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第24話 ソウルイーター



「貴様は他の有象無象とは違い、物事を冷静に思考することができる頭がある。ゆえに訊こう。貴様はこの世界で何を為そうとしている?」

「は? そ、そりゃあの馬鹿でかい篝火のところに行く……それが俺たちの唯一の目的だろ?」


 “ソウル”、自らのことをそう呼べと強要してきた天災のカガリビトの目前で、現在俺は正座をしているところだ。

 案の定ソウルを殺すことに失敗してまたもや気絶してしまった俺だが、なぜだかもう一度目覚めてもまだ死んでいない。しかもご覧の通りソウルとは気さくな会話をする間柄になってしまっている。

 目を覚ました俺に、ソウルは約束通りほとんどの疑問に答えてくれた。

 この荒風吹き荒れる山頂は、ディオニュソス山脈に連なる高山の一つらしい。まあディオニュソス山脈なんて知らないけど。

 そしてソウルの言葉を信じるならば、とりあえずミヤとアルタイル、そしてエビも無事。

 だがミヤたちがあの後どこに消えたのか、さらに言えばなぜこいつが急に俺に協力的になったのかはわからないまま。

 どう考えてもこいつを殺すことに失敗したはずだが、一体どういう理由わけで俺は生かされ、こんなところに連れてこられたのだろうか。


「たしかに私たちはディアボロの篝火を辿り、闇の時代を終わらせろと“主の声”に言われている。しかし現実問題、ただ単に篝火の下へ向かって行っても、圧倒的な力の前に屠られるだけだ」

「ああ、そういえば、闇の三王? だかなんだか知らないけど、凄いヤバそうな奴らが篝火のところにはいるんだよな」

「そうだ。闇の三王。奴らは強い。今の私でも、彼らの足下にも及ばないだろう」

「今のあんたでも!? マジかよ。なんだそれ。絶望的じゃんか」


 ここまでソウルの話を聞くところによると、こいつは俺のことを鍛え上げる、つまりは指南役になってくれるつもりらしい。

 これまたなぜそんな話の流れになったのか、サッパリわからないが、この化け物染みた強さの秘訣を教えてくれるならば、それはかなりありがたいことだ。

 それにしても闇の三王。噂以上にヤバい奴らのようだな。


「だが私たちには、唯一闇の三王に勝っている能力ちからがある。私や貴様の他にも、弱く愚かなカガリビトにも共通する能力だ」

「全てにカガリビトに共通する力? しかも闇の三王に勝っている? なんだよそれ。本当にそんなものがあるのか?」


 闇の三王に勝る隠された能力、と言われて真っ先に思いつくのは俺の“悠久の時イーオン・テンプス”だ。

 だけど俺の勘や経験から察するに、この力はおそらく俺だけのもの。

 全カガリビトに共通する能力。それが一体なんなのか、特別頭の回転が速いわけでもなんでもない俺には皆目見当がつかない。


「ああ。私たちだけにあって、闇の三王やニンゲンには存在しない能力、いや概念と言っていいだろう。……それは、“レベルアップ”だ」

「レベルアップ?」

「そうだ。貴様は今、何レベルだ?」


 いきなり出てきた予想外の単語に、俺の鈍い頭が急停止する。

 レベルアップって、それは、あれなのか? ピコンと音が鳴って、突如わけのわからないパワーアップを果たすあれのことなのか?

 自分が想像している事柄と、ソウルが口にした言葉の意味が同じなのか判断するのに困ってしまう。

 しかも俺が今何レベルだとか。そんなの当然知らないし、祝福のファンファーレに吹かれた記憶も一切ない。

 

「悪いんだけど、そのレベルアップとかいう言葉の意味がわからない。いや、もしかしたら知ってるかもしれなんだけど……まあ、とにかく今の俺が何レベルなのかとかは俺が教えて欲しいくらいだよ」

「知らない? そうか。あくまで一般的にはレベルアップと呼称されるだけだからな、無知そうな貴様が知らなくても無理はないか」

「なんか腹の立つ言い方だな」

「まあいい。貴様の身体のどこかに数字が刻まれているはずだ。探せ」

「は? 数字?」


 なんだかわからないが、とてつもなく見下されている感じがする。

 実際こいつは俺より遥かに強く、たぶんこの世界に関する知識も豊富なので、俺の上位存在であることは間違いない。

 だがムカつく。いつかこいつを絶対に打ち負かしてやる。


「……66? なんだ、これ?」

「見つかったか。それは貴様の現時点のレベルだ」


 とりあえず言う通りにして身体中をまさぐってみると、お尻の辺りに66という数字を見つける。

 これまで全く気づかなった。だけどこの感じだと、レベルというのは本当に俺の想像通りの概念なのかもしれない。

 そういえば知らない間に、あの拾ったローブを失くしてしまったようだ。


「もしかして、この数字が大きければ大きいほど強い、みたいな?」

「そうだ。カガリビトの強さはその数字で決まる」

「ひょっとして、あんたの胸に刻まれてるその167って数字は……」

「ああ、私の今のレベルは167だ」

「うげぇ……やっぱりか」


 どうりで勝てる気がしなかったわけだな。

 尋常ではない実力差。自分もカガリビトの中では強い方だと思っていたが、まさに井の中の蛙大海を知らず。勘違いもいいところだったようだ。


「私たちカガリビトには限界がない。闇の三王はたしかに強いが、これ以上成長することはないだろう。そして人間もまた私たちのように成長するが、彼らには個体ごとの限界がある。つまりは、私たちのこのレベルという能力が最大の武器にして、唯一の可能性だ」


 俺は思わず生唾を飲み込む。

 こいつは俺の遥か先を歩いているというのに、いまだ強さを求める意欲は衰えず、むしろ誰よりも貪欲に強くなろうとしている。

 やはりこいつは化け物だ。

 限界がないとは言うが、俺がこいつに追いつくことは果たして本当に可能なのだろうか。


「加えて言っておくと、私は貴様にもう一つの可能性を見出している」

「もう一つの可能性? レベルアップ以外のか?」

「ああ、そうだ。しかしそれはまだ問題外だ。まずは最低でも200レベルは欲しい。貴様の可能性を活かすには、それくらいの土台が必要だろう」

「はあっ!? む、無理だろ! そんなレベルに達するまでにどんだけ時間がかかると思ってるんだよ!?」


 レベルに関する講義が終わったと思えば、突如ムチャ振りが過ぎる到達目標をソウルは掲げる。

 まさに見た目通りのブラックだ。

 この強さを手に入れるのにもかなり苦労したというのに、この怪物はいささか価値観が狂っている。というか200レベルって、こいつよりも上じゃないか。


「普通のカガリビトなら、気の遠くなる時間が必要になるだろう。私たちに残された時間は想定以上に短いゆえ、本来ならレベルアップ以外の可能性を模索するつもりだった。これもその内の一つだったからな」

「お、おい。それ俺が見つけた――」

「しかし、貴様に会い、私は考えを改めた」


 これもと言いながらソウルが手に持ったのは、スノウスクアレルがいた洞窟の篝火の中にあった刃のない剣だ。

 それ俺の、と所有権を主張しようとしたのだが、実にナチュラルに流されてしまった。


「貴様ならば、ごく短期間で大きなレベルアップを果たすことができる。実力が上の相手を容赦なく屠る貴様の能力は貴重だ」

「まあ、たしかにジャイアントキリングは得意だけどさ」


 やはりというか、今更話題にもしないが、俺の悠久の時のことはこいつにしっかりバレているらしい。

 いつから気づかれていたのかはわからないが、たぶんソウルが言うもう一つの可能性というのは、この能力のことだろう。

 それにしても何だか嫌な予感がするな。


「私には知識がある。どこに上質・・のエサがあるのかが私にはわかる。喜べ。貴様に最高の狩場を教えてやる。そして私を導け。更なる高みに私を連れて行く。それが貴様を生かした意味、私が求めるものだ」

「なあ、今思ったんだけど、もしかして俺を鍛え上げるっていうの。戦い方を教えるとかじゃなくてさ、ただひたすら……」


 白銀の瞳が煌めき、俺は嫌な予感が正しいことを知る。

 レベルアップ。上質なエサ。鍛え上げる。

 これからの俺を待ち受けているものが何なのか、すでに大方予想がついていた。



「決まっているだろう? 私たちは生命を喰らう者ソウル・イーター。今から貴様には、最低限の力を手に入れるまで伝説級の魔物と戦い続けてもらう。戦い、勝利し、殺し、命を力に変える。それが私たちの強くなる唯一の手段なのだから」



 山脈の下から昇ってくる風に、何やら獣のような唸り声が乗っている。

 なぜか足下に感じるのは小さくない揺れ。マグニチュードはきっと6くらい。

 頭上の陽の光が何かに遮られ、そこから生まれた影は鳥のような形だが、どうも大きさが鷹や鷲では収まりきりそうになかった。




***

【Level:66/Ability:悠久の時イーオン・テンプス/Gift:嘆きの加護,憐みの加護,憂いの加護,狂気の呪い/Weapon:不治のポイズンアッシュ,不壊のファゴット】

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