる「音」も、何らかの意味ある言葉の羅列なのだろうけど、それが「言葉」として認識出来ない。
 体に力を入れても、まるで力が入らない。いや、指先が動いた? そうしたら、「音」がまるで歓喜に爆発したかのように(ざわ)めいた。

 自身が、嬰児(みどりこ)に転生したことを悟るまで、それほど時間を必要としなかった。

 むしろ、何故自分がここまで落ち着いているのか。その方が疑問であった。
 異世界転生物のネット小説を読み漁っていたから? 記憶にないだけで、例の「白い部屋」とやらで神様から事情の説明を受けている?

 そもそも、神とやらは実在するの? ここは異世界? 魔法や魔物は存在するの?
 この世界の歴史は? 風俗は? 宗教は? 文化レベルは?

 気になること、考えることは山ほどある。
 「生まれ変わり」と断じているけど、それは本当なのか? ただ【俺】の自我と記憶が転写されただけで、この赤子は【俺】とは何ら関係ないのではないか? 【俺】は元の世界で変わらず生きているのではないか? そもそも【俺】とは一体何なんだ?

 常識的に考えたら、考える意味さえないようなこと。けれど、今の俺には考える時間がある。
 何せ、今の俺に出来ることは泣くことと笑うこと、乳を吸うことと(クソ)をすること、寝返りを打つことと眠ること。それだけだ。

 なら、有り余る時間で思索(しさく)(ふけ)るのは、間違った時間の使い方ではないであろう。
(1,834文字:2015/07/19初稿 2015/12/25投稿予約 2015/12/31 11:00掲載  2016/08/08誕生のシーンを加筆 2016/11/01脱字修正 2016/11/22誤字修正)
【注:出生のシーンの描写の原典は、仏教の経典の中にあります。申し訳ありませんが、経典名を確認し忘れました。ご存知の方はご一報ください。なお経典では人は誕生時の激痛により、それまで知っていた過去世のことを全て忘れてしまい、だからこそ赤子は取りこぼした記憶を惜しみ、手を伸ばしてそれを掴もうとするのだそうです】
・ 『ピンチの時、恐慌状態(パニック)になったら死は直前。まずは落ち着いて、周囲を見よう。そうすれば必ずその状況を改善するヒントがある筈だから』は、スキューバダイビングに於ける鉄則です。パニクったら、即ち死。【彼】は前世に、それを叩きこまれていたのです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ